上 下
31 / 59
第四章 浮田京子の物語 乙女心

元気を出しませんか?

しおりを挟む

 蓬莱の天変地異が過ぎ、聖ブリジッタ女子学園山陽校にも日常が戻ってきました。
 何事も無く進級したお京ちゃんでしたが、クラス変えの発表で愕然としたのです。
 
 女神と呼ばれた二人が転校したのは知っていましたが、佐田町子、大宮静子、田中美千子の三人が、転校していたのです。

「マチちゃんが……」
 一瞬泣きそうになった、お京ちゃんでした。

 折角憧れのクリームヒルトと、同じクラスになったのですが、クリームヒルトがマチちゃんのお友達と思うと、声をかけるのが、マチちゃんのお友達を奪うことになるようで、気が引けるのです。

 やはりマチちゃんは、お京ちゃんの中では親友だったのです。

 クリームヒルトも、なんとなく元気がありません。
「クリちゃん、元気ないわね」
 と、クラスメートの間で、ひそひそと噂されています。

「やはりマチちゃんたちが転校したからよ、仲よかったから……」
「でも私たちも、お友達のつもりなのに……なんか気が悪いわ……」

 こんな話が、お京ちゃんの耳にも入ってきました。
 お京ちゃん、親友のつもりのマチちゃんのお友達が、こんないわれ方をしては、いけないと思ったのです。
 
 ある日、教室に誰もいないことを確認したお京ちゃんは、ついにクリームヒルトに声をかけました。
「吉川さん、元気がなさそうだけど、皆心配しているの」

「マチちゃんたちが転校して、さびしいのだろうと皆はおもっているけど、このままではいけないわ」
「クラスの皆は、吉川さんのお友達なのよ、元気を出しませんか?」

 滅多にこのようなことを云わないお京ちゃん、おしとやかで物静か、そんなお京ちゃんの言葉です。

 ハッとしたクリームヒルトでした。
「ありがとう、浮田さん、お言葉、胸にしみるわ」
「そんな大人びたこと云わなくてもいいのよ、私たち、まだ若いのよ」
 と、ケラケラと笑ったお京ちゃん。

 クリームヒルトは、お京ちゃんが自分のために似合わない事を言ってくれている。
 そんなお京ちゃんの真心を、ひしひしと感じたのです。
 
「本当にそうね、ありがとう」
 ニコッと笑ったクリームヒルトに、ドキッとしたお京ちゃん。
 妙に照れてしまい、「じゃあ」というと、スタスタと教室を出てしまいました。

しおりを挟む
1 / 2

この作品を読んでいる人はこんな作品も読んでいます!

虐めていた義妹に今さら好きだったなんて言えません

恋愛 / 連載中 24h.ポイント:28pt お気に入り:43

戦慄の機甲兵(メタルアーミー)

SF / 連載中 24h.ポイント:0pt お気に入り:1

Original drug

BL / 完結 24h.ポイント:14pt お気に入り:59

女性治療師と距離が近いのは気のせいなんかじゃない

恋愛 / 完結 24h.ポイント:234pt お気に入り:2,682

処理中です...