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第四章

脱出 1

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 ◇


「だから!女性に子供を抱きかかえながら歩けなどと言えるわけがないだろう!男手があるんだから頼れば良いではないか!君は強情だな!」
「男手と言えど、殿下にお願いするわけには参りません!ロビンはわたくしが抱えて行きます!」
「くぁーっ!今は身分がどうこう言っている場合ではないだろう!」

 眠っているロビンをどちらが抱きかかえて行くかでミリアムとイヴァンはまた揉めている。
 そんな二人にジルは呆れた視線を送りながら無言でロビンを抱きかかえる。

「はいはい。そこで揉めるなら僕が連れてくよ。身分的にも一番下だしね?」

 スタスタと先に部屋を出ていくジルに慌てて二人はついて行く。

「この公爵の邸はね、無駄に広いんだよ。邸って言うよりちょっとした城だね。だから脱出までにちょっと時間もかかるんだ。なにせ空間転移が使えないから自分の足で歩かないといけない。立ち止まってる暇はないよ」

 辺りを警戒しながらジルは歩を進める。ミリアムとイヴァンも素直にそれに従うが、それを見てジルは溜息をつく。

「…君たちはもう少し警戒心を持った方がいいよ。いや、僕が言うのも本当に本当にどうかと思うんだけどさ!でも一国の王子サマと王子サマの婚約者サマがそんなに簡単に他人を信用してはいけないよ。僕なんて今まで君たちに悪いことしかしてないでしょ?」

 本当にどの口が言うかという発言なのだが、ミリアムもイヴァンも「その通りだな…」と気まずそうに顔を見合わせる。末っ子の二人は今まで家族や兄姉に守られていた分、警戒心がやや薄い。
 先程まで警戒していたはずのジルの後を、もう既に疑うこともなく、まるで雛鳥の様に素直に付いて歩いていた。
 その様子にジルはこの国の行く末に一抹の不安を感じ、言える立場では到底無いのだが、思わず忠告してしまった。

「…まったく、放っておけないっていうのは、ある意味最強かもね…」

 ジルはボソリと呟くと、肩を竦めながらも前に進む。いくつかあるサンタンジェロ公爵の別邸のうち、王都から半刻程の場所にあるこの邸は、かつては王族の離宮として建てられたものだ。それ故に造りとしては邸というより城のそれだった。
 高くそびえる城壁の四つ角に物見の役目を果たす塔、中心部に高さの違う3つの塔がそびえる、一番低い塔は主たるサンタンジェロ公爵の私室など、二番目に高い塔は備蓄庫、そして現在地の一番高い塔はかつては罪を犯した王族を幽閉しておく為の塔だった。そして低層部がその周りを囲むように建つ。
 この別邸の城壁内は空間転移を阻害する結界が敷かれている為、外から入るにも中から出るにも空間転移は使えない。

 エミリオ達に送った手紙通り、闇夜に紛れて敷地外に出るには急がなければならない。見回りの教団員や公爵家の私兵に出会わなければ良いのだが…と、階下へと向う階段まで来た所で周囲の気配を探った。

「うーん、やっぱり下の階に行くと結構いるよなぁ。男だけなら窓から行くところだけど、お嬢サマに熟睡した坊やまでいるとなると無理だなぁ」

 ジルは自身の額に手を当てて、トントンと軽く指で叩きながらブツブツと独りごちる。

「うん!やっぱ進むしかないだろうね」

 考えが纏まったようで、クルリと後ろを振り返ると、抱きかかえていたロビンをイヴァンに渡す。

「取りあえず下の階の奴らを眠らせてくるから、君たちはここで待ってて」

 一人で行くと言うジルにイヴァンが食い下がる。

「私も多少なら戦えるぞ?剣術の稽古は欠かしたことはないんだ!」

 イヴァンの言葉にジルは「うーん」と悩む素振りをして、それから笑顔を向ける。

「いざとなったら頼むけど、取りあえずは邪魔だからいらないかな!坊やとお嬢サマをよろしくね」

 そう言うと颯爽と階下への階段を降りていった。
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