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第二章

29 エドワード

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 ガッシリとした筋肉で引き締まった体躯、凛として黒く大きな瞳は知性を感じさせる、そしてよく手入れされた艶やかな漆黒の……。

「二人とも!紹介するわね!エドワードよ!」
「あら……」
「これは……随分と立派な」

「軍馬ね」
「軍馬だな」

 ロザリンドに身体を撫でられ、気持ちよさそうに目を細めるエドワード。穏やかな気性らしく、久しぶりに会う主人に、嬉しそうに頬を擦り寄せている。

「この子は、仔馬の頃からわたくしが世話をしているの。狩りに行く時は必ずエドワードを連れて行くわ」

「ねー!」とエドワードの頬を撫で回すロザリンド。仔馬から育てていて、よく懐いているとはいえ、小柄なロザリンドに対して軍馬のエドワードはそこそこの大きさだ。一体どうやって乗るのであろうか、と思ってしまう程の体格の差にアリソンとウォーレンは唖然とした。

「馬を仔馬から育てているって聞いた時は、もっと小さめの馬かと思ってたよ」
「ふふふ、もちろん小さい子も可愛いけど、わたくしはエドワードが1番好き!狩りの時に手綱を離しても、私の意図する動きをちゃんとしてくれる、すっごく賢い子なのよ!」

 ロザリンドの言葉がわかるのか、エドワードは得意気に嘶いた。

「二人は馬には乗れる?滞在中に出かけられたらいいわね!」
「俺は乗れるけど、アリーは?」
「実はわたくしも乗れるわよ」
「じゃあ決まりね!」

 パスカリーノ辺境伯家の本邸は、辺境騎士団の本部や訓練施設、兵舎などの関連施設も一緒になっている為、ほとんど城と言ってもいい広さだ。
 実際にかつては離宮として使われていた事もある為、設備はかなり充実している。
「邸の中を案内するわ!」と意気込むロザリンドを先頭に、カントリー『ハウス』と言うには大きすぎる本邸を3人は歩き始めた。

「まずはどこを見たい?剣技の訓練場ならあっち、弓の訓練場ならこっち、銃の訓練場ならそっちよ!」
「なんで訓練場ばかりなんだよ!普通は自慢の庭園とか温室とか、絵画のコレクションとか見せるでしょ!?」
「ええ?庭園なんて見ても面白い?温室は薬草しか植えてないし、コレクションは…甲冑とかどう?」
「あはは!さすがローザね!わたくし、図書室に行ってみたいわ。本をよく読むのでしょう?あと、ローザがクロスボウを使っているところも見てみたいわ!」

 アリソンの言葉にロザリンドは目を輝かせながら首肯した。

「ほんと!?じゃあ、弓の訓練場が近いから、先にクロスボウを見せてあげるわ!その後図書室へ行きましょう!」
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