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第十二章 開店騒動
ジョスリーヌさん、独白す
しおりを挟む「今のままでも傾国の美女よ、その上に気さく、貴女の娘が恋焦がれているのもわかるわ」
「マリアンヌの話は私の耳に入っていますが、ジョスリーヌ、チェーザリの娘に手を差し伸べた理由ってあるの?」
サンドラ・ペドローニ侯爵夫人が、そのような事を云いますと、
「サンドラが云ったように釣り合う殿方なんて、この世界には一人としていないわ、ジルド殿下はご執心で、王妃様もあわよくばとは思われているけど、無理とは思われているでしょうね」
「チェーザリの娘は、『結界』魔法を持っているのよ」
「エマさんって、今のままでもあの美貌、しかも表立ってはパン屋の主人、貴族の馬鹿息子どもが、よからぬことをしないようにね、虫よけね」
「王妃様も陛下も、エマ様の国外流出は絶対に避けたい、カペーの馬鹿は本当に馬鹿だったのね、ベネットでそのような馬鹿が出ては困るのよ」
「ゴトーネースも、せっかくエマさんがバンベルクに腰を据えようとしていたのを、教皇猊下の思惑に逆らえなかった、または本当に事態を知らなかった、どちらにしても大失策ね」
「エマさん自身も知らないようだけど、近頃寒波が変なのよ、カペーはここ十日ほど、記録的な寒波だそうよ、ゴトーネースもバンベルクあたりを除いて、カペーほどではないけど寒さが酷いみたいね」
「国王陛下宛の、各国大使館からの伝書鳩便の近況報告らしいわ」
伝書鳩便は、機密事項などは扱わないようですが、差しさわりのない各国の状況を報告しているようです。
分析すれば、それなりの事が分かりますからね。
「奇妙な一致、偶然と言えば偶然、しかしエマさんが……皆が薄々感じていることは真実……ならね……これ以上は口に出せないわ……」
「エマさんの2人の侍女、間違いなしに愛人よね、特にクロエという娘は、とても綺麗で、カペーの王妃が愛人にしようと考えたらしいのよね、でも王妃付きの女官長が嫉妬したようね」
「報告によると、どうやら男が嫌いみたいなのよね……ご実家は元アレグロ王国のノーズル準男爵家らしいわ」
「フレイヤという娘は、元スコーネ公国戦士、楯の乙女と呼ばれたフレイディースの事よ、聞いたことはあるでしょう?でも惚れ惚れするほど凛々しいわね、男装させれば、女がほっとかないわね」
「だからね、エマさんの2人の愛人を眺めると、女好きと判断できるのよね」
「そしてベネットの女は、エマさんの愛人になっていない……そういうことよね」
「チェーザリの娘も、あの管理人も有能な上に、それなりの美貌、管理人はトスト準男爵家長女、チェーザリの娘アーダの実家は今は子爵家だが、奴隷ということで貴族にはなれない」
「つまり、正妻の座はあいていると云う訳ね、マリアンヌが収まれば私としては万々歳だが、この際贅沢は言ってられない、なんとしてもベネットの女が正妻に収まって欲しい」
「そこで王妃様と相談した結果、『正妻の資格があるベネット貴族の娘』を押し込むために、つまらない争いは控える……」
「王妃様は、王家の誰かを正妻候補にする、ライネーリ辺境伯家はマリアンヌ、ピネー侯爵家からも一族の誰かを推薦する、バッジョ侯爵家、ペドローニ侯爵家、フォンターナ子爵家はどうするか考えておいてね」
……
「いまごろ王妃様が、この話をロミーナさんにしていると思うわ、テレジオ侯爵家はどうするのかと?」
「ゼローラ公爵家はどうするの?アーダはあそこの当主の孫娘にあたるわよ?」
「一度でも奴隷になった以上、貴族の肩書は認められないわ、たとえ公爵家がなんといってもね」
「でも、ゼローラ公爵家の顔をたてて、公爵家が望むなら、奴隷身分から解放して、バロネテス(女準男爵)を贈っても良いそうよ、ただしエマさんが手をつけることが絶対の条件ね」
「もっとも、エマさんの愛人にはベネット王国から、バロネテス(女準男爵)を贈ることに決まったわ」
「それって……」
「そう、皆が薄々感づいていることを、裏打ちすることになったのよ、絶対に公表はしないけど、暗黙に公言するわけよ」
「さて、そろそろ出ましょうか?皆さんもこの正妻レース、参加するかどうかは、次のジョスリーヌ・サロンの時までに決めてね、それ以降は認めないそうよ」
「お待たせ♪女はお風呂は長くてね♪待たせたわね♪」
「あら、いい匂いね♪」
「その……5人でお昼を食べていたもので……」
「何食べていたの?」
「簡単にパスタを取り寄……」
「言い淀まなくてもいいよわ、ここにきている者は察したうえで来ているのですから、まずいことは死ぬまで胸にしまうわよ」
「助かります」
「そこで少しお願いなのだけど、皆エマさんは、本当は見た目が少し違うのではと思っているの、見せてくれるかしら?」
見せましたよ、偽装なんてあんまり好きではないのでね。
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