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第三章
57 アリソンがやった事
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時を同じくして、ラッシュブルック公爵家の馬車にて。
「久しぶりの外出はどう?ローザ」
「うん、そうね。少し気分が晴れたかも」
トマスの帰宅後、アリソンとウォーレンが、籠りがちなロザリンドを外に連れ出そうと、タウンハウスを訪ねてきていた。
「ロザリンド嬢、腹は減ってないか?上手い焼き菓子を持ってきているんだ。ほら」
「焼き菓子!ありがとうウォーレン様!」
ウォーレンから満面の笑みで焼き菓子を受け取るロザリンド。そしてわずかに頬を赤らめながら、その様子を見ているウォーレン。しかし、ロザリンドは手にした焼き菓子に夢中で、その熱い視線には一切気づいていない。
「ああ!ほら、急いで食べるから口の端に付いているぞ。まったく手がかかるご令嬢だな」
「だって美味しいんだもの」
子供の様に、口の端に菓子クズをつけて焼き菓子を頬張るロザリンド。そして甲斐甲斐しくその世話をするウォーレン。ここ最近、この光景をよく見ているアリソンは吹き出しそうになるのを堪え、恋する相手に振り向いてもらうべく、あくせく働く従兄と、それにまったく気付かない親友の温度差を楽しんでいた。
「それにしても、最近ウォーレン様はよくお菓子をくれるのね。パーカー公爵家の料理人がお菓子作りがハマっているの?」
「いや、ロザリンド嬢が喜ぶから…」
「またまた~。食べきれなくって持ってきてくれてるんでしょ?いつもありがとう!喜んで処理に付き合うわ!」
「うぐっ!…笑顔が可愛くて辛い。そして伝わらない…」
「え?何?声が小さくて聞こえなかったわ?」
「いや、なんでもない…」
「ぶふっ!もうダメ!なんて可哀想なのウィン!あはは!」
お腹を抱えて笑い出したアリソンに、キョトンと首を傾げたロザリンドは、何かに思い当たったのか、ポンッと右手を左手の掌に打ち付ける。
「あ!もしかして、本当はウォーレン様も焼き菓子が食べたいのね!?でも甘い物が好きだと言いづらくて!ごめんなさい!一緒に食べましょうよ!好きな物を好きと言うのは恥ずかしい事ではないわよ?」
「いや、俺が好きなのは焼き菓子じゃなくてだな」
「あー!もうやめて頂戴!面白すぎて涙が出るわ」
3人が談笑する馬車は西区の大通りをラッシュブルック公爵邸へと向けて走っていた。そこで1台の馬車とすれ違い、ファインズ侯爵家のそばを通りかかった時、ロザリンドは表情が一瞬硬くなり、手を強く握り込んだ。
アリソンとウォーレンはそれに気づかないふりをして、努めて明るく振る舞った。
その日、ラッシュブルック公爵邸で3人でお茶をして、笑顔でロザリンドが帰宅すると、アリソンとウォーレンは、アリソンの執務室に移動した。
「で、アリーは何かしたのか?」
「ふふ、トマス卿にプレゼントを贈ったわ」
「プレゼント?」
「そう、情報と不信感というプレゼントよ」
「なんだそれ?」
アリソンは謎の差出人“A”として、トマスにジュリアのした事をすべて記載した手紙を送った事をウォーレンに話した。「何かのイタズラ」とは思えない程に、詳細に綴った手紙を。
「でも、それだとトマス卿には何の罰も与えられないじゃないか」
「そうかしら?忌々しいと思う相手と婚姻を結び、生涯を共にしなければならないのはそれなりに苦痛よ。何も知らなければ、まあ、それなりに愛せたかもしれないけど、相手への猜疑心と、何もしなかった自分への自責の念と、ただただ流されてしまった後悔と、マイナスな気持ちに支配されて今後生きていくのは一体どんな気分かしらね?ふふふ、もう考えただけで…ね」
「怖っ」
「ノース伯爵令嬢も、結婚はしてもらえるのだからいいじゃない。まあ、愛される事はないでしょうけど。味方のいない邸の中でどんな素敵な生活が待っているのかしらね?」
「本当に怖いやつだよ…」
「わたくしのお気に入りに手を出したのが悪いのよ。でもすごく寛大な処置だと思うけど。まあ、次に何かしたらただじゃおかないわ」
アリソンはウォーレンを見上げると冷たく微笑んだ。
「久しぶりの外出はどう?ローザ」
「うん、そうね。少し気分が晴れたかも」
トマスの帰宅後、アリソンとウォーレンが、籠りがちなロザリンドを外に連れ出そうと、タウンハウスを訪ねてきていた。
「ロザリンド嬢、腹は減ってないか?上手い焼き菓子を持ってきているんだ。ほら」
「焼き菓子!ありがとうウォーレン様!」
ウォーレンから満面の笑みで焼き菓子を受け取るロザリンド。そしてわずかに頬を赤らめながら、その様子を見ているウォーレン。しかし、ロザリンドは手にした焼き菓子に夢中で、その熱い視線には一切気づいていない。
「ああ!ほら、急いで食べるから口の端に付いているぞ。まったく手がかかるご令嬢だな」
「だって美味しいんだもの」
子供の様に、口の端に菓子クズをつけて焼き菓子を頬張るロザリンド。そして甲斐甲斐しくその世話をするウォーレン。ここ最近、この光景をよく見ているアリソンは吹き出しそうになるのを堪え、恋する相手に振り向いてもらうべく、あくせく働く従兄と、それにまったく気付かない親友の温度差を楽しんでいた。
「それにしても、最近ウォーレン様はよくお菓子をくれるのね。パーカー公爵家の料理人がお菓子作りがハマっているの?」
「いや、ロザリンド嬢が喜ぶから…」
「またまた~。食べきれなくって持ってきてくれてるんでしょ?いつもありがとう!喜んで処理に付き合うわ!」
「うぐっ!…笑顔が可愛くて辛い。そして伝わらない…」
「え?何?声が小さくて聞こえなかったわ?」
「いや、なんでもない…」
「ぶふっ!もうダメ!なんて可哀想なのウィン!あはは!」
お腹を抱えて笑い出したアリソンに、キョトンと首を傾げたロザリンドは、何かに思い当たったのか、ポンッと右手を左手の掌に打ち付ける。
「あ!もしかして、本当はウォーレン様も焼き菓子が食べたいのね!?でも甘い物が好きだと言いづらくて!ごめんなさい!一緒に食べましょうよ!好きな物を好きと言うのは恥ずかしい事ではないわよ?」
「いや、俺が好きなのは焼き菓子じゃなくてだな」
「あー!もうやめて頂戴!面白すぎて涙が出るわ」
3人が談笑する馬車は西区の大通りをラッシュブルック公爵邸へと向けて走っていた。そこで1台の馬車とすれ違い、ファインズ侯爵家のそばを通りかかった時、ロザリンドは表情が一瞬硬くなり、手を強く握り込んだ。
アリソンとウォーレンはそれに気づかないふりをして、努めて明るく振る舞った。
その日、ラッシュブルック公爵邸で3人でお茶をして、笑顔でロザリンドが帰宅すると、アリソンとウォーレンは、アリソンの執務室に移動した。
「で、アリーは何かしたのか?」
「ふふ、トマス卿にプレゼントを贈ったわ」
「プレゼント?」
「そう、情報と不信感というプレゼントよ」
「なんだそれ?」
アリソンは謎の差出人“A”として、トマスにジュリアのした事をすべて記載した手紙を送った事をウォーレンに話した。「何かのイタズラ」とは思えない程に、詳細に綴った手紙を。
「でも、それだとトマス卿には何の罰も与えられないじゃないか」
「そうかしら?忌々しいと思う相手と婚姻を結び、生涯を共にしなければならないのはそれなりに苦痛よ。何も知らなければ、まあ、それなりに愛せたかもしれないけど、相手への猜疑心と、何もしなかった自分への自責の念と、ただただ流されてしまった後悔と、マイナスな気持ちに支配されて今後生きていくのは一体どんな気分かしらね?ふふふ、もう考えただけで…ね」
「怖っ」
「ノース伯爵令嬢も、結婚はしてもらえるのだからいいじゃない。まあ、愛される事はないでしょうけど。味方のいない邸の中でどんな素敵な生活が待っているのかしらね?」
「本当に怖いやつだよ…」
「わたくしのお気に入りに手を出したのが悪いのよ。でもすごく寛大な処置だと思うけど。まあ、次に何かしたらただじゃおかないわ」
アリソンはウォーレンを見上げると冷たく微笑んだ。
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