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第一章
8 王宮舞踏会にて1
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社交シーズンの開始を告げる王宮の舞踏会。前年の舞踏会からこの舞踏会までに15歳を迎えた者たちがその年のデビュタントとなる。
舞踏会の約2ヶ月前に15歳の誕生日を迎えたパスカリーノ辺境伯家の長女ロザリンド・リリアン・パスカリーノもご多分に漏れず、今年のデビュタントとして舞踏会に参加している。
「お兄様!見て!すごく美味しそうなデザートだわ!」
「ローザ、食べ物は陛下にご挨拶をして、ファーストダンスを踊って、それからだよ」
緻密に編み込んで纏められた輝く金色の巻毛に楚々とした花の髪飾りを付け、デビュタントの印である純白のドレスに身を包み、いつもより3倍増しで美少女人形感の溢れるロザリンド。生まれて初めての王宮に浮足立ち、見るもの全てが新鮮で興味深く、そのエメラルドの大きな瞳をキラキラと輝かせていたが、会場の隅に用意されたビュッフェスペースを発見してからは、もうそこから目が離せなくなっていた。ルーシーに知られたら恐らくお説教だろう。
「ええ~!美味しさは時と共に失われていくのよ?せめて陛下にご挨拶したら食べるのではダメなの?」
「いやいや、ローザはデビュタントなんだからファーストダンスは踊らないとダメだよ?食べ物はどんどん新しいものが出てくるから安心しなさい」
「え?では今出ているものはすぐに下げられてしまうの!?お兄様やっぱり先に一口だけでも…」
ブラッドリーはビュッフェスペースに多大なる未練を残す妹を連れて舞踏会の主会場に向かった。
係りの者に名前と爵位を伝えると、その者が会場内に入場を告げる。そうしていよいよ入場すると、主会場はだいぶ人で溢れていた。
伯爵家の一つだが、序列としては侯爵家と同列の辺境伯家。爵位の低い者から順に入場する為、ロザリンド達が入場する頃には貴族の大半が入場済みなのだ。
「すごい人の数なのね。こんなに人がいたら料理が足りないんじゃないかしら…」
「ローザ……ここに食べ物を目的として来ている者は少ないんじゃないかな?安心して。落ち着きなさい」
ブラッドリーがビュッフェの料理がなくなるのではとソワソワしだしたロザリンドを宥めていると、一人の青年が二人に近付いて来た。
「お久しぶりです!パスカリーノ卿!」
「おお!トマスじゃないか!大きくなったな!」
ブラッドリーが親しげに青年の背中をポンッと叩くと、トマスと呼ばれた青年は後頭部に手をあてながら「いやぁ、俺ももう17歳ですよ」とはにかんでいる。
「お兄様、こちらの方は?」
二人の様子にロザリンドがブラッドリーに尋ねると、トマスは眉を下げて困ったように笑った。
「忘れちゃったかな?君が王都に住んでいた頃によく一緒に遊んでたんだけど…」
「そうだぞ、ローザはトマスが大好きで、ずっと後ろを付いて歩いてたんだぞ、覚えてないかい?」
ロザリンドが王都に住んでいたのは5歳まで。10年前の記憶を辿ってみると、確かにいつも同じ男の子といた覚えがある。ロザリンドが懐いて追いかけ回しても、いつも眉毛を下げて困った様に微笑みながら手を繋いでくれた、優しい栗色の髪をした2歳年上の男の子。
「…もしかして、トムお兄様?」
ロザリンドの言葉にトマスは破顔した。
その満面の笑みを見たロザリンドは、なぜか胸がキュンとした。
「覚えててくれたんだ!すっかりレディになったね!もうロザリンド嬢と呼ばなくちゃな」
「別にローザでも構わないのに」
「いやいや、君の未来の婚約者に誤解させては悪いからね。デビュタントおめでとう!」
「そんな人まだいないけどね、でもありがとう。トムお兄様は?」
「俺もまだだよ。今日は従姉のエスコートさ。でも、その従姉ももう婚約が決まりそうだし、俺もそろそろかな」
「二人共もうそんな年齢になったんだなぁ。ロザリンドにもそろそろ考えないといけないのかぁ。嫌だなぁ」
情けなく肩を落としたブラッドリーに、ロザリンドとトマスは顔を見合わせて思わず吹き出した。
王族の入場が告げられ、友人に挨拶に行った従姉を迎えに行くと言うトマスと別れたロザリンドとブラッドリーは、国王陛下の挨拶後に行われるデビュタントによるファーストダンスの為に初々しいデビュタント達が集まるエリアへと向かった。
人形の様に整った容姿のこの兄妹は、入場時から周囲の視線を物凄く集めていたのだが、本人たち―未練がましくビュッフェの料理の行方を気にしてソワソワする妹と、そんな妹を宥めるのに必死になる兄―がその視線に気付く事はなかった。
舞踏会の約2ヶ月前に15歳の誕生日を迎えたパスカリーノ辺境伯家の長女ロザリンド・リリアン・パスカリーノもご多分に漏れず、今年のデビュタントとして舞踏会に参加している。
「お兄様!見て!すごく美味しそうなデザートだわ!」
「ローザ、食べ物は陛下にご挨拶をして、ファーストダンスを踊って、それからだよ」
緻密に編み込んで纏められた輝く金色の巻毛に楚々とした花の髪飾りを付け、デビュタントの印である純白のドレスに身を包み、いつもより3倍増しで美少女人形感の溢れるロザリンド。生まれて初めての王宮に浮足立ち、見るもの全てが新鮮で興味深く、そのエメラルドの大きな瞳をキラキラと輝かせていたが、会場の隅に用意されたビュッフェスペースを発見してからは、もうそこから目が離せなくなっていた。ルーシーに知られたら恐らくお説教だろう。
「ええ~!美味しさは時と共に失われていくのよ?せめて陛下にご挨拶したら食べるのではダメなの?」
「いやいや、ローザはデビュタントなんだからファーストダンスは踊らないとダメだよ?食べ物はどんどん新しいものが出てくるから安心しなさい」
「え?では今出ているものはすぐに下げられてしまうの!?お兄様やっぱり先に一口だけでも…」
ブラッドリーはビュッフェスペースに多大なる未練を残す妹を連れて舞踏会の主会場に向かった。
係りの者に名前と爵位を伝えると、その者が会場内に入場を告げる。そうしていよいよ入場すると、主会場はだいぶ人で溢れていた。
伯爵家の一つだが、序列としては侯爵家と同列の辺境伯家。爵位の低い者から順に入場する為、ロザリンド達が入場する頃には貴族の大半が入場済みなのだ。
「すごい人の数なのね。こんなに人がいたら料理が足りないんじゃないかしら…」
「ローザ……ここに食べ物を目的として来ている者は少ないんじゃないかな?安心して。落ち着きなさい」
ブラッドリーがビュッフェの料理がなくなるのではとソワソワしだしたロザリンドを宥めていると、一人の青年が二人に近付いて来た。
「お久しぶりです!パスカリーノ卿!」
「おお!トマスじゃないか!大きくなったな!」
ブラッドリーが親しげに青年の背中をポンッと叩くと、トマスと呼ばれた青年は後頭部に手をあてながら「いやぁ、俺ももう17歳ですよ」とはにかんでいる。
「お兄様、こちらの方は?」
二人の様子にロザリンドがブラッドリーに尋ねると、トマスは眉を下げて困ったように笑った。
「忘れちゃったかな?君が王都に住んでいた頃によく一緒に遊んでたんだけど…」
「そうだぞ、ローザはトマスが大好きで、ずっと後ろを付いて歩いてたんだぞ、覚えてないかい?」
ロザリンドが王都に住んでいたのは5歳まで。10年前の記憶を辿ってみると、確かにいつも同じ男の子といた覚えがある。ロザリンドが懐いて追いかけ回しても、いつも眉毛を下げて困った様に微笑みながら手を繋いでくれた、優しい栗色の髪をした2歳年上の男の子。
「…もしかして、トムお兄様?」
ロザリンドの言葉にトマスは破顔した。
その満面の笑みを見たロザリンドは、なぜか胸がキュンとした。
「覚えててくれたんだ!すっかりレディになったね!もうロザリンド嬢と呼ばなくちゃな」
「別にローザでも構わないのに」
「いやいや、君の未来の婚約者に誤解させては悪いからね。デビュタントおめでとう!」
「そんな人まだいないけどね、でもありがとう。トムお兄様は?」
「俺もまだだよ。今日は従姉のエスコートさ。でも、その従姉ももう婚約が決まりそうだし、俺もそろそろかな」
「二人共もうそんな年齢になったんだなぁ。ロザリンドにもそろそろ考えないといけないのかぁ。嫌だなぁ」
情けなく肩を落としたブラッドリーに、ロザリンドとトマスは顔を見合わせて思わず吹き出した。
王族の入場が告げられ、友人に挨拶に行った従姉を迎えに行くと言うトマスと別れたロザリンドとブラッドリーは、国王陛下の挨拶後に行われるデビュタントによるファーストダンスの為に初々しいデビュタント達が集まるエリアへと向かった。
人形の様に整った容姿のこの兄妹は、入場時から周囲の視線を物凄く集めていたのだが、本人たち―未練がましくビュッフェの料理の行方を気にしてソワソワする妹と、そんな妹を宥めるのに必死になる兄―がその視線に気付く事はなかった。
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