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第五十二章 キンメリアの夜は我が手に

09 オルゴールの中の決意

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 今日は女官長会議です。
 この間の脱走で、怒られっぱなしです。

 なんせとても怖い、威厳の塊のような十人の女官長さんたちです。
 しかも全員綺麗な方ばかり、色気全開の美女が、柳眉を逆立てて怒るのですよ。
 若造の私に、かなうわけはなく、平謝りにあやまっていますが、お小言は夕方まで続きました。

「巫女様、私たちに、脱走の手土産ぐらいあるでしょう、いただきたいものですね。」
 アンリエッタさんが、そういうのを待っていましたよ。

 ご機嫌取りには贈り物が一番、女は実利に弱いのを、体験上知っています。
 嫌というほど、体験させられていますから……

 私はおずおずと、オルゴールを差し出しました。
 なんでオルゴールかって、前から思っていたのです。
 身近に音楽があるのは、いいものですからね。

 そこで女官長さんには、私から日頃の感謝を込めて、贈り物として準備しておいたものです。
 勿論このような時の、究極のご機嫌取りも兼ねていますが、オルゴールの音色は癒されますから、お怒りを鎮めるにはいいかと……

 スイスの某社製のディスクオルゴールです、もちろん全38曲すべてセットです。
 ゼンマイ式ですから、このエラムでも動くでしょう。

 なぜあるかといいますと、姉が持っていたのです。
 姉の持ち物には、オルゴールが色々とあります、それをコピーしました。

 なんで、こんなにコレクションしていたのか不思議ですが、音楽の好きな人でした。
 時々この膨大な、といっても、このスイスの某社製のディスクオルゴールと、日本の某社のオルゴールですが、この日本製のオルゴールはすごい数があります。

 このメーカーからもらったのでしょうかね?
 そういえば、オルゴールメーカーから相談を受けて、バイトをしたと、いっていたような……

 その当時、お金はわんさか持っていた姉ですから、全製品を原価あたりでもらったのでしょう。
 でもわざわざこれを、『しもべ』さんはコピーしたのでしょうね、これも不思議です。

 このオルゴール群は音質重視で、飾りは全くありません。
 まぁ安い飾り物なら、通販カタログから購入できるでしょうが……
 いざとなったら、源兵衛さんに脅しをかけて……

「まえから女官長さんには、差し上げようと準備していたものです。」
 そう言うと、私はディスクをセットし、ゼンマイを巻いてオルゴールを鳴らしました。
 ブラームスの子守歌を選びましたがね。

「皆さん、私でもストレスは溜まるのです、今回のことは謝ります。」
「ご迷惑をかけたことは反省しています、でも少しは自由な空気も吸わせてください。」
「まぁ、これでも聞いて、怒りは納めてください。」

「これを私たちに下さるのですか?」
「女官長さん全員に、私からの贈り物です、わけへだてはしていません。」
「高価な物のように思えますが。」
「まぁ、それなりのものです。」

 こうして私は贈り物でご機嫌をとりました。
 ……忘れないでくださいね……

 私はハイドリア連合王国の、アリアドーネ女官長を皮切りに、オルゴールを一人づつ手渡しています。
 パリス連合王国のエリザベート女官長、
 ホラズム王国のロランス女官長、
 ジャバ王国のニコル女官長、
 アムリア王国のロジーナ女官長、
 カルシュ自治同盟のアンジェリーナ女官長、
 ヴィーナス騎士団領のフローラ女官長、
 アッタル騎士団領のドロシー女官長、
 シャレム騎士団領のシルビア女官長、
 そしてシビルのアンリエッタ首席女官長の十人です。

 さすがにアンリエッタさんは、裏に籠められている、私の気持ちが分かったようです。
 一瞬青ざめましたが、すぐに平静に戻りました。
 それならその方が、都合が良いかもしれません。

「これはディスク・オルゴールというものです。」
「皆さまに差し上げた物は、この円盤を交換すれば、曲を変更できる優れものです。」
「このオルゴール用に、編曲されたものですが良い音でしょう、心が安らぐものです。」
 繊細なものですから、取り扱いをよく説明しておきましょう。

「この後、夫人の方々にも、曲は変えられませんが、シリンダー式のオルゴールを進呈しようと考えています。」
「したがって皆さんは二つ持つことになります。」
「三日後にイーゼル温泉に、集まっていただくように、通達しておいてください。」

「では皆さま、今日はお開きということで、ご苦労様です、お茶でもしましょうか。」
 すごく怒っていた皆さんでしたが、このオルゴールで、和やかなお茶会となりました。
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