惑星エラムより愛をこめて 第四部 野良アンドロイド編 【ノーマル版】

ミスター愛妻

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第五十八章 征服した人々

戦闘艇X665

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 夜は深まり食事も終わり、私は居間でくつろいでいます。
 眼下には臨時首都の明かりが、漆黒の闇に美しく輝いています。

 スペース・ラグーンの景色が似ていますが、あまりにも高すぎるし、山はなだらかですので、このカウラパパのように、町の灯が眼下に見える訳ではありません。

 この景色は本当に美しいものです。
 聞けば何千年もこの景色が維持されているとか……
 進化の殆ど無い惑星アールヴヘイムンにおいて、この近代世界が成立するためには、どれほどの時間がかかったのか……
 どう考えても億年単位……人々の歴史と惑星の歴史が、乖離しているとしか思えません……

「ミコ様……」
 ウルヴァシーさんが声をかけます。

「カウラパパの夜景は綺麗ですね……」
「そうですね、ここはアールヴヘイムンの聖地なのですよ、世界はこの崖から生まれたと、神話にあります」
「神話ですか、夜なべの話として聞かせてくれませんか?」

「えっ……私はそんなに詳しくはないのですが……」
「昔、先祖たちは獣のような生活をしていたそうです、そこへ神が現れ、私たちに知識を授けた」

「私たちは神とともに、幸せな生活を送っていたが、悪魔が現れ、神はこの場所で戦われた」
「山は割れ、崖ができるほどの戦いの果てに、悪魔は倒され神の命も後僅かになられたとか……」

「そして最後を悟られた神は、神と共に戦った16王家の我等の先祖に対して、全てを託されて消えていかれた」
「16王家は、託された神の知識を世界に広め、アールヴヘイムンは創世された……」

 非常に意味深ですね……ちょっと、何かがありそうですね……探してみますかね。
 私は惑星アールヴヘイムンに充ち満ちているナノマシン群に、高度な科学技術の遺物を探知するイメージを発動しました……
 スジャータさんたち……これは違います……
 絞り込みとして、過去の物を追加して再イメージ……

 信じられないことに一つあります……
 目の下の臨時首都の遥か下、地下三千五百メートルあたりのところに、人工物が埋まっています……完全に機能していませんが……

 人工物の中には空洞があります……でも呼吸などはできそうもありません……
 その人工物に対して、透視のイメージを発動しますと……見えてきました……

 壊れた人工知能です、戦闘艇?……
 惑星フェアリーにおける戦闘艇ミリーに似ていますが……男性体の戦闘艇でした……
 人工知能のものではなく、サイボーグ戦闘艇……

 そして遺書がありました……
 データバンクに封印されたもので、言語はやはりアスラ族のもののようです。
 厳重なロックがかかっていますが、惑星エラムにいた男性体指導者、オーディンのデータから、パスワードを推測して実行しますと……

 解除されました、なんとか文面ぐらいは、読めそうですね。

 それにはこう書かれていました……


 戦闘艇X665はここに記述しておく。
 我等は女性体正規軍と決戦し敗れた。
 私はこの惑星にたどり着き、女性体を倒す戦力の補助として、この地の霊長類を進化させようとした。

 事はうまく行きかけたが、女性体正規軍に発見された。
 私は自らを犠牲にして、この惑星の好戦的性質の霊長類を守ることにした。

 霊長類のリーダーたち16名には、近代程度の知識を与えておく。
 それ以上を与えると、女性体が気づくと思われる。
 もし気づかれても、近代程度の知識なら抹殺もされないと判断できる。

 私が必死で戦い破壊されれば、女性体どもはこの惑星を去るとだろう。
 もし男性体の仲間で、この解除コードを解読できるものがいれば、この最後の記述を読み、願わくば私の計画を引き継いで欲しい。


 ……ここでは、神は男性体、悪魔は女性体……
 哀れなものね……戦闘艇X665、貴方の努力は実を結ばなかった。
 挙句の果てには虫どもの餌場になりかかり、女性体の最高指導者たる私、軍事称号ルシファーを所有するヴァルナ評議会議長が、貴方の遺書を読んでいる。

 まぁ、慈悲です、このまま消えてしまいなさい……
 私は戦闘艇X665を、このまま周囲の物質と同じようなものに変換するイメージを発動しました……
 貴方の墓碑としてこのデータだけ預かりましょう、惑星アールヴヘイムンが貴方のお墓……

 戦闘艇X665、惑星アールヴヘイムンの神の残骸は、跡形もなく消えてしまいました。

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