ど天然田舎令嬢は都会で運命の恋がしたい!

上木 柚

文字の大きさ
上 下
16 / 66
第一章

14 馬車に揺られて

しおりを挟む
「トムお兄様!あれは?」
「ん?ああ、あれは時計塔だね。時間になると鐘がなるんだ。200年くらい前に建造された、王都のシンボルだよ」
「ああ!やっぱりあれがそうなのね!王都が舞台の物語には必ず出てくるから、絶対に見ておきたかったのよ!」
「お嬢様、まだ馬車が走行中ですのでお掛け下さい。危ないですよ」
「はいはい」
「『はい』は一回です」

 王都センシィノスは王宮のある中央区を囲むように貴族街の東区、商業街の西区、市民の暮らす南区、軍関係の施設がまとまる北区にわかれている。
 今日は貴族街のある東区から王都の中央区を経由して西区へ向かう為、迎えに来たトマスとファインズ侯爵家の馬車に揺られていた。
 今まで王都に来てもタウンハウスにいることが多く、他地区を見て回った事がほぼなかったロザリンドは、車窓から見える街並みに興奮を覚えずにはいられず、何かを見つけてはトマスに質問し、立ち上がってはルーシーに止められていた。

 ロザリンドが育ったアランドルベルムは辺境の地で、接している隣国とは交流が盛んではなく、山や森に囲まれた天然の要塞都市だった。
 その為、きらびやかな王都センシィノスは物語の舞台としての印象が強く、同じ国内で、兄夫婦が住んではいるが、どこか遠い世界のように感じていた。それ故にどこを見ても新鮮だった。

「王都は広いからね、一日ではとても案内しきれないし、今日はロザリンド嬢が興味がある場所をいくつか回ろうか。何か希望はある?」

 トマスに希望を聞かれたロザリンドは「フッフッフッ」と怪しく笑いだし、1通の手紙を差し出してきた。

「わたくし、今日はこの手紙の通りに行動したいと思うの!」

 ロザリンドは古びた封筒を取り出すと、目の前にデデン!と掲げてみせた。

「これは?」
「これは、わたくしのお祖父様からお祖母様に宛てられた手紙よ」
「お嬢様、人の手紙を勝手にお読みになったのですか…?」
「い、いいじゃないの。サラッと内容を確認しただけよ」

 詰め寄るルーシーから目を逸らして、ロザリンドは口を尖らせる。その姿にトマスは思わず笑い出した。

「ハハハ。ロザリンド嬢は相変わらずのようだね。まあ、いいじゃないか。何が書いてあったの?」
「さすがトムお兄様!どこかの堅物侍女とは大違いね!」
「お嬢様…」

 我が意を得たりと言わんばかりの表情を浮かべたロザリンドは、封筒から手紙を取り出すと二人に見えるように広げた。


 ―――――――――――――

 女神が微笑む場所に 花は開く

 黒き門には横から ただし近づき過ぎないで

 真ん中から君と私を見下ろす尊老は 約束の刻を告げる

 ―――――――――――――

「これは……?」
「一見意味不明な内容、そう、これはきっと謎解きよ!」

「「…はい?」」

 二人が困惑の表情を浮かべる中、ロザリンドは「これはきっと王都の謎を解き明かす暗号よー」などと興奮して立ち上がり、揺れた馬車によろけてトマスに倒れ込み、ルーシーに諌められた。
しおりを挟む
感想 3

あなたにおすすめの小説

どうやら夫に疎まれているようなので、私はいなくなることにします

文野多咲
恋愛
秘めやかな空気が、寝台を囲う帳の内側に立ち込めていた。 夫であるゲルハルトがエレーヌを見下ろしている。 エレーヌの髪は乱れ、目はうるみ、体の奥は甘い熱で満ちている。エレーヌもまた、想いを込めて夫を見つめた。 「ゲルハルトさま、愛しています」 ゲルハルトはエレーヌをさも大切そうに撫でる。その手つきとは裏腹に、ぞっとするようなことを囁いてきた。 「エレーヌ、俺はあなたが憎い」 エレーヌは凍り付いた。

人生を共にしてほしい、そう言った最愛の人は不倫をしました。

松茸
恋愛
どうか僕と人生を共にしてほしい。 そう言われてのぼせ上った私は、侯爵令息の彼との結婚に踏み切る。 しかし結婚して一年、彼は私を愛さず、別の女性と不倫をした。

私のドレスを奪った異母妹に、もう大事なものは奪わせない

文野多咲
恋愛
優月(ゆづき)が自宅屋敷に帰ると、異母妹が優月のウェディングドレスを試着していた。その日縫い上がったばかりで、優月もまだ袖を通していなかった。 使用人たちが「まるで、異母妹のためにあつらえたドレスのよう」と褒め称えており、優月の婚約者まで「異母妹の方が似合う」と褒めている。 優月が異母妹に「どうして勝手に着たの?」と訊けば「ちょっと着てみただけよ」と言う。 婚約者は「異母妹なんだから、ちょっとくらいいじゃないか」と言う。 「ちょっとじゃないわ。私はドレスを盗られたも同じよ!」と言えば、父の後妻は「悪気があったわけじゃないのに、心が狭い」と優月の頬をぶった。 優月は父親に婚約解消を願い出た。婚約者は父親が決めた相手で、優月にはもう彼を信頼できない。 父親に事情を説明すると、「大げさだなあ」と取り合わず、「優月は異母妹に嫉妬しているだけだ、婚約者には異母妹を褒めないように言っておく」と言われる。 嫉妬じゃないのに、どうしてわかってくれないの? 優月は父親をも信頼できなくなる。 婚約者は優月を手に入れるために、優月を襲おうとした。絶体絶命の優月の前に現れたのは、叔父だった。

命を狙われたお飾り妃の最後の願い

幌あきら
恋愛
【異世界恋愛・ざまぁ系・ハピエン】 重要な式典の真っ最中、いきなりシャンデリアが落ちた――。狙われたのは王妃イベリナ。 イベリナ妃の命を狙ったのは、国王の愛人ジャスミンだった。 短め連載・完結まで予約済みです。設定ゆるいです。 『ベビ待ち』の女性の心情がでてきます。『逆マタハラ』などの表現もあります。苦手な方はお控えください、すみません。

君は妾の子だから、次男がちょうどいい

月山 歩
恋愛
侯爵家のマリアは婚約中だが、彼は王都に住み、彼女は片田舎で遠いため会ったことはなかった。でもある時、マリアは妾の子であると知られる。そんな娘は大事な子息とは結婚させられないと、病気療養中の次男との婚約に一方的に変えさせられる。そして次の日には、迎えの馬車がやって来た。

里帰りをしていたら離婚届が送られてきたので今から様子を見に行ってきます

結城芙由奈@コミカライズ発売中
恋愛
<離婚届?納得いかないので今から内密に帰ります> 政略結婚で2年もの間「白い結婚」を続ける最中、妹の出産祝いで里帰りしていると突然届いた離婚届。あまりに理不尽で到底受け入れられないので内緒で帰ってみた結果・・・? ※「カクヨム」「小説家になろう」にも投稿しています

【完結】もう無理して私に笑いかけなくてもいいですよ?

冬馬亮
恋愛
公爵令嬢のエリーゼは、遅れて出席した夜会で、婚約者のオズワルドがエリーゼへの不満を口にするのを偶然耳にする。 オズワルドを愛していたエリーゼはひどくショックを受けるが、悩んだ末に婚約解消を決意する。 だが、喜んで受け入れると思っていたオズワルドが、なぜか婚約解消を拒否。関係の再構築を提案する。 その後、プレゼント攻撃や突撃訪問の日々が始まるが、オズワルドは別の令嬢をそばに置くようになり・・・ 「彼女は友人の妹で、なんとも思ってない。オレが好きなのはエリーゼだ」 「私みたいな女に無理して笑いかけるのも限界だって夜会で愚痴をこぼしてたじゃないですか。よかったですね、これでもう、無理して私に笑いかけなくてよくなりましたよ」

この度、皆さんの予想通り婚約者候補から外れることになりました。ですが、すぐに結婚することになりました。

鶯埜 餡
恋愛
 ある事件のせいでいろいろ言われながらも国王夫妻の働きかけで王太子の婚約者候補となったシャルロッテ。  しかし当の王太子ルドウィックはアリアナという男爵令嬢にべったり。噂好きな貴族たちはシャルロッテに婚約者候補から外れるのではないかと言っていたが

処理中です...