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おかわり

メイド達は見た!

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「ねえねえ、聞いた?カパローニ侯爵家のアレッシア様のお話!」

 王城の洗濯室では今日もメイド達が貴族たちの噂話に花を咲かせながらせっせと手を動かしている。
 普段は目立たず、まるで風景の一部の様に溶け込んでいる彼女たち。仕事中に知り得てしまう情報は多々あれど、それを外に漏らしてしまう様な者はいない。しかし、内部に漏らす分には良いとばかりに、使用人だけの空間ではとにかく話が尽きない。

「聞いたわ~!ついにご婚約でしょう?でもお相手のサルチェ伯爵って誰?聞いたことある?」
「聞いたことなーい」
「エミリオ王太子殿下の側近の一人だって聞いたわよ」
「えー?どんな人?あの精霊姫の旦那になろうってんだから、相当な美丈夫なんでしょうね?」
「レオナルド様みたいな?」
「そうね、そのレベルでないと許されないわね」
「プッ!あんた何様なのよ~」
「「「「アハハハ」」」」

「ちょっと!口だけじゃなくて、手も動かしなさいよ!」

 話の盛り上がりと共に声がだんだん大きくなり、年嵩のメイド長からお叱りを受けてしまった年若いメイド達は、「はぁーい」と小さく返事をして各々手に持っていた洗濯物をせっせと洗い始める。
 そしてメイド長が去っていくのを一人が確認すると、誰からとなく再び話し始めた。

「ねぇ、アレッシア様と言えば、ミリアム様!正直驚かなかった?その、あまり似ていらっしゃらないなって!」
「そお?ご婚約式の時にご家族で並んでいらっしゃる所を見たけど、やっぱり所々似ていらっしゃったわよ?パーツが」
「パーツって!細かい!」
「まあ、でもとても可愛らしい方よね。どうもカパローニ家の他の方々と系統が違うから気付かなかっただけで、ミリアム様も相当な美少女には違いないわよ」
「どの道あたし達なんかとは雲泥の差よぉ~」
「違いないわね!」
「「「「アハハハ」」」」
「シッ!また怒られるわよ!」
「おっと、いけない」

 また盛り上がり声が大きくなってしまい、自重する。
 ――――バシャバシャ
 しばし無言で洗濯物と格闘する。

「レオナルド様ってなんでまだ婚約者すら決まってないの?」
「あれだけの美貌だとさすがのご令嬢方も気後れするんじゃない?」
「あ~、どこに行っても霞んじゃうもんね」
「「確かに~」」
「可哀想すぎる~」
「でもさ、浮いた噂の一つもないっておかしくない?レオナルド様だって健康な成人男性なのよー?」
「確かに」
「私、こないだ見ちゃったんだけどさ、イヴァン殿下の側近のディーノ様となんかコソコソお話されてたんだけどね、でもなんとなく、なんとなーくよ?ただの側近同士にしては距離が近い…んじゃないかなー?なんて!」
「私も見たー!二人で肩を組んでじゃれていらしたのよ!それはもう、親密に!」
「まさか!」

「「「「キャー♡」」」」

「コラ!あんた達!」
「「「「すみませーん」」」」



 ―――――――ハックション!
 レオナルドとディーノが同時にくしゃみをする。

「どうした?二人共風邪か?」
「うーん、季節の変わり目だからっすかね」
「おっさん臭いぞ。ディーノ」
「いや、俺とお前同い年だし」
「それで?ディーノはなんの用事だったか?」

 エミリオの言葉に「おっといけない!」と姿勢を正す。

「イヴァン殿下の謹慎が正式に解け、一月後に政務に復帰することとなりましたので、そのご報告に上がりましたっす!」
「そうか、あいつは息災か?」
「はい。離宮での生活で自分と充分向き合う時間が取れたっすからね。今はだいぶ立ち直って、少しずつ前向きになったところっすよ。いずれは公爵位を賜って領地を治めることになるっすから、最近は領地経営の勉強も始めたところっす」

 誘拐事件後、それまで塞ぎ込む一方だったイヴァンも少しずつ変わり始めたようで、異母兄のエミリオを臣下として支えるべく、前向きになり始めた。そんな姿を見て、現カパローニ侯爵フェルディナンドもイヴァンの罪を不問とした。なにより、当のアレッシアが罰を望まなかったのも大きい。
 そして、それを受けてイヴァンの王城への復帰が決まったのだ。
 その為、ディーノは最近離宮と王城を行ったり来たりで忙しい。しかし、弟の様に可愛がってきたイヴァンの王城復帰が余程嬉しかったのか、誰かと喜びを共有したい一心で王城で友人のレオナルドを見かける度に絡んでいた。

 それを目撃していたメイド達の話のタネにされているとも知らずに…。
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