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第四章
レオナルドの報告
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◇
現在ベアトリーチェの邸ではエルフの如き美貌の次期侯爵が正座させられている。
他でもない、彼が愛してやまない妹の手によってだ。
「ミリィすまなかった!お兄様が悪かったから、許してくれ!」
「いいえ、お兄様!どこの世界に妹とその婚約者の外出の様子を監視する方がいらっしゃいますの?しかも救国の魔女様方のお力を使ってまで!」
未だ怒りの冷めやらぬ妹に許しを乞う親友に、エミリオは助け舟を出すつもりで話を振る。
「レオ、ベアトリーチェ様と調べた事を報告してもらえるか?ミリアムもそろそろいいかな?」
「友よ…」
おもむろに立ち上がろうとした兄にミリアムは睨みをきかす。が、あまり迫力はない。
(きっとレオを睨んでいるつもりなのだろうな…。まったく、先ほどから仔犬が拗ねている様で可愛いだけなんだが。連れて帰ってもいいかな?いや、むしろ連れて帰るか?ならば金剛宮の私の部屋の近くに部屋を…)
「おい。何か良からぬ事を考えているだろう!?」
「いや、何の事だかさっぱり」
「だいたいお前がこそこそとミリィを連れ出したりするからだな!」
「お兄様!」
詰め寄るレオナルドに目を逸らすエミリオ。そんな兄に更に怒るミリアムに、救国の魔女三人は笑いが止まらない。
「ほんと飽きないわー」
「なかなか面白いものを見せてもらったな」
「まぁまぁ、覗き見してたからすぐ助けに行けたんだし、いいじゃないのぉ。それに、やっぱり現実の恋物語を見てた方が面白いのよねぇ」
「小説もそれはそれで面白いんだがな」
嬉々としてその力を提供したであろう魔女たちにもミリアムは“キッ”と厳しい目を向ける。
「あーこわいこわい。ほらロビン、ミリィに遊んでもらいなさい」
「わぁい。ミリィお姉さん!またお庭の植物を教えてくれる?」
「もちろんよ。ロビン!皆様、話は終わっていませんからね!」
ミリアムとロビンが庭園に出ていくと、一同はテラスの円卓を囲み、レオナルドとベアトリーチェの報告を聞くことにした。
◇
「俺とベアトリーチェ様が調べていたのは王城の入城記録です」
「入城記録?」
「そうよぉ。今回の襲撃はエミルを狙ったものだったでしょぉ?今エミルがいなくなって一番得するのは誰かしらぁ?」
「第二王子派っすね。イヴァン殿下の王位継承権はまだ剥奪されてないっすから」
「第二王子派でも特にイヴァン殿下と血縁関係のあるサンタンジェロ公爵は、殿下が王位についた暁には裏で操る気が見え隠れしていました。さぞ口惜しかったでしょう。それこそエミル、お前を亡き者にしようと考えるくらいには」
レオナルドの言葉にエミリオは眉間に皺を作り、神妙な面持ちとなる。
「それで、ここ数ヶ月サンタンジェロ公爵が登城している日に登城した者を調べてみた所、必ず同じ日に登城している人物が数名。いずれも翡翠宮にあるサンタンジェロ公爵の執務室に用事があると」
「そして、その中の一人にいたのよぉ」
まさか、と一同が顔を上げる。
「サヴェリオ・ランベルト・ロ・フェリーネ伯爵。ジルベルトの父親だ」
「最初に現れたのは今から3~4ヶ月くらい前かしらねぇ」
「【真・救国神教】の動きが王都で目立ち始めた頃か…」
「その頃に公爵と伯爵の間で何かやり取りがあったのだろうか?」
レオナルドは手元の資料をパラパラと捲り、目当てのページを捜す。
「サンタンジェロ公爵邸の人の出入りに関しても調査したが、こちらに出入りしていた取り巻きの中にもフェリーネ伯爵がいたらしいな」
「【真・救国神教】はあたしたち救国の魔女が邪魔だった。サンタンジェロ公爵はイヴァンに王位を継承させる為にエミルが邪魔だった。そして最近のあたしたちはガッツリ第一王子派と思われても仕方ない程にはエミルに入れ込んで見える」
「ミリィとエミルの観察が面白いだけだがな」
最近、ベアトリーチェたち三人の救国の魔女の元に第一王子エミリオが足繁く通っている為、(実際にはベアトリーチェの所に強制召喚されたミリアムが目当てだが)救国の魔女が第一王子派についたと見る者は多い。
魔女は政には決して口を出しはしないが、国民誰もが知る国の象徴のようなものだ。その上、カパローニ家との婚約話が浮上し、焦った公爵が元々救国の魔女を入れ替えようと画策していた謎の団体と結託して、救国の魔女と第一王子両方を排除しようとしてきたとしても不思議はない。
「フェリーネ伯爵は彼の祖父の時代に侯爵から降格して伯爵となった事を周囲に嘆いていたそうだ。いつか侯爵家として復興するとも」
「つまり、協力したらイヴァン殿下が国王になった暁には、侯爵に戻してやるとか言う取引があったんじゃないっすかね?」
「恐らくそんな所だろうな。って、先程から気にはなっていたんだが、ディーノ…」
「どうかしたか?レオ」
「イヴァン殿下の側近のお前が第一王子にこんなに関わって大丈夫なのか?」
レオナルドに指摘されたディーノは頬をポリポリと掻きながら苦笑した。
「もう成り行きだな。それに、殿下…イヴァン自身はもう王位は望んでない。俺はあいつのやりたい様にやらせてやりたいだけだ」
「そうか…」
二人のやり取りを見ていたエミリオは、一つ年下の異母弟に想いを馳せた。
少年時代はお互い派閥の事など気にもせずよく遊んだ。それを周囲の者がよく思っていなくても関係なかった。
少し浅慮な所もあったが、素直で可愛い異母弟だった。
いつの頃からか、イヴァンの元に公爵が頻繁に通うようになり、エミリオとの対立を煽るようになった。
会えない日が続く様になり、素直だったイヴァンはだんだんと卑屈になっていき、エミリオをあからさまに敵視する様になった。恐らく毎日の様にエミリオと比較して貶めるような言葉をかけられたのだろう。
己の野心の為にそんなやり方をする公爵が許せなかった。
「それじゃぁ、まず【真・救国神教】を叩いて、証拠を掴んでぇ、それから公爵にお仕置きってことでいいかしらぁ?」
いつものと同じ華のような笑顔を浮かべたベアトリーチェの言葉に一同は頷いた。
現在ベアトリーチェの邸ではエルフの如き美貌の次期侯爵が正座させられている。
他でもない、彼が愛してやまない妹の手によってだ。
「ミリィすまなかった!お兄様が悪かったから、許してくれ!」
「いいえ、お兄様!どこの世界に妹とその婚約者の外出の様子を監視する方がいらっしゃいますの?しかも救国の魔女様方のお力を使ってまで!」
未だ怒りの冷めやらぬ妹に許しを乞う親友に、エミリオは助け舟を出すつもりで話を振る。
「レオ、ベアトリーチェ様と調べた事を報告してもらえるか?ミリアムもそろそろいいかな?」
「友よ…」
おもむろに立ち上がろうとした兄にミリアムは睨みをきかす。が、あまり迫力はない。
(きっとレオを睨んでいるつもりなのだろうな…。まったく、先ほどから仔犬が拗ねている様で可愛いだけなんだが。連れて帰ってもいいかな?いや、むしろ連れて帰るか?ならば金剛宮の私の部屋の近くに部屋を…)
「おい。何か良からぬ事を考えているだろう!?」
「いや、何の事だかさっぱり」
「だいたいお前がこそこそとミリィを連れ出したりするからだな!」
「お兄様!」
詰め寄るレオナルドに目を逸らすエミリオ。そんな兄に更に怒るミリアムに、救国の魔女三人は笑いが止まらない。
「ほんと飽きないわー」
「なかなか面白いものを見せてもらったな」
「まぁまぁ、覗き見してたからすぐ助けに行けたんだし、いいじゃないのぉ。それに、やっぱり現実の恋物語を見てた方が面白いのよねぇ」
「小説もそれはそれで面白いんだがな」
嬉々としてその力を提供したであろう魔女たちにもミリアムは“キッ”と厳しい目を向ける。
「あーこわいこわい。ほらロビン、ミリィに遊んでもらいなさい」
「わぁい。ミリィお姉さん!またお庭の植物を教えてくれる?」
「もちろんよ。ロビン!皆様、話は終わっていませんからね!」
ミリアムとロビンが庭園に出ていくと、一同はテラスの円卓を囲み、レオナルドとベアトリーチェの報告を聞くことにした。
◇
「俺とベアトリーチェ様が調べていたのは王城の入城記録です」
「入城記録?」
「そうよぉ。今回の襲撃はエミルを狙ったものだったでしょぉ?今エミルがいなくなって一番得するのは誰かしらぁ?」
「第二王子派っすね。イヴァン殿下の王位継承権はまだ剥奪されてないっすから」
「第二王子派でも特にイヴァン殿下と血縁関係のあるサンタンジェロ公爵は、殿下が王位についた暁には裏で操る気が見え隠れしていました。さぞ口惜しかったでしょう。それこそエミル、お前を亡き者にしようと考えるくらいには」
レオナルドの言葉にエミリオは眉間に皺を作り、神妙な面持ちとなる。
「それで、ここ数ヶ月サンタンジェロ公爵が登城している日に登城した者を調べてみた所、必ず同じ日に登城している人物が数名。いずれも翡翠宮にあるサンタンジェロ公爵の執務室に用事があると」
「そして、その中の一人にいたのよぉ」
まさか、と一同が顔を上げる。
「サヴェリオ・ランベルト・ロ・フェリーネ伯爵。ジルベルトの父親だ」
「最初に現れたのは今から3~4ヶ月くらい前かしらねぇ」
「【真・救国神教】の動きが王都で目立ち始めた頃か…」
「その頃に公爵と伯爵の間で何かやり取りがあったのだろうか?」
レオナルドは手元の資料をパラパラと捲り、目当てのページを捜す。
「サンタンジェロ公爵邸の人の出入りに関しても調査したが、こちらに出入りしていた取り巻きの中にもフェリーネ伯爵がいたらしいな」
「【真・救国神教】はあたしたち救国の魔女が邪魔だった。サンタンジェロ公爵はイヴァンに王位を継承させる為にエミルが邪魔だった。そして最近のあたしたちはガッツリ第一王子派と思われても仕方ない程にはエミルに入れ込んで見える」
「ミリィとエミルの観察が面白いだけだがな」
最近、ベアトリーチェたち三人の救国の魔女の元に第一王子エミリオが足繁く通っている為、(実際にはベアトリーチェの所に強制召喚されたミリアムが目当てだが)救国の魔女が第一王子派についたと見る者は多い。
魔女は政には決して口を出しはしないが、国民誰もが知る国の象徴のようなものだ。その上、カパローニ家との婚約話が浮上し、焦った公爵が元々救国の魔女を入れ替えようと画策していた謎の団体と結託して、救国の魔女と第一王子両方を排除しようとしてきたとしても不思議はない。
「フェリーネ伯爵は彼の祖父の時代に侯爵から降格して伯爵となった事を周囲に嘆いていたそうだ。いつか侯爵家として復興するとも」
「つまり、協力したらイヴァン殿下が国王になった暁には、侯爵に戻してやるとか言う取引があったんじゃないっすかね?」
「恐らくそんな所だろうな。って、先程から気にはなっていたんだが、ディーノ…」
「どうかしたか?レオ」
「イヴァン殿下の側近のお前が第一王子にこんなに関わって大丈夫なのか?」
レオナルドに指摘されたディーノは頬をポリポリと掻きながら苦笑した。
「もう成り行きだな。それに、殿下…イヴァン自身はもう王位は望んでない。俺はあいつのやりたい様にやらせてやりたいだけだ」
「そうか…」
二人のやり取りを見ていたエミリオは、一つ年下の異母弟に想いを馳せた。
少年時代はお互い派閥の事など気にもせずよく遊んだ。それを周囲の者がよく思っていなくても関係なかった。
少し浅慮な所もあったが、素直で可愛い異母弟だった。
いつの頃からか、イヴァンの元に公爵が頻繁に通うようになり、エミリオとの対立を煽るようになった。
会えない日が続く様になり、素直だったイヴァンはだんだんと卑屈になっていき、エミリオをあからさまに敵視する様になった。恐らく毎日の様にエミリオと比較して貶めるような言葉をかけられたのだろう。
己の野心の為にそんなやり方をする公爵が許せなかった。
「それじゃぁ、まず【真・救国神教】を叩いて、証拠を掴んでぇ、それから公爵にお仕置きってことでいいかしらぁ?」
いつものと同じ華のような笑顔を浮かべたベアトリーチェの言葉に一同は頷いた。
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