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第二章

40 救出

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「それじゃあ改めて、行ってくるわ。あ、ゲイリーは何をしてた?」

 無事に情報収集を終えたルークが戻ってきた。ウォーレンの身元を明かしたにも関わらず、未だ物置部屋に押し込められているらしい。それを聞いたロザリンドは「一応あの人公爵家の人間なんだけどねぇ」と苦い表情をしつつ、「ま、その方が見つかりづらそうだし、都合がいいわね!ラッキー」と最終的には笑顔になった。

「大丈夫。昼食にちょっと睡眠薬を混ぜ込んでみたから今頃夢の中だよ。あいつ一番最初に食事するからね」
「やるわね、ルーク。じゃあ、私が出たら扉に鍵をして対岸に向かってくれる?見たところ近くに橋があるから、渡れるわよね?」
「対岸?ああ、敷地の入口近くに橋があるけど、なんで?」
「上手く行けば一気に脱出できるかなっと思って。まあ、とりあえずお願いね!」
「よくわからないけど、わかったよ」

 ロザリンドからの謎のお願いに戸惑いつつも、ルークは頷いた。
 その表情を確認したロザリンドは、窓枠に足をかけ、ヒョイっとそれを乗り越えると一階部分の屋根に降り立った。幅1メートルにも満たない狭さと、斜めの足場などものともせず、ウォーレンのいる物置部屋を目指して、その屋根の上を走り出す。どういう訓練を受けたのか、足音はほとんどしない。

「……こりゃあ完全に『』ではないな。あ!僕も行かなくちゃね」

 その姿を、上から見ていたルークは瞠目し、口はしばしポカンと開けたままになっていたが、気を取り直すと、指示通り部屋に鍵をかけ、峡谷の対岸へと向かった。


 ◆



「よっ!と、着いたわ!」

 ひょいひょいと危なげなく屋根をつたって、物置部屋の上までやってきたロザリンド。いつものドレス姿ではなく、乗馬服に身を包んでいたことが功を奏した。そのまま下半身を屋根の上に残し、上半身を乗り出して、窓から中の様子を確認した。雑多な物置部屋はさほど広くなく、無造作に置かれた荷物の中に、足の拘束だけは外されたウォーレンが項垂れて座っていた。どうやら中に見張りはいないようだと確認したロザリンドは、「コンコンコン」と静かに窓を叩いた。

「…!」

 その音でロザリンドの存在に気づいたウォーレンは、逆さまの状態で窓から覗いている姿に驚愕したが、何とか声を上げそうになるのを我慢し、窓に近付いた。
 ロザリンドは「は・な・れ・て」と口の動きだけで伝えると、予め出しておいたブーツの隠しナイフを窓の隙間に差し込み、スッ上に持ち上げて内側のあおり止めを外して、窓を開けると身体を翻して物置部屋に侵入した。

「怪我はないかしら?ウォーレン様」
「それはこっちのセリフだ。き、君はやること為すこと、いつも規格外だな」
「そう?」

 そんな事を言いつつもホッとした表情を見せるウォーレン。目立った怪我も無いようで、ロザリンドも一安心すると、持っていたナイフでウォーレンの手の拘束を解き、再びナイフを踵に隠した。それを見ていたウォーレンは「俺はもう、こいつに関しては何も言わない。何も見てない」とブツブツ呟き、ブーツの隠しナイフは見なかったことにした。
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