上 下
9 / 59
第二章 森彰子の物語 蓬莱転機

『油揚げ専門店コン太』第一号店店長兼務

しおりを挟む

 『油揚げ専門店コン太』の店長、森彰子は忙しそうに働いている。
 たくさんの外人さんのお守をしながらである。

 とにかく困った女が多く、毎日がトラブルだらけ、いくら美子の頼みといえど、ため息の一つも、つきたくなるが……

 そんな日々の中で、よくある出来事が起こり、森彰子は、蓬莱の転機に立ち会うことになる。

* * * * *

 中国地方のある県庁所在地、その駅前にある商業ビル、宇賀ビルの一階に二つのお店があります。

 一つはインポート五百円ショップ『ファイブハンドレッド』、世界中からアウトレットや、レッドストックをかき集めて売っているようです。

 もう一つは『油揚げ専門店コン太』、極めて珍しい油揚げ専門店で、きつねうどんと二種のいなり寿司、関東風と関西風、そして衣笠丼だけのお店です。

 結構な繁盛店で、森彰子は最初は店員だったのですが、すぐに店長になり、最近フランチャイズチェーンの責任者に出世。
 オーナーの宇賀真琴さんが、推薦したのです。

 今日は新メニューがデビューします。
 といっても『きつね丼』と『きざみうどん』、そして『油揚げと生姜の炊き込みご飯のおにぎり』……

 まだまだ候補が有ったのですが、あまりメニューを多くするのも問題があるとの、オーナーの意向で絞り込まれたそうです。

 森彰子は、憂いを漂わせた美しい女ですが、薄幸の佳人とは程遠い、なかなか芯の通った女。

 蓬莱の大天変地異の前に、極道の抗争に巻き込まれ、義父でもあり情夫でもある男が、殺さる出来事がありました。

 その男に無理やり犯された身としては、せいせいしたというのが本心ではありましたが、そのあと、紀藤会という組織の物になってしまったのです。

 もうどうにでもなれ!と思っていた矢先、組長に連れられ、瀬戸内のあるホテルへ連れて行かれました。
 そして森彰子は、ある女に差し出されたのです。
 十九歳の時です。

 ……あの時、美子様は嫌そうな顔をされていたわね……
 
 森彰子はクリームヒルトの推薦もあり、美子様に抱かれ、『格子』となったのです。
 
 主である美子は去年、この地を去り、今では妹のクリームヒルトが全てを取り仕切っています。

 ……クリームヒルト様は信じられないほど賢い方、さすがに美子様と茜様が可愛がるわけね……
 美子がこの地を去る時、森彰子はクリームヒルトのお守を頼まれました。

 美子の関係する、この地の女達の中で、純粋の日本人は森彰子だけ、宇賀真琴さんは空狐、宇賀一族は人ではありません。
 
 ……たしかに私がしっかりしなければ……
 そう、クリームヒルト以下、生活IQは極めて低い女達ばかり、ヴァランティーヌへの美子の配慮で、母親のフランソワーズがやってきていますが、この人は超天然ときています。

 そのため、フランチャイズチェーンの責任者でもある森彰子は、この駅前ビルにある第一号店に、店長兼務として居るのです。

 近頃、この『油揚げ専門店コン太』一号店に、常連客が増えました。
 山野五十鈴さん、『山野レディファション』という婦人服会社の社長さんです。

 『宇賀不動産開発合名会社』に出入りする、業者でもあり常連の一人でもある、『浮田惣菜商店』の浮田貴子社長が連れてきたのがきっかけです。

 四十前ぐらいの、モデルかと思えるほどの美女、日本人離れした美しさです。
 浮田貴子も、肌のきめ細かい日本人形のような女で、こちらも折り紙つきの美しさ、二人ともとてもその年には見えません。

 ただ気の強そうな雰囲気があります。
 やはり会社のトップだけのことはあるようです。

しおりを挟む

処理中です...