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第三章
59 不愉快な噂話
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ラッシュブルック公爵家の自身の執務室にて、アリソンはとある報告書に目を通していた。読み進めるごとに眉根を寄せて。
「なるほどね。やってくれるわね」
パッと報告書を机の上に放ると、少し冷めてしまったお茶を飲む。
廊下からバタバタと駆け寄ってくる足音が聞こえ、ノックと同時に扉が開く。
「ノックの意味なしね。ウィン」
「すまん。それより、不愉快な噂話が出回ってるぞ」
「そのようね」
ウォーレンはその日、寄宿学校時代の友人たちと合うために、中央区にある貴族男性だけの会員制サロンに顔を出していた。
そこで友人の一人が婚約者から聞いたと言う噂話を話題に出した。
―――『どっかの辺境のご令嬢が王都に出てきたみたいでさ、それがまるで人形とか妖精の様な美少女らしいんだ』
『へえ、それは一度は会ってみたいな』
『でもさ、そのご令嬢、辺境の領地に結婚が決まってる恋人がいるらしいんだけど、ずっと辺境にいたもんだから結婚前に一度は王都で遊び回りたいって言って、男を漁りに来たらしい』
『はは、冗談だろ?』
『それが、そうでもないみたいでさ。デビュタントの時は他のご令嬢と交流もせず、男とばかりダンスをしてたって。あとは、俺の婚約者の知り合いのご令嬢は、危うく恋人を取られそうになって、慌てて婚約したとか…』
『本当の話なのか?まあ、でもそんなに美しいご令嬢で、後腐れもないなら一度くらい遊んでもいいかなぁ』
『おい、お前本気か?婚約者に言いつけるぞ?』
『ははは、冗談だよ。勘弁してくれ。あれ?ウォーレンどうしたんだ?帰るのか?』
『…ああ、くだらない噂話をする気はないからな』
『おい、何怒ってるんだ?おい!また連絡するからなー』―――
サロンを飛び出したウォーレンは、その足でラッシュブルック公爵邸へとやってきた。
「ロザリンド嬢に関する根も葉もない噂話が広まっている。しかも不愉快極まりない内容の」
「そのようね。わたくしのところにもさっき報告が上がってきたわ。恐らく…」
「ノース伯爵令嬢の仕業か」
「令嬢一人の力にしては話の広まり方が早いのよね。たぶん、父親のノース伯爵も一枚噛んでいそうよ」
「ロザリンド嬢本人の耳に入る前にどうにかしてやれないか?」
「…本人の耳には、先日のお茶会でもう入ったみたい。全く気にした様子もないみたいだけど」
「そうか、ん?誰に聞いたんだ?」
「ルークからの報告よ」
「ルークってあのアランドルベルムで拾った?」
「そう」
なぜルークがアリソンに報告を?アリソンとルークの関係がわからず、ウォーレンは不思議そうに頭をひねる。
その様子を見てアリソンは思わず「ふっ」と笑った。
「今、彼はわたくしの所で研修中なの。パスカリーノ卿に頼まれてね。もともと、そういう仕事もしてたみたいで、筋がいいわ。人々の懐に入り込みやすいあの年の頃もいいわね」
「信用できるやつなのか?俺はあいつに気絶させられたんだぞ?」
「あら軟弱ね。大丈夫よ。そういう事も含めての研修だから」
「…詳しく聞くのは控えておこう。でもあまり危ない事はさせるなよ。ロザリンド嬢のお気に入りだからな」
「ふふ、もちろんよ。パスカリーノ卿はゆくゆくはローザの護衛をさせつつ、裏のお仕事もさせたいみたいね。次期パスカリーノ辺境伯はなかなかのやり手よ?仲良くなれそう」
「いつものぽやっとした空気からは想像がつかないな。まあ、危険地帯も多くある辺境伯はそれくらいでないと務まらないのか…」
いつもタウンハウスを訪ねると、庭でマルコムと戯れているか、読書をしている妻をニコニコと見つめている、ロザリンドの兄のブラッドリーを思い浮かべ、ウォーレンは首を傾げるが、『次期辺境伯』と同じ教育を受けたロザリンドの多芸ぶりを思い出し、ただのぽやっとした人物であるわけがないと納得した。
「それはさておき、ノース伯爵令嬢は何か直接動いてくるか?」
「そうね…。あるとしたら来月の王城の舞踏会かしらね?」
「…ロザリンド嬢のエスコートは俺がする」
「お兄様が許して下さるかしら?」
「今日から毎日頼み込むさ」
「じゃあ、そちらはお願いね。時間がないわ。いろいろと証拠を揃えて、…叩きのめしてあげないとね」
「なるほどね。やってくれるわね」
パッと報告書を机の上に放ると、少し冷めてしまったお茶を飲む。
廊下からバタバタと駆け寄ってくる足音が聞こえ、ノックと同時に扉が開く。
「ノックの意味なしね。ウィン」
「すまん。それより、不愉快な噂話が出回ってるぞ」
「そのようね」
ウォーレンはその日、寄宿学校時代の友人たちと合うために、中央区にある貴族男性だけの会員制サロンに顔を出していた。
そこで友人の一人が婚約者から聞いたと言う噂話を話題に出した。
―――『どっかの辺境のご令嬢が王都に出てきたみたいでさ、それがまるで人形とか妖精の様な美少女らしいんだ』
『へえ、それは一度は会ってみたいな』
『でもさ、そのご令嬢、辺境の領地に結婚が決まってる恋人がいるらしいんだけど、ずっと辺境にいたもんだから結婚前に一度は王都で遊び回りたいって言って、男を漁りに来たらしい』
『はは、冗談だろ?』
『それが、そうでもないみたいでさ。デビュタントの時は他のご令嬢と交流もせず、男とばかりダンスをしてたって。あとは、俺の婚約者の知り合いのご令嬢は、危うく恋人を取られそうになって、慌てて婚約したとか…』
『本当の話なのか?まあ、でもそんなに美しいご令嬢で、後腐れもないなら一度くらい遊んでもいいかなぁ』
『おい、お前本気か?婚約者に言いつけるぞ?』
『ははは、冗談だよ。勘弁してくれ。あれ?ウォーレンどうしたんだ?帰るのか?』
『…ああ、くだらない噂話をする気はないからな』
『おい、何怒ってるんだ?おい!また連絡するからなー』―――
サロンを飛び出したウォーレンは、その足でラッシュブルック公爵邸へとやってきた。
「ロザリンド嬢に関する根も葉もない噂話が広まっている。しかも不愉快極まりない内容の」
「そのようね。わたくしのところにもさっき報告が上がってきたわ。恐らく…」
「ノース伯爵令嬢の仕業か」
「令嬢一人の力にしては話の広まり方が早いのよね。たぶん、父親のノース伯爵も一枚噛んでいそうよ」
「ロザリンド嬢本人の耳に入る前にどうにかしてやれないか?」
「…本人の耳には、先日のお茶会でもう入ったみたい。全く気にした様子もないみたいだけど」
「そうか、ん?誰に聞いたんだ?」
「ルークからの報告よ」
「ルークってあのアランドルベルムで拾った?」
「そう」
なぜルークがアリソンに報告を?アリソンとルークの関係がわからず、ウォーレンは不思議そうに頭をひねる。
その様子を見てアリソンは思わず「ふっ」と笑った。
「今、彼はわたくしの所で研修中なの。パスカリーノ卿に頼まれてね。もともと、そういう仕事もしてたみたいで、筋がいいわ。人々の懐に入り込みやすいあの年の頃もいいわね」
「信用できるやつなのか?俺はあいつに気絶させられたんだぞ?」
「あら軟弱ね。大丈夫よ。そういう事も含めての研修だから」
「…詳しく聞くのは控えておこう。でもあまり危ない事はさせるなよ。ロザリンド嬢のお気に入りだからな」
「ふふ、もちろんよ。パスカリーノ卿はゆくゆくはローザの護衛をさせつつ、裏のお仕事もさせたいみたいね。次期パスカリーノ辺境伯はなかなかのやり手よ?仲良くなれそう」
「いつものぽやっとした空気からは想像がつかないな。まあ、危険地帯も多くある辺境伯はそれくらいでないと務まらないのか…」
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「それはさておき、ノース伯爵令嬢は何か直接動いてくるか?」
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「…ロザリンド嬢のエスコートは俺がする」
「お兄様が許して下さるかしら?」
「今日から毎日頼み込むさ」
「じゃあ、そちらはお願いね。時間がないわ。いろいろと証拠を揃えて、…叩きのめしてあげないとね」
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