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第三章

50 不自然な情報

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 数日後、パスカリーノ辺境伯家タウンハウスにアリソンとウォーレンが訪ねてきた。
 ロザリンドから遅れること数日、領地から戻ってきて、ロザリンドがタウンハウスの自室に籠もり、落ち込み続けていると聞いた為だ。

「何があったの?ローザ…」
「アリー…うっ」

 自室の窓辺に置いてある一人がけの椅子に、膝を抱えながら小さく丸まって座っていたロザリンドにアリソンが声をかけると、ロザリンドは見る見るうちにその大きな瞳を涙で濡らした。

「ト、トマス様とジュリア様が…」
「ゆっくりでいいから、聞かせてちょうだい?」
「うん」

 ロザリンドの背中を擦りながら、アリソンは一人がけの椅子の肘掛け部分に腰を下ろした。
 ロザリンドは小さく深呼吸すると、数日前に起きた事をゆっくり話し始めた。

「なるほどね。領地から帰ってみたら、トマス卿とノース伯爵令嬢がなぜか婚約していて、エドワードが人間と勘違いされていて、その上ノース伯爵令嬢には絶交された…と」
「うん…もう、何がなんだか分からなくて。ジュリア様は、仲良しのお友達だと思ってたのに、そんな風に思ってたなんて…。手紙の一つも来ないなんて、想い合っているって言えないと言われて、わたくし何も返せなかったわ。実際にトマス様から手紙は1通も来ていなかったんだもの」
「でも、ローザが送っていた手紙も届いていなかったのでしょう?何かあったのかしら?」
「そうなのよ…。わたくし、毎日手紙を出したのに、どうしてかしら?」

 手紙の件を聞き、アリソンが何か考え込んでいる。ロザリンドは「チーン!」と勢いよく鼻をかみ、「慎みはどこに置いてきた?」とウォーレンに言われていた。
 やがて何かに思い当たったらしいアリソンは、ロザリンドの背中を優しく擦った後、スッと立ち上がった。

「調べる事が出来たから、今日はこれでお暇するわね。ウィンは置いていくから、心置きなく愚痴をこぼしてちょうだいな。その前にウィン、ちょっと来て」
「え?ちょ、おいアリー?」

 アリソンはウォーレンの手を引き、廊下に連れ出した。

「なんだよ?」
「おかしいと思わない?ローザの手紙がトマス卿に1通も届いていない事は、トマス卿からノース伯爵令嬢に伝わっていたとしても、トマス卿が“出した”と言っているローザへの手紙が、1通もローザの所に届いていない事を、どうしてノース伯爵令嬢が知っているのかしら?」
「…確かに。トマス卿側の情報しか知らないはずと仮定すると、トマス卿が把握していなかった“手紙がロザリンド嬢に届いていない”と言う事実を、ノース伯爵令嬢が知っているのは不自然だな」
「わたくし、その辺りを調べさせてみるわ。ローザをよろしくね」
「わかった」

 話を終えるとアリソンは足早にラッシュブルック公爵邸に戻っていった。
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