62 / 86
第四章
脱出 3
しおりを挟む
「皆眠っているのか?こんなに大人数を、一体どうやって?」
ミリアムも疑問に思っていた事をイヴァンが尋ねる。
「なんてことない、ちょっとした幻術だよ。夢の中で楽しんでるんじゃないかなぁ。まあ、見せてるのは悪夢だけどね!アハハ」
そう言って愉しそうに笑うジルに、ミリアムとイヴァンは「やっぱコイツ信じられないかも…」と顔を顰めた。だが、そんな二人の心情も見透かすように、ジルは微笑みを崩さない。
「君たちって本当に顔に出るよね。それでよく今まで社交界で生きてこられたもんだ。よっぽど周りに守られてきたんだね」
二人は愛憎渦巻く社交界において、全くと言っていいほど悪意に晒されたことはなかった。(認識されないなどは日常茶飯事だが)
社交界に出る時、ミリアムには家族の誰かが、イヴァンには側近のディーノが必ず近くにいて、自分の及び知らぬところで密かに守ってきてくれたのだろう。
今頃になってそんな事に気付いた二人は無事に帰ることが出来たら、変わらなければと強く思った。今まで与えてもらってきたものを返していくためにも。
しばし無言で歩を進めていると、先頭を歩いていたジルが急に立ち止まり、「ちっ、もうバレちゃったか…」と呟くと抱きかかえていたロビンをミリアムに渡してきた。
「ねえ、王子サマ!剣術には自信があるんだったよね!サーベルでも大丈夫!?」
ジルはそう叫ぶと、ちょうど足元で倒れていた公爵家の私兵からサーベルを拝借し、イヴァンに投げ渡した。
「へ!?あ、ああ!任せておけ!」
突然投げ渡されたイヴァンは、慌ててそのサーベルを受け取ると素早く鞘から抜き、構える。
――――ドォォォォン!
次の瞬間、打撃音が響き渡ると数歩先の壁が崩れ、中から赤いローブを羽織った男が二人出てくる。一人は長身の青年、もう一人は小柄な少年だった。通路の先からは複数の足音が近付いて来ていた。
「あっれー?ジルベルト様、何をなさってるんですか?まさかの裏切りですか?」
小柄な少年は黒い紐飾りの付いた杖を持った腕にバチバチと電流を纏わせ、口元に笑みを浮かべながら近付いてくる。
「さあ?君たちが僕を仲間だと思っていたのなら、裏切りってことになるかもね」
ジルの言葉に少年は一瞬キョトンとした表情を浮かべ、そして再びニヤリと口元を歪ませる。
「あー、じゃあ裏切りじゃないのかぁ。最初から貴方は俺らの事なんて仲間って思ってなかったもんねー」
「おい、喋りすぎだ。いくぞ」
よく口が回る少年に対して、長身の青年は言葉少なに手にしていたロングソードを構えた。
「王子殿下か。お相手願おうか!」
「おいおい!王子と令嬢は生かしとけよ!」
殺気立つ長身の男に少年が慌てて声を掛けると、長身の男は「チッ」と舌打ちをし、「面倒くさいな」とボソリと呟いた。
「ミリアム嬢はその子供を連れてとにかく離れるんだ!」
「そんな!殿下は大丈夫なのですか!?」
「わからんが、やるしかないだろう!とにかく!私が心配なら頼むから離れていてくれ!守りながら戦える程には強くはないんだ!」
「お嬢サマ!そこの部屋は誰もいない!隠れてて!」
イヴァンの叫びとジルの指示に従って、ミリアムはロビンを抱え直すと近くの部屋の扉を開き、そこに飛び込んだ。
ミリアムが身を隠すのとほぼ同時に長身の男はイヴァンに向かって勢いよく剣を振り下ろし、少年は腕に纏わせた電流を鞭のようにしならせながらジルに突っ込んできた。
ミリアムも疑問に思っていた事をイヴァンが尋ねる。
「なんてことない、ちょっとした幻術だよ。夢の中で楽しんでるんじゃないかなぁ。まあ、見せてるのは悪夢だけどね!アハハ」
そう言って愉しそうに笑うジルに、ミリアムとイヴァンは「やっぱコイツ信じられないかも…」と顔を顰めた。だが、そんな二人の心情も見透かすように、ジルは微笑みを崩さない。
「君たちって本当に顔に出るよね。それでよく今まで社交界で生きてこられたもんだ。よっぽど周りに守られてきたんだね」
二人は愛憎渦巻く社交界において、全くと言っていいほど悪意に晒されたことはなかった。(認識されないなどは日常茶飯事だが)
社交界に出る時、ミリアムには家族の誰かが、イヴァンには側近のディーノが必ず近くにいて、自分の及び知らぬところで密かに守ってきてくれたのだろう。
今頃になってそんな事に気付いた二人は無事に帰ることが出来たら、変わらなければと強く思った。今まで与えてもらってきたものを返していくためにも。
しばし無言で歩を進めていると、先頭を歩いていたジルが急に立ち止まり、「ちっ、もうバレちゃったか…」と呟くと抱きかかえていたロビンをミリアムに渡してきた。
「ねえ、王子サマ!剣術には自信があるんだったよね!サーベルでも大丈夫!?」
ジルはそう叫ぶと、ちょうど足元で倒れていた公爵家の私兵からサーベルを拝借し、イヴァンに投げ渡した。
「へ!?あ、ああ!任せておけ!」
突然投げ渡されたイヴァンは、慌ててそのサーベルを受け取ると素早く鞘から抜き、構える。
――――ドォォォォン!
次の瞬間、打撃音が響き渡ると数歩先の壁が崩れ、中から赤いローブを羽織った男が二人出てくる。一人は長身の青年、もう一人は小柄な少年だった。通路の先からは複数の足音が近付いて来ていた。
「あっれー?ジルベルト様、何をなさってるんですか?まさかの裏切りですか?」
小柄な少年は黒い紐飾りの付いた杖を持った腕にバチバチと電流を纏わせ、口元に笑みを浮かべながら近付いてくる。
「さあ?君たちが僕を仲間だと思っていたのなら、裏切りってことになるかもね」
ジルの言葉に少年は一瞬キョトンとした表情を浮かべ、そして再びニヤリと口元を歪ませる。
「あー、じゃあ裏切りじゃないのかぁ。最初から貴方は俺らの事なんて仲間って思ってなかったもんねー」
「おい、喋りすぎだ。いくぞ」
よく口が回る少年に対して、長身の青年は言葉少なに手にしていたロングソードを構えた。
「王子殿下か。お相手願おうか!」
「おいおい!王子と令嬢は生かしとけよ!」
殺気立つ長身の男に少年が慌てて声を掛けると、長身の男は「チッ」と舌打ちをし、「面倒くさいな」とボソリと呟いた。
「ミリアム嬢はその子供を連れてとにかく離れるんだ!」
「そんな!殿下は大丈夫なのですか!?」
「わからんが、やるしかないだろう!とにかく!私が心配なら頼むから離れていてくれ!守りながら戦える程には強くはないんだ!」
「お嬢サマ!そこの部屋は誰もいない!隠れてて!」
イヴァンの叫びとジルの指示に従って、ミリアムはロビンを抱え直すと近くの部屋の扉を開き、そこに飛び込んだ。
ミリアムが身を隠すのとほぼ同時に長身の男はイヴァンに向かって勢いよく剣を振り下ろし、少年は腕に纏わせた電流を鞭のようにしならせながらジルに突っ込んできた。
0
お気に入りに追加
285
あなたにおすすめの小説
どうやら夫に疎まれているようなので、私はいなくなることにします
文野多咲
恋愛
秘めやかな空気が、寝台を囲う帳の内側に立ち込めていた。
夫であるゲルハルトがエレーヌを見下ろしている。
エレーヌの髪は乱れ、目はうるみ、体の奥は甘い熱で満ちている。エレーヌもまた、想いを込めて夫を見つめた。
「ゲルハルトさま、愛しています」
ゲルハルトはエレーヌをさも大切そうに撫でる。その手つきとは裏腹に、ぞっとするようなことを囁いてきた。
「エレーヌ、俺はあなたが憎い」
エレーヌは凍り付いた。
夫が寵姫に夢中ですので、私は離宮で気ままに暮らします
希猫 ゆうみ
恋愛
王妃フランチェスカは見切りをつけた。
国王である夫ゴドウィンは踊り子上がりの寵姫マルベルに夢中で、先に男児を産ませて寵姫の子を王太子にするとまで嘯いている。
隣国王女であったフランチェスカの莫大な持参金と、結婚による同盟が国を支えてるというのに、恩知らずも甚だしい。
「勝手にやってください。私は離宮で気ままに暮らしますので」
「あなたのことはもう忘れることにします。 探さないでください」〜 お飾りの妻だなんてまっぴらごめんです!
友坂 悠
恋愛
あなたのことはもう忘れることにします。
探さないでください。
そう置き手紙を残して妻セリーヌは姿を消した。
政略結婚で結ばれた公爵令嬢セリーヌと、公爵であるパトリック。
しかし婚姻の初夜で語られたのは「私は君を愛することができない」という夫パトリックの言葉。
それでも、いつかは穏やかな夫婦になれるとそう信じてきたのに。
よりにもよって妹マリアンネとの浮気現場を目撃してしまったセリーヌは。
泣き崩れ寝て転生前の記憶を夢に見た拍子に自分が生前日本人であったという意識が蘇り。
もう何もかも捨てて家出をする決意をするのです。
全てを捨てて家を出て、まったり自由に生きようと頑張るセリーヌ。
そんな彼女が新しい恋を見つけて幸せになるまでの物語。
挙式後すぐに離婚届を手渡された私は、この結婚は予め捨てられることが確定していた事実を知らされました
結城芙由奈
恋愛
【結婚した日に、「君にこれを預けておく」と離婚届を手渡されました】
今日、私は子供の頃からずっと大好きだった人と結婚した。しかし、式の後に絶望的な事を彼に言われた。
「ごめん、本当は君とは結婚したくなかったんだ。これを預けておくから、その気になったら提出してくれ」
そう言って手渡されたのは何と離婚届けだった。
そしてどこまでも冷たい態度の夫の行動に傷つけられていく私。
けれどその裏には私の知らない、ある深い事情が隠されていた。
その真意を知った時、私は―。
※暫く鬱展開が続きます
※他サイトでも投稿中
妹の妊娠と未来への絆
アソビのココロ
恋愛
「私のお腹の中にはフレディ様の赤ちゃんがいるんです!」
オードリー・グリーンスパン侯爵令嬢は、美貌の貴公子として知られる侯爵令息フレディ・ヴァンデグリフトと婚約寸前だった。しかしオードリーの妹ビヴァリーがフレディと一夜をともにし、妊娠してしまう。よくできた令嬢と評価されているオードリーの下した裁定とは?
君は僕の番じゃないから
椎名さえら
恋愛
男女に番がいる、番同士は否応なしに惹かれ合う世界。
「君は僕の番じゃないから」
エリーゼは隣人のアーヴィンが子供の頃から好きだったが
エリーゼは彼の番ではなかったため、フラれてしまった。
すると
「君こそ俺の番だ!」と突然接近してくる
イケメンが登場してーーー!?
___________________________
動機。
暗い話を書くと反動で明るい話が書きたくなります
なので明るい話になります←
深く考えて読む話ではありません
※マーク編:3話+エピローグ
※超絶短編です
※さくっと読めるはず
※番の設定はゆるゆるです
※世界観としては割と近代チック
※ルーカス編思ったより明るくなかったごめんなさい
※マーク編は明るいです
最愛の側妃だけを愛する旦那様、あなたの愛は要りません
abang
恋愛
私の旦那様は七人の側妃を持つ、巷でも噂の好色王。
後宮はいつでも女の戦いが絶えない。
安心して眠ることもできない後宮に、他の妃の所にばかり通う皇帝である夫。
「どうして、この人を愛していたのかしら?」
ずっと静観していた皇后の心は冷めてしまいう。
それなのに皇帝は急に皇后に興味を向けて……!?
「あの人に興味はありません。勝手になさい!」
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる