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第二章

41 君は辺境伯令嬢

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「やっぱりあったわ!長さも十分ね。よかった!」


 ロザリンドはガサゴソと物置部屋の中を物色し始めると、どこからか糸、綱、紐、火かき棒を持って来た。

「そんなもの、何に使う気だ?」
「うん?うん、あーそうね、上手くいくといいんだけど…」
「おい……適当に返事するな」
「……うんうん」

 ウォーレンの問いかけに適当に答えながら、ロザリンドは紐と綱を結ぶと、今度は糸と紐を結ぶ。
 懐から小袋を取り出すと、中から折り畳み式のクロスボウを取り出し、矢筈に糸の端を結びつけた。

「よし、出来た!次は……」

 メモと万年筆を取り出したロザリンドは、そこにサラサラと何かを書き、それを矢に括り付ける。作業を終え、窓の外を確認すると、丁度対岸にルークが到着した所だった。大きく手を振るロザリンドに、ルークも苦笑しながら手を振り返す。ロザリンドは身振り手振りで横に除けるように指示を出すと、クロスボウを構える。
 対岸は建物の立っているこちらよりも低くなっているが、ルークの手が届く位置の木を狙って引き金を引いた。


 ――――パシュッ!


 矢の刺さる音がすると、ルークの横にあった木の幹に見事に矢が刺さっていた。先ほど括り付けたメモを見つけると、ルークはそれを取り外し、内容を確認する。


『矢についてる糸を引っ張って、綱になったら木にしっかり縛って固定して。絶対に外れないようにね!』


「矢についてる糸?これか?」

 木に刺さった矢の矢筈に付けられた糸を手に取ると、手を上げてロザリンドに合図を送り、それを引っ張り始めた。

 合図を受けたロザリンドは、ルークが糸を引く速度に合わせて糸→紐→綱とゆっくり確実に送り出す。それを見ていたウォーレンは対岸のルークを見て慌て出した。

「おい!あいつ俺を気絶させた奴じゃないか!」

 ロザリンドに詰め寄ると、ロザリンドは眉を上げてチラリとウォーレンを見たが、すぐ視線を戻す。

「大丈夫よ。わたくしが探偵助手として雇うことにしたから」
「すまない、微塵も訳がわからない。君は辺境伯令嬢であって、探偵ではないから助手はいらないよな?」
「あーもう!後でちゃんと説明するわよ。とにかく今は黙ってて!」
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