8 / 12
7 決別1
しおりを挟む
かつての親友からの心ないメールから数日。
あの日、自らの内側に溜め込んでいたモヤモヤしたものを、壱岐が全て受け止めてくれた。
だからなのか、由希子はスッキリとした気持ちで仕事に打ち込み、周囲からも雰囲気が変わったと評判も上々だった。
元恋人と元親友の結婚話や、メールの事など、まるで何事もなかったかのように穏やかな金曜日を迎えた。
いつも通りチョコレートを買おうと壱岐の働くコンビニを訪れた。
「由希子さん、いらっしゃい」
由希子に気付くと嬉しそうに壱岐が手招きをする。
「どうしたの?」
「あのさ、今日もう上がれるんだ。由希子さんがチョコ選んでる間に帰り支度してくるから一緒に帰らない?」
「わかった。じゃあ、選んでるね」
壱岐をスタッフルームに見送り、由希子はチョコレートの陳列されたエリアへ向かう。
それとほぼ同時に一人の男性が店内に入ってきたが、気にせずチョコレートを手に取り、吟味し始めた由希子にその男性が近づいてきた。
「相変わらずチョコレートが好きなんだな」
「はい?」
親し気に話しかけられ訝し気に振り替えり、その顔を見た由希子は驚愕で固まった。
「…良哉」
そこにいたのは三年前に親友と共に自分を裏切った元恋人だった。
「久しぶり。元気だったか?」
良哉がここにいることもそうだが、何事もなかったかのように話しかけられた事に由希子は困惑する。
「…何しに来たの?」
胡乱な目を向けると、良哉は小さく肩を竦めた。
「あいつからメール来ただろ?お前が無視するから直接来た。正直まだ住んでるかわかんなかったけど、コンビニに入ってくお前を見つけられてよかったよ」
「そんなの、ここで話す事じゃない。出るわよ」
何となく、良哉を壱岐に会わせたくなくて店を出た。かと言って良哉と二人でどこか店に入るのも気が引けてコンビニの駐車場の隅で向かい合う。
「なあ、なんで無視するんだよ。あいつ返事が来ないって落ち込んでるんだぞ」
「…意味が分からないからよ。結婚でもなんでも勝手にすればいいでしょ?私には関係ない」
そう告げると由希子は良哉から目を逸らす。その言葉に良哉は嘆息する。
「いい加減許してくれよ。地元に帰らないのも誰とも連絡取らないのも嫌がらせか?俺たちが周りから白い目で見られんのはお前がいつまでも意地張って被害者ヅラしてるからだろ?」
あんまりな言い分に由希子は驚愕で声が出せず、良哉を睨みつけた。
「あの頃は俺だって寂しかったんだよ。仕方ないだろ?お前はいいよな!大手の企業に内定もらって、意気揚々と上京していった!俺を置いて!俺だって東京の本社に行けるって言われて頑張ってたけど、だんだん仕事もうまくいかなくなって、それも難しくなってた。なのに会う度に、電話する度に東京で一緒に暮らしたいだのなんだの…正直もう辛かったんだよ。そんな時に傍にいてくれたのはお前じゃなくて、あいつだったんだ」
「だったらそう言えばよかったでしょう。あの子と付き合うなら付き合うで、ちゃんと私と別れてからにしたら何の問題もなかったじゃない!」
由希子は思わず声を荒げ、良哉に食って掛かった。
「悪かったよ。でもお前、俺のことすごく好きだっただろ?だから言えなかったんだよ。別に今だって嫌いなわけじゃない」
そう言うと、怪しい笑みを浮かべた良哉は一歩踏み込んだ。
「なぁ、あいつに内緒でこっそりやり直さないか?お前、あの頃よりずっと綺麗になったよ。正直、驚いたんだ。今だったらお互い仕事も生活も落ち着いてるし、何より別れたくて別れたわけじゃないんだし。俺たち上手くやれると思わないか?」
良哉は由希子の肩に手をかけ、その頬に触れながら耳元で囁いてきた。
あの日、自らの内側に溜め込んでいたモヤモヤしたものを、壱岐が全て受け止めてくれた。
だからなのか、由希子はスッキリとした気持ちで仕事に打ち込み、周囲からも雰囲気が変わったと評判も上々だった。
元恋人と元親友の結婚話や、メールの事など、まるで何事もなかったかのように穏やかな金曜日を迎えた。
いつも通りチョコレートを買おうと壱岐の働くコンビニを訪れた。
「由希子さん、いらっしゃい」
由希子に気付くと嬉しそうに壱岐が手招きをする。
「どうしたの?」
「あのさ、今日もう上がれるんだ。由希子さんがチョコ選んでる間に帰り支度してくるから一緒に帰らない?」
「わかった。じゃあ、選んでるね」
壱岐をスタッフルームに見送り、由希子はチョコレートの陳列されたエリアへ向かう。
それとほぼ同時に一人の男性が店内に入ってきたが、気にせずチョコレートを手に取り、吟味し始めた由希子にその男性が近づいてきた。
「相変わらずチョコレートが好きなんだな」
「はい?」
親し気に話しかけられ訝し気に振り替えり、その顔を見た由希子は驚愕で固まった。
「…良哉」
そこにいたのは三年前に親友と共に自分を裏切った元恋人だった。
「久しぶり。元気だったか?」
良哉がここにいることもそうだが、何事もなかったかのように話しかけられた事に由希子は困惑する。
「…何しに来たの?」
胡乱な目を向けると、良哉は小さく肩を竦めた。
「あいつからメール来ただろ?お前が無視するから直接来た。正直まだ住んでるかわかんなかったけど、コンビニに入ってくお前を見つけられてよかったよ」
「そんなの、ここで話す事じゃない。出るわよ」
何となく、良哉を壱岐に会わせたくなくて店を出た。かと言って良哉と二人でどこか店に入るのも気が引けてコンビニの駐車場の隅で向かい合う。
「なあ、なんで無視するんだよ。あいつ返事が来ないって落ち込んでるんだぞ」
「…意味が分からないからよ。結婚でもなんでも勝手にすればいいでしょ?私には関係ない」
そう告げると由希子は良哉から目を逸らす。その言葉に良哉は嘆息する。
「いい加減許してくれよ。地元に帰らないのも誰とも連絡取らないのも嫌がらせか?俺たちが周りから白い目で見られんのはお前がいつまでも意地張って被害者ヅラしてるからだろ?」
あんまりな言い分に由希子は驚愕で声が出せず、良哉を睨みつけた。
「あの頃は俺だって寂しかったんだよ。仕方ないだろ?お前はいいよな!大手の企業に内定もらって、意気揚々と上京していった!俺を置いて!俺だって東京の本社に行けるって言われて頑張ってたけど、だんだん仕事もうまくいかなくなって、それも難しくなってた。なのに会う度に、電話する度に東京で一緒に暮らしたいだのなんだの…正直もう辛かったんだよ。そんな時に傍にいてくれたのはお前じゃなくて、あいつだったんだ」
「だったらそう言えばよかったでしょう。あの子と付き合うなら付き合うで、ちゃんと私と別れてからにしたら何の問題もなかったじゃない!」
由希子は思わず声を荒げ、良哉に食って掛かった。
「悪かったよ。でもお前、俺のことすごく好きだっただろ?だから言えなかったんだよ。別に今だって嫌いなわけじゃない」
そう言うと、怪しい笑みを浮かべた良哉は一歩踏み込んだ。
「なぁ、あいつに内緒でこっそりやり直さないか?お前、あの頃よりずっと綺麗になったよ。正直、驚いたんだ。今だったらお互い仕事も生活も落ち着いてるし、何より別れたくて別れたわけじゃないんだし。俺たち上手くやれると思わないか?」
良哉は由希子の肩に手をかけ、その頬に触れながら耳元で囁いてきた。
0
お気に入りに追加
23
あなたにおすすめの小説
今宵、薔薇の園で
天海月
恋愛
早世した母の代わりに妹たちの世話に励み、婚期を逃しかけていた伯爵家の長女・シャーロットは、これが最後のチャンスだと思い、唐突に持ち込まれた気の進まない婚約話を承諾する。
しかし、一か月も経たないうちに、その話は先方からの一方的な申し出によって破談になってしまう。
彼女は藁にもすがる思いで、幼馴染の公爵アルバート・グレアムに相談を持ち掛けるが、新たな婚約者候補として紹介されたのは彼の弟のキースだった。
キースは長年、シャーロットに思いを寄せていたが、遠慮して距離を縮めることが出来ないでいた。
そんな弟を見かねた兄が一計を図ったのだった。
彼女はキースのことを弟のようにしか思っていなかったが、次第に彼の情熱に絆されていく・・・。
選ばれたのは美人の親友
杉本凪咲
恋愛
侯爵令息ルドガーの妻となったエルは、良き妻になろうと奮闘していた。しかし突然にルドガーはエルに離婚を宣言し、あろうことかエルの親友であるレベッカと関係を持った。悔しさと怒りで泣き叫ぶエルだが、最後には離婚を決意して縁を切る。程なくして、そんな彼女に新しい縁談が舞い込んできたが、縁を切ったはずのレベッカが現れる。
【完結】愛に裏切られた私と、愛を諦めなかった元夫
紫崎 藍華
恋愛
政略結婚だったにも関わらず、スティーヴンはイルマに浮気し、妻のミシェルを捨てた。
スティーヴンは政略結婚の重要性を理解できていなかった。
そのような男の愛が許されるはずないのだが、彼は愛を貫いた。
捨てられたミシェルも貴族という立場に翻弄されつつも、一つの答えを見出した。
亡くなった王太子妃
沙耶
恋愛
王妃の茶会で毒を盛られてしまった王太子妃。
侍女の証言、王太子妃の親友、溺愛していた妹。
王太子妃を愛していた王太子が、全てを気付いた時にはもう遅かった。
なぜなら彼女は死んでしまったのだから。
【完結】君は強いひとだから
冬馬亮
恋愛
「大丈夫、君は強いひとだから」
そう言って、あなたはわたくしに別れを告げた。
あなたは、隣でごめんなさいと涙を流す彼女の肩を抱く。
そして言うのだ。
「この子は僕が付いてないと生きていけないから」と。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる