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第二章

34 誘拐

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「こうなったら本人に決めてもらおう!どっちの馬に乗りたい!?」
「どっちなの!?」
「ええ……?じゃあ、お兄さんで」
「よしっ!」
「くぅ~!」

 拳を握りしめて喜び、意気揚々と少年を馬に乗せるウォーレンを横目に、ロザリンドは悔しさを滲ませながらエドワードの鐙に足をかけた。


 ―――その時だった。


「おい!何をするんだ!」
「大人しくしてお兄さん。首が切れちゃうよ?」

 ウォーレンの叫び声にロザリンドが弾かれた様に振り返ると、つい先程まで恐怖で震えていたはずの少年がウォーレンを羽交い締めにし、ナイフを首に突き付けていた。

「何してるの!?」

 ロザリンドが駆け寄ろうとすると、1台の幌馬車が現れた。御者の他に、荷台に男が二人乗っている。

「お兄さんに怪我されたくなかったら、その馬車に乗って?…
「な!なんで?」
「なんで知ってるのかって?だって貴女を連れて行くのが、僕の仕事だからね。ほら!早くして!」
「うぅ!ロザリンド嬢ダメだ!」

 ウォーレンの首に突き付けたナイフに力が入る。その切っ先が触れた首筋からは血が滴った。
 それを見たロザリンドは鐙から足を外すと、キッと少年を睨む。

「何が目的なの!?ウォーレン様を離しなさい!」
「そう言われて離す馬鹿がいると思う?早く乗ってよ」
「ダメだ!ロザリンド嬢!」
「お兄さんちょっと煩いよ。静かにして」
「うぐっ!」

 首の後ろを手刀で打たれ、ウォーレンは気を失い、落馬した。ロザリンドが急いで駆け寄ろうとするが、馬から素早く飛び降りた少年に先を越される。

「さあ、早く馬車に乗って!このお兄さんがどうなってもいいの!?」
「…乗ったら離すのよ」

 ロザリンドは渋々馬車に乗り込む。すると、少年もウォーレンを担いで乗り込む。

「ちょっと!離すように言ったじゃない!」
「僕はうんとは言ってない。それに、人質が居なくなったら普通に逃げるでしょ?悪いけど、目的地まではこのまま行かせてもらうよ。このお兄さんに怪我されたくなかったら大人しくして?」

 荷台にいた男たちがロザリンドとウォーレンの手足を縄で縛ると、幌馬車は走り出した。
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