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第十五章 教団領へ
03 主席の影
しおりを挟むアポロさんから報告書が届きました。
教団内部の軍事クーデターについてです。
神聖守護騎士団が、内政庁の腐敗を理由に、それを見逃していた賢者会議に対して、武力蜂起して内政庁を解体。
賢者会議のメンバーを、神聖守護騎士団に敵対しない人達に入れ替えさせたらしく、その結果、賢者会議は名ばかりになり、実権は神聖守護騎士団が握っている。
その神聖守護騎士団も一枚岩ではなく、その内部ではアムリア帝国派と、反アムリア帝国派に割れているらしい。
現在はアムリア帝国派が優勢で、神聖守護騎士団行政府はアムリア帝国派が握っているが、軍事力の中核である聖戦騎士隊は、神聖守護騎士団団長のもとにまとまっており、反アムリア帝国派となっている。
ただ反アムリア帝国派を支えてきた、ホラズム王国からの資金は、減少の一途をたどっており、近々反アムリア帝国派は壊滅すると思われる。
セリム一座に公演を依頼したのは、アムリア帝国派で、ジャバ王国が反アムリア帝国派にならぬように、イシュタル女王のお気に入り一座の公演をきっかけに、ジャバ王国に接近して、あわよくば自派に取り込もうとしていると思われる。
今回のクーデターは、どうやらアムリア帝国派が主導したらしい。
ミスターピエール氏は、当然反アムリア帝国派で、今では聖戦騎士隊隊長になっており、次期神聖守護騎士団団長候補であるが、アムリア帝国派が失脚を画策しており、早晩失脚することは確実と思われる。
私はダフネさんと、この報告書を読んでいます。
最後にアポロさんからの書簡がついていました。
ジャバ王国としては当面、アムリア帝国とことを構えるわけにはいかず、表だって反アムリア帝国派のミスターピエール氏に肩入れする訳には行かないので、イシュタル様が秘かに援助していただきたい、資金はニコルに用意させます。
「ダフネさん、アムリア帝国ってこんなに優秀でしたっけ、私は帝国領を幾らか見聞し、いままた興行をしながら思うことは、アムリア帝国は、こんなことができないほどに末期的に思えるのです。」
「教団内部で軍事クーデターを起こさせ、教団領の施政権を手に入れ、神聖守護騎士団反アムリア帝国派を日干しにするなど、こんな芸当は無理ではありませんか?」
「誰か別の者が、アムリア帝国を動かしていると思えてなりませんが。」
ダフネさんも、
「たしかに巫女様の云う通りと思います、でも誰がとなると……」
私は言葉を引き継ぎました、「主席ですかね……」
ダフネさんが頷きます。
……
「とにかく、ピエールさんには何としてでも、神聖守護騎士団団長になってもらわなければなりません。」
「私の剣として、トール隊長とともに、私の側にあっていただきたいと思っています。」
「まずはミスターピエール氏に、資金援助をしなければいけないですね?」
「ダフネさんは密かに中央神殿に潜入できますか?」
「私ならそれは訳のないことですが、相手が聖戦騎士隊隊長ともなると、おいそれとは接触できません。護衛の魔法士がついていますので。」
私はしばらく考えましたが、
「では神殿内にいるはずの、一人の女性になら接触できますか?」
「相手さえ分かれば簡単です。」
「相手はアンリエッタ、ピエールさんの妻です。」
「この人も私に忠誠を誓った方、信用できます。」
「でもダフネさんはアンリエッタさんを知りませんね、サリーさんなら分かるのですが、興行中の一座から踊り子がいなくなるのはまずいですし……」
「ダフネさん、アナスタシアさんを連れて、潜入はできますか?」
「鍵の所持者なら大丈夫と思います。」
「私に少し考えがあります、アナスタシアさんを呼んで来てくれませんか?」
アナスタシアさんがやってきて、
「イシュタル様、なにか私に御用がおありとか?」
「アナスタシアさん、聞きにくいことですが、貴女は昔、アムリア帝国騎士団総長のピエールという騎士をご存じですか?」
「知っています、しかし火事で死亡したはずですが?」
「ピエールさんは生きています。その妻のアンリエッタさんは知っていますか?」
「アンリエッタは私つきの女官でした。ピエールの妻になると言うので祝福したのですが……アンリエッタも生きているのですか?」
「私がサリーさんと、このエラムを彷徨っている時、ピエールさん達と出会い、その時、アンリエッタさんは死の淵にいましたが、なんとか二人で治療しました。」
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