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第十五章 教団領へ

08 さらに浴室での雑談

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「ヴィーナス様は、本当にお綺麗ですね。」
 アンリエッタさんは、私をまじまじと見て云いました。

「この中央神殿に勤める女官は、基本的には独身の処女、選りすぐりの美女です。」
「皆さん、黒の巫女様は存在しないと思っていますので、平穏なのですが、ヴィーナス様は大丈夫ですか?」

 それって、どういうことですか?

「私のように既婚者は、女官の管理のために少数いるだけ、この女官たちは、黒の巫女様に仕えるために存在する訳で、ヴィーナス様が黒の巫女様としてやって来られると、大変なことになるでしょうね。」

 アンリエッタさんは話を続けます。

「ヴィーナス様が黒の巫女様になるということは、この中央神殿の女官たちの主。」
「当然、女官たちには、夜を奉仕する義務があるのです。」

「長く処女で、一生を終えると諦めていた女たちが、色めき立つのは必須です。」
「ましてヴィーナス様は神々しいほど美しい方、このチャンスを逃すとは考えられません。」

「この女が女を愛人にするエラムの習慣、何とかなりませんか?」
「無理でしょう、基本的に女が多いのですから。」

 ただでさえ、七人でギブアップなのに……

「いったい何人女官はおられるのでしょう?」
「詳しくはわかりませんが、数百人単位でいます、黒の巫女様に捧げられた奴隷は、この数の範囲外です。」

「いっておきますが、この女官たちは、生活能力などありませんよ。」
「神に奉仕することだけを、幼き頃より叩き込まれた人たちですから、自分の命より、巫女様命になることは間違いありません。」

「彼女らは黒の巫女様の奴隷で、そのことを名誉と考えているのです、ダフネさんから聞いていませんか?」
 私が首を振ると、アンリエッタさんは、
「そうですか、ヴィーナス様が怯まれるのを考えたのでしょう。」

 たしかに怯みますね。
 黒の巫女になったら、この美女の集団をどうすればいいのでしょう……

 でも私は楽天家、この場合は、
「アンリエッタさんに裁いてもらいましょう、私が黒の巫女なら、アンリエッタさんは首席女官長になるでしょうから。」
「その時はその時に考えましょう。」

 私がそう言うと、アンリエッタさんが小さくため息をつきました。
 ご苦労様ですね、人ごとにしときます。

「ところで、ヴィーナス様、アナスタシア様を愛人にされたとか、可愛がってあげてください。」
「アナスタシア様は幼いころより、皇后様に嫌われ、惨めな宮廷生活を送ってこられました。」

「私はアナスタシア様がお可哀想で、なんとかお幸せにと念じていました。」
「それなのに病魔に侵され、先行き短いことになり、必死で隠しておられましたが、皇后様に売りに出される羽目に。」
「私はイシュタル女王が購入されたと聞き、暗澹とした気持でおりました。」

「イシュタル女王は、愛人をとっかえひっかえ、気に入らなければ死を贈る残酷さで、大陸中から死の女王と呼ばれ、恐れられている存在。」
「この時ほど皇帝と皇妃に、怒りを感じたことはありません。」

「しかしダフネさんから、イシュタル女王とはヴィーナス様のことで、その後、アナスタシア様から直接に、お優しいイシュタル女王、ヴィーナス様のことを聞き、嬉しくてたまりません。」

「ヴィーナス様、私たちがこのお名の意味を聞いた時、夜明けの明星と、お答えになりました。」
「明けの明星が輝くのを見て、真理を見つけたと、ヴィーナス様の世界の、賢者のお話も聞きました。」

「ヴィーナス様を見ていると、本当にその名の通りと思います、このエラムに現れた、夜明けの明星、光をもたらす者。」

 時が満ちれば乙女を遣わしましょう。
 黒き瞳と黒き髪、
 正しきにあえば、慈悲の乙女、
 悪しきにあえば、英断の乙女

 女神からの黒き乙女、黒の巫女が現れるとき、頭をたれてお迎えせよ。
 心改め、我らの過ちを繰り返すな。

「この世界の神話にある通り、私たちは夜明けの明星を、お迎えしなければと、確信するのです。」
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