笑って。

れい

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笑って。

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ずっとずっと、キミのことを見ていたよ。


キミが初めて、息をしたとき。

私の指を、握ってくれたとき。

腕の中で、眠っているとき。

一人が寂しくて、突然大泣きしたとき。

小さな口で、ごはんを食べてくれたとき。

拙い声で、名前を呼んでくれたとき。

震える足で、歩けるようになったとき。

こけてしまって、大泣きしたとき。

好きなものを、選べるようになったとき。

知らない誰かに、間違えてついて行っちゃったとき。

おねしょをしちゃって、恥ずかしそうにしていたとき。

友達とケンカをして、怒って帰ってきたとき。

自転車に乗れて、嬉しそうにしていたとき。

いってきますと、学校に向かったとき。


キミとは少しずつ、一緒にいる時間が減って。

だけどそれでも、キミのことを見ているよ。


写真を嫌って、俯いた顔をしていたときも。

テストでいい点を取って、自慢してきたときも。

友達を連れて、はしゃぎながら帰ってきたときも。

宿題もしないで、ずっとゲームをしているときも。

面倒臭がって、ずるいことを思いついたときも。

怒られて拗ねて、部屋に篭ってしまったときも。


おかしいね。

他にもたくさんあったはずなのに、なんて事ないことばかり、思い出してしまうね。

それでもキミを見ていたことに、変わりはないけれど。


夢中になれるものを、見つけたときも。

嫌いな人の、文句を言うときも。

少しずつ帰りが、遅くなっていくときも。

言葉遣いがちょっとずつ、悪くなっていくときも。

実はこっそり好きな人が、できたときも。


ずっとずっと、見ていたよ。

いつまで傍で見ていられるか、分からないけど。


得意な運動を、がんばるときも。

苦手な勉強を、がんばるときも。

お腹いっぱい食べて、すぐに寝てしまうときも。

日付を越えて、帰ってきたときも。

朝早くに、出かけていくときも。


話す言葉も減っていって、それでもキミを、見ているよ。

いつか、一人で遠くに部屋を持って。

いつか、年に数回だけ、帰ってきて。

いつか、社会の仲間入りを果たして。

いつか、大事な人を、連れて帰ってきて。

いつか、誓いを交わすようになって。

いつか、守りたいものができて。


いつか、それも少しずつ、キミの手を離れて。


どこまで私は、見ていられるだろう。

どこまで私は、話を聞いてあげれるだろう。

それでも私は、ずっと見ているよ。

キミの行く末を、遠いいつの日か、私たちのところへ帰ってくるまで。


ずっとずっと、見ているよ。

だからだいじょうぶ。笑って。
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