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第一章

26 再燃した嫉妬心

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「と言う訳で、冬の休暇でアランドルベルムに帰って、お父様にトマス様とのことを報告するの!」
「そう、なんですのね」

 領地への出発を明日に控えた日、パスカリーノ家のタウンハウスには、ジュリアが訪ねてきていた。と、言うより西区の洋品店でジュリアを見かけたロザリンドが無理やり連れてきた。
 この二月、そんな流れで何度かお茶を共にしているロザリンドとジュリア。たまにトマスも参加するが、今日は二人きりだ。

「領地は久しぶりだから楽しみだわ!みんな元気かしら!」
「アランドルベルムは自然が豊かな土地だと伺いましたわ。あちらではどんな生活をなさっていましたの?お買い物や観劇などは、あまり出来ないのでしょう?」

 扇子で口元を隠したジュリアの問いに、ロザリンドは嬉しそうに答える。

「領地では騎士団の朝稽古に混じって身体を動かしたり、害獣の駆除をしたり、馬の世話をしたりかしらね」
「…え?」
「あ!ちゃ、ちゃんとダンスの練習とかお勉強もしてるわよ!?……たまに」
「たまに…」
「えっと、ちょこちょこ?」
「いえ、“たまに”も“ちょこちょこ”も大差ございませんわね」

 領地での令嬢らしからぬライフスタイルに、ジュリアは若干引いている。

「本当に良い所なのよ!辺境だから自然を楽しめるし、空気も空も綺麗なの!ジュリア様にもぜひ来てほしいわ!」
「わ、わたくしは遠慮しておきますわ。長旅にはあまり慣れておりませんし」
「ええ~、アリーは来てくれるって言ってるのにー」
「知りませんわよ。どなたです?アリーって」
「アリソンよ?ラッシュブルック公爵家の」
「え?王太子殿下の婚約者のアリソン・ポリー・ラッシュブルック公爵令嬢ですの?」
「うん、そう。冬の休暇にアランドルベルムに遊びに来てくれるの」

 ロザリンドは領地でアリソンとしたいこと、見せたいものなどを嬉しそうに話した。あまりに夢中になっていた為に、ジュリアの表情が、どんどん暗くなっていくことに気が付かなかった。

 ―――アリソン・ポリー・ラッシュブルック公爵令嬢。彼女が王太子殿下と婚約してから、お父様からの命令で、何度もお茶会でお近付きになろうとしたけど、全然相手にされなかったのに…。なんで、ついこの間王都に来たばかりのこの子が…。

「あ、アリソン様とは、いつから親しくしていらっしゃるの?昔からのお知り合い…とか?」
「王都に出てきてからよ。プリスコット侯爵夫人のお茶会で知り合ってね、それからよくアリーの邸でおしゃべりしたりしてるの。すっごく気が合うのよー」
「……」

 ―――プリスコット侯爵夫人のお茶会なら、わたくしも出席していたわ…。確かにこの子も来てた。まるでお人形の様に可憐な令嬢だって注目されてて、でもアリソン様とあの場で会話なんてしてなかったのに!わたくしが帰った後に何かあったのかしら…。……悔しい。トマス様も、アリソン様も、みんなこの子に奪われた…。

「それでね、領地にアリーが来たら、まずエドワードを紹介するでしょ…それからー」
「!エドワード!エドワードって誰なんですの?」
「え?エドワードは、わたくしの」
 ―――コンコンコン

 ロザリンドが話しかけた時、扉をノックする音が聞こえた。「どうぞ」と促すとルーシーが入ってくる。

「お話中のところ、申し訳ありません。お嬢様、ウォーレン様がお越しです」
「ウォーレン様?何かしら、特にお約束はしてないけど…」
「お忘れ物を届けて下さいました」

 ルーシーが【探偵七つ道具】の小袋をロザリンドに手渡すと、ロザリンドは『あちゃー』と言う表情を浮かべた。

「こないだアリーと3人でお茶した時に忘れたんだわ!お礼をしないと。ジュリア様、時間はまだ大丈夫?ウォーレン様が忘れ物を届けてくれたから、お礼を言ってきてもいい?」
「それなら、わたくしはそろそろお暇いたしますわ。もともとお邪魔する予定ではございませんでしたし」
「そう?ごめんなさいね。領地から帰ってきたら、またお茶しましょう」
「…そう、ですわね」

 ロザリンドに見送られてパスカリーノ家タウンハウスを後にしたジュリア。
 帰りの馬車の中で、窓からパスカリーノ家を暗い表情で見つめた。

 ―――トマス様がいるのに、別の男とも…。わたくしから、すべて奪っておいて、許せないわ…。

 翌日、ロザリンドは鼻歌交じりで領地に向けて出発した。




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いつも読んでいただき、ありがとうございます!

子どもたちが夏休みに入った為、書ける時に書いて上げまくる超不定期更新スタイルとなっております。
なるべく間を開けずに更新したいのですが、ご容赦くださいませ。。
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