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第五十四章 北の戦い

03 大海戦

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「とにかく陣形を整えておきましょう」
 艦隊が陣形運動を始め出した時、敵艦が見えました。
 これは少々まずいですかね。

 とっさにギルベルト司令官が命令します。
「各艦、個別戦闘に入れ!以後、命あるまでこの海域で奮戦せよ。」

 陣形を整えている間に、撃沈されかねないと判断したみたいです。
 こうなると殴り合いの戦いです。
 まさか海戦で、このような事態になるとは……

「ギルベルトさん、後は艦長に任せることにしましょう。」
「そうですね、艦長は歴戦の勇士です、命を預けましょう。」
「イシュタル様、ここは危ないですよ、船室に避難されてはいかがですか。」

「それは敵前逃亡というものでしょう。」
「ここで矢玉の中に、身体を張っていなければ、士気にかかわるでしょう。」

 艦長は艦を巧妙に操作して、敵艦にバリスタで、魔弾や火炎瓶をお見舞いしています。
 時には、艦首に装備している青銅砲で砲撃します。

 言い遅れましたが、この新型船は鉄板で装甲されているのです。
 薄い鉄板ではありますが、結構効果があります。

 横っ腹を破られることはなく、ただ甲板で火炎瓶が暴発して、船火事が起こりそうでしたが、すぐに砂で消しました。
 窒息消火法と言うやつです、火炎瓶の炎は、水で消そうとすると余計に広がります。
 砂が一番です、それに滑り止めにもなります、血糊からですよ。

 あちこちで、炎上中の艦船が見えます。
 魔弾が誘爆して、大音響とともに沈んでいくものもあります。

 やはり薄いながらも、装甲が威力を発揮していますね。
 大損傷を受けても、沈没した船は少ないようです。

「被害の大きい艦は離脱せよ!沈没が迫っている艦は、至急ムリアス島の海岸に擱座(かくざ)するように。」
 ギルベルトさんが命令します。
 手旗と発火信号で各艦へ伝えられました。

 その間も、新・カティサーク号は奮戦します。
 でもついにマストに被弾、艦長の命令でマストが斬り倒されました。

「櫂を出せ!バリスタ要員を除き、総員櫂をとれ!」
 艦長が命令します。
 士官も水夫も、手空きの者は櫂に取りつきました。

「これより本艦は船首衝角(ラム)で戦闘を継続する!」
「ジャバ王国海軍の魂を、イシュタル様におみせしろ!」
「目標は前方の敵戦艦、力の限り漕げ!」
 新・カティサーク号は突進します。

 すごい衝撃とともに、敵の横っ腹に大穴をあけました。
 水線下ですので沈没は確実でしょう。

「離脱する、後進!」
 新・カティサーク号は、すぐに敵艦から離脱、敵は沈没していきます。

「次の目標、左前方の敵戦艦、取舵(とりかじ)」
 号令とともに、櫂操作で左に艦は回転を始め、目標の敵艦側面に、進路を合わせました。
「全速!」
 新・カティサーク号は突進します。

 途中に別の敵艦の右横を通る時、
「右横の敵艦へバリスタ一斉射撃!」
 通過中の敵艦を炎上させながら、再び衝撃がきます。

「離脱する、後進!」
 と号令がかかり、新・カティサーク号は再度、敵を求めて離脱します。

「艦長、浸水しています!」
「バリスタ要員は、排水に全力を傾けよ、浸水の状態を頻繁に報告せよ。」
「本艦はそのまま戦闘を続行する、次の目標は右前方の敵艦、面舵(おもかじ)!」
 艦は右に回頭を始めます。
「直進、よーそろー!」

 三度目の衝撃が来ます。
「艦長、浸水が激しくなってきました、排水が間に合いません!」
「離脱、後進」
 艦が離脱を始めました。

「本艦は沈没の運命にある!いまより大至急、ムリアス島の海岸に擱座(かくざ)する。」
「手空きの要員は全員、排水作業にかかれ。」
 艦はムリアス島に進路をとり、一直線に走りだしました。
 浸水との時間競争ですが、どうやら間に合ったようです。

 艦長は近くの一隻の味方の船を呼びよせました。
 『総司令官の移乗をもとめる』

 新・カティサーク号が擱座(かくざ)すると、艦長はボートを全部おろし、人員を上陸させ始めました。
「味方の船がきます、総司令官は移乗をしてください。」
 といって、ギルベルトさんに移乗するようにいいました。

 海戦は味方の勝利のようですが、掃討戦の指揮が必要です。
 ギルベルトさんの司令旗が新しい船に上がります。

 私は新・カティサーク号の乗員と共に上陸しました。
 アッタル騎士団はかなり前方へ進出しています。
 グレンフォード総長は陣頭指揮をとっているようです。

 連絡将校がやってきました。
「戦況はどうなっています?」
「敵はほとんどいません、警備部隊だけです。」
「その警備部隊は敗走させました、ただいま掃討戦を行っています。」
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