22 / 24
第三の語り
03
しおりを挟む
4月13日
少し玲奈の様子が気になる。最近、あまり自分の部屋に入ろうとしない。壁のお友達の話も、あまりしなくなった。
それとなくあのお友達は最近どうなの、と訊いてみると、玲奈とおしゃべりしてくれなくなった、おかしくなっちゃった、と説明した。気にすることはないよ、と声は掛けたが、あまり響いていなさそうだ。
4月14日
昨夜、この日記を書き終えた後に妙なことがあった。一階からパタパタという音が聞こえたので、気になって見に行くと、黒い塊のようなものがキッチンに置かれており、それがぐにゃぐにゃと蠢いているのだった。思わず悲鳴を上げてしまったが、その塊はいつの間にか姿を消していた。
あれは何だったのだろうか。
一瞬はゴキブリかとも考えたが、それは違う。何かノソノソと動いていたのは確かだが、あれはゴキブリではない。そもそも生き物だったのだろうか。余りの気持ち悪さにまじまじと見ることは出来なかった為、あくまでもあいまいな感覚なのだが。黒い塊、としか言いようがないのだ。本当に気味が悪かった。
正行はのそのそと背中を曲げながら様子を見に来た。見間違いか何かだろうと解釈し、目をこすって寝室に引き返した。私も、現物が残っていない以上はあまり自信が持てないので、台所を一通り水拭きして就寝することにした。
4月16日
昨日は色々なことがあってこれを書けなかった。
順を追って説明すると、まず、学校帰りに玲奈が由美ちゃんを連れて来たのだ。この家に来た時から、態度が少しぎこちなかったのを覚えている。玲奈は居間で遊びたがったが、今日は客が来ていたので、少し躊躇った後に、玲奈の部屋で遊ぶことになった。
客が帰った後、17時を回っても降りてこない二人を心配して部屋を見に行くと、玲奈が呆然と座りこんでいるのだった。由美ちゃんの姿はない。
由美ちゃんはどうしたの、と訊いても玲奈は上の空で、放心状態といった様子だった。ひとまず家を捜索したが、由美ちゃんがいなかった。
玲奈に詳しく話を聞いてあげても。いつまで経っても玲奈はぽかんとしているだけで、最後は、壁、とだけ言って倒れてしまったのだ。
玲奈は救急車で運ばれ、一連の放心や気絶はショックによるものだと言われた。しばらく安静にしてから、事情を訊くのが良いだろうという話に最後はまとまった。
それにしても、あの子はどこに行ってしまったのだろうか。私は玄関の横の居間で客と話をしていたから、玄関に出入りがあれば気が付くはずなのだ。しかし、私の見ていた限りでは、玄関を出る気配はおろか、階段を降りる気配さえもなかったのだ。
私の視線をかいくぐって、というのなら話は別だが、普通に考えれば由美ちゃんはこの家の二階から出ていないはずなのだ。というより、窓からでも出ない限り、この家の外に出るのは不可能なのだ。
この家で、あの子は消えてしまった。そう考えるしかないのだ。
4月17日
玲奈は順調に回復している。
玲奈にゆっくりと話を聞いていると、徐々にその輪郭が掴めてきたのだった。
玲奈の言い分はこうだった。
遊んでいると、いきなり壁の向こうにいた人(もう玲奈は友達とはみなしていないらしい)が、手を伸ばして壁を飛び越え、由美ちゃんを壁の中に引きずり込んだのだという。
勿論娘のことは信じたいし、玲奈はそもそも人に嘘をつくような子ではない。受け答えをしている間も、嘘をついていると思わせるような素振りは見られなかった。
しかし、内容が余りにも突飛で、非科学的であるため、流石に全てを信じるのは難しい。
だが、ある意味で私は考えたのだ。
あの日、由美ちゃんは外だけでなく、一階に降りることさえなかった。行動範囲は二階だけ。窓から飛び降りたのでもなく、どこかに隠しているのでもないのなら、”壁の中ぐらいしか家から姿を消せ方法はない、と。
少々突飛な考えではあるのだが。
少し玲奈の様子が気になる。最近、あまり自分の部屋に入ろうとしない。壁のお友達の話も、あまりしなくなった。
それとなくあのお友達は最近どうなの、と訊いてみると、玲奈とおしゃべりしてくれなくなった、おかしくなっちゃった、と説明した。気にすることはないよ、と声は掛けたが、あまり響いていなさそうだ。
4月14日
昨夜、この日記を書き終えた後に妙なことがあった。一階からパタパタという音が聞こえたので、気になって見に行くと、黒い塊のようなものがキッチンに置かれており、それがぐにゃぐにゃと蠢いているのだった。思わず悲鳴を上げてしまったが、その塊はいつの間にか姿を消していた。
あれは何だったのだろうか。
一瞬はゴキブリかとも考えたが、それは違う。何かノソノソと動いていたのは確かだが、あれはゴキブリではない。そもそも生き物だったのだろうか。余りの気持ち悪さにまじまじと見ることは出来なかった為、あくまでもあいまいな感覚なのだが。黒い塊、としか言いようがないのだ。本当に気味が悪かった。
正行はのそのそと背中を曲げながら様子を見に来た。見間違いか何かだろうと解釈し、目をこすって寝室に引き返した。私も、現物が残っていない以上はあまり自信が持てないので、台所を一通り水拭きして就寝することにした。
4月16日
昨日は色々なことがあってこれを書けなかった。
順を追って説明すると、まず、学校帰りに玲奈が由美ちゃんを連れて来たのだ。この家に来た時から、態度が少しぎこちなかったのを覚えている。玲奈は居間で遊びたがったが、今日は客が来ていたので、少し躊躇った後に、玲奈の部屋で遊ぶことになった。
客が帰った後、17時を回っても降りてこない二人を心配して部屋を見に行くと、玲奈が呆然と座りこんでいるのだった。由美ちゃんの姿はない。
由美ちゃんはどうしたの、と訊いても玲奈は上の空で、放心状態といった様子だった。ひとまず家を捜索したが、由美ちゃんがいなかった。
玲奈に詳しく話を聞いてあげても。いつまで経っても玲奈はぽかんとしているだけで、最後は、壁、とだけ言って倒れてしまったのだ。
玲奈は救急車で運ばれ、一連の放心や気絶はショックによるものだと言われた。しばらく安静にしてから、事情を訊くのが良いだろうという話に最後はまとまった。
それにしても、あの子はどこに行ってしまったのだろうか。私は玄関の横の居間で客と話をしていたから、玄関に出入りがあれば気が付くはずなのだ。しかし、私の見ていた限りでは、玄関を出る気配はおろか、階段を降りる気配さえもなかったのだ。
私の視線をかいくぐって、というのなら話は別だが、普通に考えれば由美ちゃんはこの家の二階から出ていないはずなのだ。というより、窓からでも出ない限り、この家の外に出るのは不可能なのだ。
この家で、あの子は消えてしまった。そう考えるしかないのだ。
4月17日
玲奈は順調に回復している。
玲奈にゆっくりと話を聞いていると、徐々にその輪郭が掴めてきたのだった。
玲奈の言い分はこうだった。
遊んでいると、いきなり壁の向こうにいた人(もう玲奈は友達とはみなしていないらしい)が、手を伸ばして壁を飛び越え、由美ちゃんを壁の中に引きずり込んだのだという。
勿論娘のことは信じたいし、玲奈はそもそも人に嘘をつくような子ではない。受け答えをしている間も、嘘をついていると思わせるような素振りは見られなかった。
しかし、内容が余りにも突飛で、非科学的であるため、流石に全てを信じるのは難しい。
だが、ある意味で私は考えたのだ。
あの日、由美ちゃんは外だけでなく、一階に降りることさえなかった。行動範囲は二階だけ。窓から飛び降りたのでもなく、どこかに隠しているのでもないのなら、”壁の中ぐらいしか家から姿を消せ方法はない、と。
少々突飛な考えではあるのだが。
0
お気に入りに追加
1
あなたにおすすめの小説
百合ランジェリーカフェにようこそ!
楠富 つかさ
青春
主人公、下条藍はバイトを探すちょっと胸が大きい普通の女子大生。ある日、同じサークルの先輩からバイト先を紹介してもらうのだが、そこは男子禁制のカフェ併設ランジェリーショップで!?
ちょっとハレンチなお仕事カフェライフ、始まります!!
※この物語はフィクションであり実在の人物・団体・法律とは一切関係ありません。
表紙画像はAIイラストです。下着が生成できないのでビキニで代用しています。
クラスメイトの美少女と無人島に流された件
桜井正宗
青春
修学旅行で離島へ向かう最中――悪天候に見舞われ、台風が直撃。船が沈没した。
高校二年の早坂 啓(はやさか てつ)は、気づくと砂浜で寝ていた。周囲を見渡すとクラスメイトで美少女の天音 愛(あまね まな)が隣に倒れていた。
どうやら、漂流して流されていたようだった。
帰ろうにも島は『無人島』。
しばらくは島で生きていくしかなくなった。天音と共に無人島サバイバルをしていくのだが……クラスの女子が次々に見つかり、やがてハーレムに。
男一人と女子十五人で……取り合いに発展!?
ちょっと大人な体験談はこちらです
神崎未緒里
恋愛
本当にあった!?かもしれない
ちょっと大人な体験談です。
日常に突然訪れる刺激的な体験。
少し非日常を覗いてみませんか?
あなたにもこんな瞬間が訪れるかもしれませんよ?
※本作品ではPixai.artで作成した生成AI画像ならびに
Pixabay並びにUnsplshのロイヤリティフリーの画像を使用しています。
※不定期更新です。
※文章中の人物名・地名・年代・建物名・商品名・設定などはすべて架空のものです。
短な恐怖(怖い話 短編集)
邪神 白猫
ホラー
怪談・怖い話・不思議な話のオムニバス。
ゾクッと怖い話から、ちょっぴり切ない話まで。
なかには意味怖的なお話も。
※追加次第更新中※
YouTubeにて、怪談・怖い話の朗読公開中📕
https://youtube.com/@yuachanRio
45歳のおっさん、異世界召喚に巻き込まれる
よっしぃ
ファンタジー
2月26日から29日現在まで4日間、アルファポリスのファンタジー部門1位達成!感謝です!
小説家になろうでも10位獲得しました!
そして、カクヨムでもランクイン中です!
●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●
スキルを強奪する為に異世界召喚を実行した欲望まみれの権力者から逃げるおっさん。
いつものように電車通勤をしていたわけだが、気が付けばまさかの異世界召喚に巻き込まれる。
欲望者から逃げ切って反撃をするか、隠れて地味に暮らすか・・・・
●●●●●●●●●●●●●●●
小説家になろうで執筆中の作品です。
アルファポリス、、カクヨムでも公開中です。
現在見直し作業中です。
変換ミス、打ちミス等が多い作品です。申し訳ありません。
ママと中学生の僕
キムラエス
大衆娯楽
「ママと僕」は、中学生編、高校生編、大学生編の3部作で、本編は中学生編になります。ママは子供の時に両親を事故で亡くしており、結婚後に夫を病気で失い、身内として残された僕に精神的に依存をするようになる。幼少期の「僕」はそのママの依存が嬉しく、素敵なママに甘える閉鎖的な生活を当たり前のことと考える。成長し、性に目覚め始めた中学生の「僕」は自分の性もママとの日常の中で処理すべきものと疑わず、ママも戸惑いながらもママに甘える「僕」に満足する。ママも僕もそうした行為が少なからず社会規範に反していることは理解しているが、ママとの甘美な繋がりは解消できずに戸惑いながらも続く「ママと中学生の僕」の営みを描いてみました。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる