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第八章 ホラズム王国
01 駅馬車の中
しおりを挟むなだらかな平原を、うねる様に一本の道が走っています。
アムリア帝国の国境から、幾日馬車に揺られたでしょう。
朝、宿を出て、乗り合い駅馬車に乗り、夜、宿へ泊まる。
最近の私たちは、これを繰り返しています。
歩いても良かったのですが、これだけ馬車にゆられなければ、たどり着けないのですから、馬車もいたしかたない所ではあります。
しかし、問題が一つありました。
現在、この馬車には、私たち三人しか乗っていないということです。
ビクトリアさんが呆れたように、私を見ています。
当然でしょう! ダフネさんがぴったりとくっついて、私の髪をいじくっているのからです。
朝からずーと、ダフネさんはあきもせずに続けています、時々、ため息をつきながら。
「ダフネさん! いつまで触るのですか!」
少し気色ばった私に対して、ダフネさんはしゃあしゃあとのたまってくれます。
「あきるまで。」
ビクトリアさんが「もう十分と思うが?」と云ってくれますが、ダフネさんはやめる気配がありません。
「若いっていいわ、こんな綺麗な髪でいられるなんて。」
「どうしたら、こんなに綺麗になれるのかしら。」
「手触りがいいわ。」
耳元で囁きながら、息を吹きかけてきます。
どきどきしてきます。
!
「どこを触っているのですか!!!」
「む~ね~」
「大きからず小さからず、この手のひらにスッポリとはまる大きさが最高!」
カチンとこめかみあたりで、音がしたような!!!
「ええ、どうせ私の胸はダフネさんみたいに大きくないですよ」
「そんなに胸が触りたければ、ご自分の大きな胸を触ればいいじゃないですか!」
「この若い張りのある胸がいいの、ね! ビクトリア。」
ビクトリアさんに話を振るダフネさんですが、あれ、ビクトリアさんが!
「たしかに、あるじ殿の胸は魅力的ではあるが、私は下のほうが、触りがいがあるのではと思うが。」
ビクトリアさん、だいぶ変ですよ、お願いだから正気をたもって。
私の顔がひきつったのを見て、ビクトリアさんが大笑いをしながら云いました。
「あるじ殿をからかうのは面白い。」
「ダフネもそう思わないか?」
なんか一瞬、ビクトリアさんから殺気がほとばしったような気がします。
「そうね、面白かったわ。」
ダフネさんがニヤッと笑ったが、これまた微妙な殺気がでましたよ。
私はあわてて、話題を変えることにしました。
「ダフネさん、目的地はまだまだ先ですか?」
「そろそろ、お迎えが来る頃ですね。」
「チョット作戦会議といきましょう。」
お迎えって初耳です。
ダフネさんの説明によると、ホラズム王国には、ダフネさんが元神聖教大賢者として、当地を観光で訪れるのでよしなに、と書簡を送ったそうです。
体面を重んずるホラズム王国のこと、必ずどこかで出迎えが来るだろう。
ホラズム王国とはそのような国だそうです。
また私のことは秘密なので、護衛と従者を伴っていることになっているそうです。
つまり私はダフネさんの侍女で、ビクトリアさんは護衛ということらしい。
しかも知恵者のダフネさんは、私のことはある良家の息女で、ダフネさんが後見を務めている。
このたびの観光は私が世間の検分を広めるためで、不測の事態を避けるために、このような手法となっていると、はっきり書いて送ったらしいのです。
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