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第七章 国境越え

ただの旅人の商品

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「エマさん……、いえ、エマ様……先ほどのお言葉に甘えに参りました……」
 真っ青な顔ですが、何かの決意がうかがえます。

「私を信じるのですか?」
「正直に申し上げますが、信じたいというところです、そして私の今後は、信じるしかないのです」
「この体は狂いそうです、これ以上、恥をさらしたくない、家名に泥を塗りたくない……」

「マリアンヌさん自身はどうなの?」

「……幸せになりたい……」

「分かりました……マリアンヌ・ライネーリの『健康診断』起動……」

「そうそう、呪いをかけた相手に呪いを返してあげましょう」

 『反転』ボタンをおして、状態異常 性感極大(快楽ホルモン過多)を消して……

 『反転』ボタンをおして、状態異常 心不全を消して……

 再度、マリアンヌ・ライネーリの『健康診断』起動……

 ※※※※※
 健康診断

 名前 マリアンヌ・ライネーリ
 年齢 13歳
 性別 女

 健康状態 疲労
 心理状態 良好
 
 性交状態 異性0人、同性0人、異種0人

 状態異常 修正の必要を認めず
 ※※※※

 治りましたね……

「治りました、欲情は収まったでしょう?心臓が止まりかけていた呪いも消えています」
「ただ『疲労』が残っていますので、養生するようにね」

「えっ!」

 ……

「淫靡な感覚がなくなっている……頭もすっきりしました……胸の動悸もなくなりました……私、治ったんだ!」
「もうおかえりなさい、こんな胡散臭い女たちの事は忘れて、幸せになりなさい」

「エマ様、どうか、お母様にあってくださいませんか!きっと、お母様もお礼を申し上げたいと思うはずです!」
「無用ですよ、私たちはしがない旅商人、楽しく生活するだけですからね、私たちのステータスは見ているのでしょう?貴族なんて付き合いたくもありません、こりごりですよ」

 ストーブの前で、こんな問答を繰り広げていると、乱入者が……

「そうはいきません、エマ・ルル―さん、いや、エマ・マルタンさん、娘マリアンヌの治療、こころよりお礼を申し上げなくてはなりません」
「私はジョスリーヌ、マリアンヌの母です」

「お母様、いつのまに……」
「心配でね、こっそりとついてきたの、お話は聞こえました、娘の呪いを解呪できたのですね、こう見えても私もステータスはみえます」
「娘の呪いは、違法な禁呪に近い呪い、『聖女様ぐらいでなければ解呪できない』と聞かされています」

「ジョスリーヌ様、それ以上は口に出さないでください、たまたま通りすがりの『聖なる水』を所有していた旅人がおり、最後の小瓶をライネーリ辺境伯夫人にご購入いただいた」
「マリアンヌさんの呪いは、その『聖なる水』を全て飲み干し、解呪となった」
「私どもはしがない旅商人、パンを売って生計を立てております、その通りすがりの旅人さんは、急いでいたらしく、そのままどこかへ出発したようです、事実は、こうですね!」

 エマさん、物凄い目力ですよ。

「……マリアンヌ、貴女の呪いは、その『聖なる水』を全て飲み干し解呪できた、いいですね」
「呪いの事は今まで通り内密に、そして解呪できた理由を口にしなければならない場合に追い詰められたら、そう答えるのよ、分かった?」
「分かりました、このことはお母様と私の胸の中にしまっておきます、お父様に聞かれても、『聖なる水を全て飲み干し解呪できた』と答えます」

「聖女エマ様、これでよろしゅうございますか?」
「ジョスリーヌ様、私は旅商人なのですが……」

「……そうですね、ではエマさんとよばせていただきましょう」
「そうしてください」

「口裏を合わせるわけですが、そうなるとライネーリ辺境伯家としては、『聖なる水』のお代を支払うことになります、経理上の処理をしなくてはなりません」
「いかほどでしょうか?」
「その旅人さんはどうも『聖職者』のようで、お代の代わりに、領地の孤児院に毎年、いくばくかの援助をとのことです」

「どのような援助でしょうか?」
「このフレイヤは孤児で、とても苦労したようなのです、なのでパンとスープぐらいお願いしたいそうです」
「そんなに大層にしなくて構いません、孤児さんたちも、この先、1人で生きていかなければなりません、援助を当然と思わせてはいけません、ただ、たまには美味しい物をお腹いっぱいとか、そんなささやかな幸せの思い出を持たせてあけたいのです」

「さすがに『聖職者』さんですね……わかりました」

 この後、ライネーリ辺境伯家は領内の孤児院に、毎年、パンとスープ、それにおやつを提供するようになったそうです。
 なぜか、『聖女の心』とか銘打って……

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