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第三章

46 様子が変

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 ロザリンドは王都に着いた翌日、先触れを出してトマスに会いに行った。
 アランドルベルムのお土産を胸に、領地での出来事、ジェームズに婚約の話が出来なかったことなど、話したいことがたくさんあった。

「…こちらでお待ち下さい」

 ファインズ侯爵家の執事に応接室へと案内されたロザリンドは、邸内の雰囲気がいつもと違うことに違和感を覚えた。

「どうしたのかしら?なんだか、今日はみんなよそよそしい感じ…」

 いつもならロザリンドが訪ねてくると、みんな温かく迎えてくれていた。積極的に話しかけては来ないものの、目が合えば微笑んで挨拶してくれたのだが、今日はみんな俯きがちで目すら合わない。誰も微笑んでもくれなかった。
 いつもにこやかな老齢の執事にも、感情のない声でここまで案内された。

「みんなお腹でも痛いのかしら?冬なのに食あたり?」

 ロザリンドが微妙にズレたことを考えていると、トマスがやってきた。
 久しぶりに会うトマスの姿に、ロザリンドは嬉しくて飛びついたが、トマスは飛びついてきたロザリンドの腕をやんわりと外し、スッと離れた。

「やあ、久しぶり。…元気そうだね。座ったら?」

 トマスはロザリンドと目を合わさずに、一人がけの椅子に腰掛ける。
 いつもなら長椅子に二人で隣り合って座っていたので、これにはロザリンドも「あれ?」と首を傾げた。

「今日は何かな?」
「え?あ、トマス様にお土産を持ってきたの。あと、お話したいことがたくさんあって…」
「そう。じゃあ座ったら?どうぞ」

 ロザリンドは勧められたテーブルを挟んだ向かいの席へと腰掛けた。「いつもなら隣に座るのに…」と不思議に思ったが、気を取り直してアランドルベルムのお土産をトマスに手渡した。
 アランドルベルムの街で見つけた、馬の形をしたタイタック。ロザリンドと同じエメラルドが瞳にあしらわれていて、まるであの日贈ってくれたロザリンドの宝物のブローチと対のようだと即決した。

「これ、お土産なの。開けてみて!」

 ロザリンドからそれを受け取ったトマスは、包みを開けて一瞥すると、すぐに執事に渡した。

「…ありがとう」
「あ…、うん」

 絶対に喜んでくれると思っていたロザリンドは、トマスの素っ気無い態度に内心落胆した。

「で、話って何?」
「あ、えと、婚約の…事なんだけどね。実はお父様には話せなかったの…その、いろいろとタイミングが悪くて…」
「ああ、そんなこと…」

 トマスから発せられた「そんなこと」と言う言葉に、ロザリンドは「えっ?」と一瞬言葉を失った。

「もう、そんな必要はないよ。
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