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第二章

カパローニ三兄妹と第一王子

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 カパローニ邸ではサロンで王子と三兄妹が卓を囲んでいた。
 エルフの如き美貌の次期侯爵レオナルド、社交界の華と謳われる精霊姫アレッシア、儚く可憐なまぼろし姫ミリアム(誤解)、側近のせいで影の薄い第一王子エミリオ(悲惨)。
 眩しいほどの美貌の二人に少々あっさり味の二人のお茶会は何となく不穏な空気を醸し出していた。

(この二人は意外に合わないタイプなのかしら?)

 ミリアムは落ち着かない気持ちでティーカップに口をつける。先程から姉アレッシアと第一王子エミリオが何故か火花を散らしているからだ。

「それで?殿下は本日一体どういったご用件でいらっしゃったのですか?もう一度お聞かせいただけますでしょうか?」
「いや、だからな、ミリアム嬢が息災かと気になってだな…」

 アレッシアの凍るような視線を一身に受け、エミリオは恐縮していた。

「なぜですの?婚約している訳でもない令嬢の様子など気にかける必要はないのでは?それになんです?ミリアム嬢などと名前で呼ぶなんて、いらぬ誤解を与えるような行為はお控え下さいませ」

 捲し立てるアレッシアに立つ瀬のないエミリオ。ミリアムはハラハラと、レオナルドはニヤニヤ笑いながら面白そうにその様子を見ている。

「その、なんだ、彼女は得難い同志なんだ。だから様子が気になってだな」
「ですから、なんですの?その同志と言うのは。そんなよくわからないものに妹を巻き込まないで下さいませ」

 アレッシアはニコリとも笑わずティーカップに口をつける。

「あのお姉様、名前に関しては殿下に許可を求められて、わたくしが了承しましたの。ですから殿下は悪くありませんわ」
「殿下ではなくどうかエミリオと呼んでくれないか、ミリアム嬢」

 エミリオは擁護に回ったミリアムの手を取り、そっと口づけた。
 次の瞬間物凄い勢いでレオナルドが二人の間に割って入り、アレッシアがミリアムの手を手巾で拭く。

「自分の名を呼ぶことを強要した上に手に口づけなんて!なんて破廉恥な!嘆かわしいですわ!」
「可愛いミリィを汚さないでもらえるか!」

 自国の第一王子を容赦なく睨みつける美貌の二人に、エミリオは一瞬たじろぐ。

「おい!レオは一体どっちの味方なんだ!」
「俺は世界を敵に回してもシアとミリィの味方だ!」
「じゃあなんで連れてきたんだよ!?」

 エミリオは自分を邸に招いておきながら、いざ妹と交流しようとすると見事に掌を返した親友に思わず詰め寄った。

「お、お兄様、お姉様!不敬が過ぎますわ!」

 何故か争いを始めてしまった兄と姉にミリアムは焦って立ち上がり、今度はレオナルドとエミリオの間に入る。

「ああ!やはり同志だ!私の味方は君だけだ!ミリアム!」

 エミリオは感極まって名前を呼び捨てにし、ミリアムの両手を取る。

「あの殿下!手を…」
「エミリオだ。エミリオと呼んでくれ!」
「エ、エミリオ様…」

 両手を握られ、名前を呼ばされ、恥ずかしさのあまりにミリアムが頬を染めて俯き、その様子を見たレオナルドとアレッシアが二人を引き離そうと立ち上がった瞬間、突如現れた暁色の魔法陣に包まれ、ミリアムとエミリオは忽然と姿を消してしまう。空間転移の魔法陣だ。

「ミリアム!?ミリアムが消えてしまったわ!お兄様!」

 空間転移の魔法を初めて見たアレッシアは目の前で妹が消えてしまい愕然とする。
 レオナルドは暁色の魔法陣からベアトリーチェだと推測し、恐らくエミリオを召喚したものにミリアムが巻き込まれたと判断した。

「落ち着くんだシア。今のは中央の魔女ベアトリーチェ様の空間転移の魔法だ」
「中央の魔女様の?なぜミリアムが?」

「たぶんエミルを召喚したんだろう。ミリィの手を握っていた為に巻き込まれたんだ。城で何かあったのかもしれないから、俺もすぐに登城する。ミリィを見つけたらすぐに馬車で邸に帰すから、父上と母上に報告を頼めるか?」

 昨日報告を受けた異世界転移者の件で進展があったのだと予想し、仕事の顔になったレオナルドに、アレッシアも不測の事態が起きたことを理解し、頷く。

「畏まりましたわ。くれぐれもミリアムのことをお願い致しますわね。それではわたくしお父様とお母様に報告に行ってまいります。お兄様も、お気を付けて」
「ああ、任せて。報告よろしく頼む」

 そう言うと、二人はすぐに行動を開始した。


 ◇


 時は少々遡り、ベアトリーチェの邸では3人の救国の魔女と異世界転移者ロビン少年が円卓を囲んでいた。

「ロビンおいしい?あらぁ、ホッペに付いてるわよぉ。うふふ」
「ありがとうリーチェお姉さん!」

 口元を拭ってもらったロビンは満面の笑みでベアトリーチェにお礼を言う。

「可愛いわ!可愛いわぁ!たくさん食べなさいねぇ」

 幼いロビンの虜になっているベアトリーチェを余所にヴァレリアとエレオノーラは今回の件について話し合っていた。

「時空転移の魔法陣に赤いローブの集団か…もう少し情報が欲しいところだな」
「ロビンの記憶はその部分だけ不鮮明なのよ。記憶を操作して、本人はその部分を思い出せないようにしているのが原因ね」
「何が狙いだと思う?」

 エレオノーラの問いにヴァレリアは目を閉じて考え込む。

(赤いローブの者たちは何と言っていた?)


『子供じゃないか…しかも男か』


(子供ではダメだった、しかも男だとどうにもならない?子供でも女ならどうにかなると言うこと?)

(奴らが欲しかったのはある程度の年齢以上の女?何かに使うためだとしたら、身元がわからないほうが都合がいい…)

(でもそれだけだったら、わざわざ時空転移を使う必要はない。だとすると、狙いは異世界の女…?)

 ヴァレリアはゆっくり目を開け、ティーカップに口をつける。

「奴らの狙いは恐らく異世界の女ね。目的はまだよくわからない」

 エレオノーラはふむと顎を擦る。

「時空転移の魔法陣を使うとなると、付け焼き刃の知識ではまず無理だろう。魔力も相当量必要だ。犯人の中にはかなり魔法に精通している人物がいる事は間違いない。ある程度の人数もいるはずだ」
「全員同じ赤いローブを着てた。該当する団体はある?」
「その辺りは担当している者に確認した方がいいな。ついでに異世界転移者の担当者も呼ぼう。誰か知ってるか?」
「両方エミルよぉー」

 一応話は聞いていたらしいベアトリーチェが話に加わる。

「じゃあ、ちゃっちゃと呼び出すわよ!」
「はいはい。任せてちょうだいな」

 ベアトリーチェは杖を取り出すと何もない空間に向けてクルクルとそれを大きく回した。
 暁色の光が魔法陣を描き出し、辺りを光が包み込むと、中から両手を取り合ったエミリオとミリアムが現れた。何が起きたのかわからないと言う表情の二人を見て3人は一瞬瞠目したが、次の瞬間にはニヤニヤしながら目配せをする。

「何よ、逢い引きでもしてたわけ?」
「フッ、若いな」
「ごめんねぇ、お邪魔だったわねぇ」

 エミリオとミリアムは魔女たちの言葉に慌てて手を離す。

「これは!違うんだ!逢い引きではない!」
「そうです!わたくしの邸でお茶を飲んでいただけで!」

 何やら言い訳をしている二人を見て、3人は更に面白くなる。

「へぇーミリィの邸でお茶なんて、随分親しいじゃなーい?」
「お茶をしていただけ?手を取り合って?」
「仲良しねぇ」
「お兄様とお姉様もおりました!」
「はいはい、そういう事にしておくわよ」
「誤解ですわーーーー」

 ついに叫びだしたミリアムに「冗談よ」とベアトリーチェが声をかけ、落ち着きを取り戻した所で本題に入ることにした。
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