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第二十三章 ロマニア大公国の姫

02 アン大公女

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「実はアンさんにも、お菓子会に参加してもらいたいのですが?」
「アン様は本当に恥ずかしがり屋で、人と交わることが苦手なのです。」

 付き人さんは声を潜めて、
「実はアン様はお母様がおられません、継母にいじめられて、逃げるようにここへ留学されたのです。」
「本当にお可哀そうです。」

 付き人さんは、さらに声を潜めて囁くように、
「アン様はロマニア大公国大公女、その方の継母とは大公妃様、お察しください。」
 なるほど、命の問題ですか。

「護衛はつけないのですか?」
「そのような予算をつけてもらえるなら、苦労はありません。」
「付き人さん、貴女のお名前は?」
「レイラといいます。」

「レイラさん、用心は必要ですが、アンさんの成長にはいかがかと考えます。」
「でもどうすれば、私にはアン様を守る手段が、用心しかないのです。」

 私はアテネさんを呼びました。
「レイラさん、このアテネさんは剣の達人、有名な女傭兵のビクトリアと互角の腕前です。彼女は私の護衛もしてくれています。」

「つまり私と一緒に、お菓子会をするということは、私を護衛するアテネさんの、護衛の対象にもなります。」
「このことは内緒ですよ。」

「さて、アンさんをお菓子会にお誘いしてもよいでしょう?」
「お願いします。」

 アンさんが美味しそうに、お菓子を食べています。
 アンさんのお菓子は、私が持ってきたものを渡しました。
 このおかげで本当に私は、子供たちに奢って貰う羽目になりました。

 アンさんが、
「ヴィーナス先生、ありがとう。」
 と云ってくれました。

 レイラさんともお話をしましたら、なんと偶然とは恐ろしい、かつまた都合よくできています。
 おなじ女子寮に住んでいました。

「あまりお会いした記憶がありませんね?」
「いえ、こちらはよくお会いしています。ヴィーナス先生はお姫さまと呼ばれて、警備の男の方はカッコイイ方ですね。」

「あの方はロキさんといいます、ご紹介いたしましょうか?」
「えっ……」
 嬉しそうに顔を赤くしたレイラさん
 ロキさん、もてもてです。

 私はアンさんに、
「おなじ女子寮にいるのですから、遊びに来てくださいね。」
 と言いますと、「はい」と答えてくれます。素直ですね。

「アンさん、幾つになります?」
「八歳です。」
 大人びています、女の子は早熟なのです。
「アンさん、いつかボーイフレンドを紹介して差し上げますよ。」

「私はヴィーナス先生の愛人でも……」
 危ないことを云ってはいけません。
 ロリータはアリスさんまでです。

 夕食にアンさんとレイラさんをご招待しました。
 アナスタシアさんが、腕によりをかけて作ってくれたチーズフォンデュです。

 この世界のファインという、ワインのような醸造酒でチーズを溶かしたので、本当にチーズフォンデュですね。
 チーズは人の営みがある世界では、存在する物のようです。

「アナスタシアさん、とても美味しいですね♪」
「イ、……お姫様、ありがとうございます。」

 レイラさんがじっと私たちを見ています。
 そしてしばらく考えていたようですが、
「アナスタシア皇女さまですか?」

「私は一度、遠くからではありますが、お会いしたことがあります。」
「アムリア帝国第一皇女、アナスタシア様に間違いないと思います。」

「……」
 ちょっと困りましたね、というより大変困りました。

「アナスタシア皇女さまが、お姫さまと呼ぶ相手は、一人しか浮かびません。」
「アナスタシア皇女さまを購入して、愛人とされた方、イシュタル女王様。」
「……」

「レイラさん、その名の人はここにはいません、そうですね。」
「そうでした。」

「アンさん、こちらはサリーさん、アテネさん、アナスタシアさんです。」
 と皆さんを紹介しますと、アンさんが、
「私はアンと申します、よろしくお願いします。」
「こちらはレイラさん、私の侍女でもあります。」

 やはり血は争えません、それとない威厳を感じました。
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