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第十章 隠匿の大聖女様
お見合いじゃないわよね!
しおりを挟むオリエッタ王妃様についていくと、王宮内の一室にたどり着きました。
「ここよ♪ジルドいる?」
王妃様、ノックもせずにドアなんてあけるのです。
「いますが母上、ノックぐらいしてくれませんか?」
「いえね、紹介したい女性がいてね」
「お見合いは結構です!」
「今回は違うわ、勧めないわよ」
「珍しいこともあるのですね」
「母としては、ジルドが口説いてくれれば嬉しいけど、貴方では落とせないわね」
王妃様、露骨に徴発しています。
話の内容から、相手はオリエッタ王妃様の息子さん、ベネット王国の王太子でしょうね……
「エマさんたち、お入りなさいな」
王妃様、息子さんの承諾なんて聞かずに、勝手に私たちを呼びます。
「失礼します」
「ジルド、この方たちは旅のパン屋さんたち、クレマン宰相宛のバンベルク大主教の紹介状をもってこられたのよ」
「バンベルク大主教の?」
「そうよ♪こちらがエマさん、ご実家は元カペー王国ルルー子爵家、カペー王国王太子婚約者だった方よ♪とても綺麗でしょう?」
「このお二人はエマさんの使用人、こちらがクロエさん、元カペー王妃付きの女官さん、ご実家は準男爵家♪」
「この方はフレイヤさん、エマさんの使用人で、元スコーネ公国戦士、楯の乙女よ♪」
「この子は私の息子、ジルドよ♪王太子なの」
「貴方、シルミ村の視察に出るのでしょう?この方たちもシルミ村へ行かれるの、だから同行してあげて?」
「私が?」
「そう、貴方が」
「それは……父上の?」
「そうよ」
「……分かりました……が、私は12時半に出ますので、近衛連隊前の広場でお待ち願えませんか?」
近衛連隊前って、王宮内にありますよね。
「申し訳ありません、お忙しいのに」
「いえ、いいのです、母は強引ですから、エマさんたちは押し切られたのでしょう」
「あとは若い者同士で打ち合わせしてね♪じゃあ私も忙しいからこれでね♪」
えっ、王妃様、どこ行くのよ!
……
「あの……ジルド様、私どもの馬車は、このフレイヤの『回転車輪』魔法で動かしております、行軍速度は大丈夫でしょうか?」
「急ぐこともないので合わせよう、シルミまでは1日、どのみちどこかに泊まる、遅く着き早く出ればいいだけだ」
「ところでフレイヤ殿というのか?貴女の『回転車輪』魔法、馬車を牽くことが出来るか?」
「荷物と道路状況によりますが、2台ぐらいなら牽くことができます」
「では1台、荷馬車を牽いてくれると助かる、道はかなり良いから大丈夫と思う」
「分かりました、1台ぐらいなら」
「助かる、馬の調子が悪くてね、牽かせるのは忍びなかったのだ」
……
「ところでエマさん、その……カペーの王太子と婚約していたとか……好ましく……思われていたのか?」
「いえ、嫌いでしたが、家の関係で断れなくて、正直な所、清々しています」
「そうか!」
……
「ジルド様、私どもも出立の準備がありますので、これで失礼します」
……
「そうか、では12時半までに近衛連隊前の広場に来てくれ」
ジルド殿下の執務室を出たのは12時前、やれやれ……
退室すると、待ってましたとばかりクロエさんが、
「エマ様、王妃様、あきらめたとか云われておられましたが、殿下の妻に押し付ける気満々でしたね」
「そうね……困ったわ……」
「殿下、エマ様を見て驚かれておられましたね、その後の視線の熱い事♪」
「そうなの?きずかなかったわ」
ニヤニヤしながらクロエさんが、
「エマ様、嘘が下手ですね♪きずいていらっしゃったのでしょう?」
ここでフレイヤさんが、
「私でも分かる、ご主人様はなかなか席を立たなかった、何時ものご主人様なら、最初の沈黙で、『出立の準備』を口にされるはず」
「フレイヤさんも思ったのね、さっきのエマ様、おかしかった物ね♪」
「エマ様、殿下の事、まんざらでもないのでは?」
「私にはクロエとフレイヤがいます!」
クロエさんが、
「別に私たちは『愛人』で良いですよ♪エマ様が殿下の正妻になられるなら、正妻が女の『愛人』を持つ話は、よくある話ですから♪」
とんでもない話を聞きましたが、良く調べてみると……
君主の正妻というのは、政略結婚の場合が多々あり、あまり離婚などしないらしい……
愛が醒める、またはもともと愛情がない……当然、夫は外に側室、妾、愛人などより取り見取り……
孤閨の正妻は寂しい……そして、この世界は女性同士の結婚なども可能な世界、周りは女ばかり……
離婚話になるよりは、妻のストレス発散の為の『愛人』なら、目をつぶってもよい……子は出来ないですからね。
つまり、私が殿下の正妻に収まるなら、今のままの関係は可能?という事らしいのです。
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