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第九章 お祭り騒ぎの中で

12 ウィルヘルム

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「父上の奥さんになれ!」

 小さい男の子がやってきて、突然云います。
 なんですか?この命令調の物言いは、サリーさんの目が点になっています。

 私が怪訝な顔をしますと、ボーイさんが飛んで来ました。
 私はボーイさんを目で制止して、「坊や」と声を掛けますと、「僕は坊やじゃない」と云います。

「では何とお呼びしましょう」と聞くと、「ウィルヘルムだ!」だそうです。

 これは素早く、その父上にウィルヘルム君を引き取ってもらいましょう。

「ではウィルヘルム様、お父様の所へ、私を案内していただけますか?」
「お相手の方を知らないのに、お嫁さんにはなれないでしょう?」
と言いますと、私の手をとり、「案内する」と返事します。

 ダフネさんが飛んできました。
「み……ヴィーナス様、どうされましたか?」
「ウィルヘルム様が、お父様を紹介してくださるようなので。」
 と答えますと、「お供します」と私の後をついてきます。
 サリーさんも従って来ます。

 ウィルヘルム君は、女の人に囲まれている、騎士の方の所へ私を案内します。
 その方は、「ウィルヘルム、どうした?」と聞いていますが、私が、
「ご歓談の中、失礼とはぞんじますが、ウィルヘルム様が私に父上の嫁になれとおっしゃって、案内してくださったのです。」

 それにしても、取り巻きのご婦人の視線の痛いこと。
 別に私は、貴女たちの獲物を取りに来た分けではありませんよ。
 将を得んとすれば馬からです。
 ウィルヘルム君をフリーにしたのは、戦略的に失敗ですね。

 その騎士さんは、なんともいえない顔をして、
「息子が大変無礼なことを申したようで、親としてお詫び申し上げる。」
「幼いお子様の申すことです、気にはしません。」

 そして、ウィルヘルム君に向かって、
「私はお父様のお嫁さんにはなれませんわ、でもありがとうございます、こんな素敵なお父様を紹介してくださって、これはお礼ですわ。」

 腰を屈めて、ウィルヘルム君を見つめ、その頬にキスをして差し上げました。

 ウィルヘルム君は、
「じゃあ、父上のお嫁さんはいい、僕の母上になれ。」
 とがんばります。

 サリーさんが、「お嬢様は、幼い男の方によくもてますね。」と笑っています。

「そうですね、ジャン君以来ですね。」
 ウィルヘルム君はどうしても、私の手を離しません。

 この時点でサリーさんも、ダフネさんも、雲隠れです。
 私も少々困ってしまい、しかたがないので、
「ウィルヘルム様、私でよければ、今夜だけお姉さまになりましょうか?」

 お父様が、「ウィルヘルム!」と云いましたが、「キスをして差し上げました仲ですから、今夜一晩エスコートしていただきましょう、よろしいでしょう?」と言いますと、
「ご迷惑を掛けます、ではよろしくお願いします。」
 と頭を下げました。

 周りの方が、息を呑むのが分かりました。
 この騎士さんは、よほど大物なのでしょう、多分一番の……
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