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第十四章 踊り子
06 旗揚げ
しおりを挟むアナスタシアさんは、この頃アリスさんが可愛くて仕方がないみたいです。
「アナスタシアさん、アリスさんを猫可愛がりするのも、程々にしてください。」
「イシュタル様のように、厳しいだけではいけません、アリスさんは、親の優しさを知らないのです。」
「まだ十四の可愛い娘さん、それなのにイシュタル様のために、身も心も差し出して、健気ではありませんか。」
「見ていると、イシュタル様は父親のようです。その優しさは誰もが分かりますが、アリスさんには、自分を溺愛してくれる母親も必要なのです。」
アナスタシアさん、たしかに貴女の云う通りです。
なるほど世界には、母親の愛が必要な時もあるでしょう。
厳しいだけではだめ。
優しいだけではだめ。
この世界を何とかするために、私が女として呼ばれたのは、この辺が理由なのでしょうか?
でもアナスタシアさん、それはやり過ぎでしょう!
アリスさんのステージ衣装の凄いこと。
アナスタシアさんお手製の、これでもか、ぶりっ子衣装と呼べそうな代物。
全体にパステルトーンのピンクで、所々にショッキングピンクがアクセントにはいったその衣装、しかも頭には真っ赤ですごく大きなリボン、ビビッドトーンですね、なんとも鮮やかな色です。
足にはこれまた同色の、真っ赤な靴を履かせています。
甲斐甲斐しくアリスさんの世話をしています、何か嬉しそうですね。
「お姉さま、似合います?」
たしかに良く似合いますが……
「アリスさん、歌は上手くなりましたか?。」
「あまりはしゃいで、演技を忘れてはいけませんよ。」
そう、アリスさんは最後に歌うのですが、この場面は、椅子に座り、テーブルに手を組んでのせ、祈るように歌うというものです。
その時、愁いを含んだ顔が要求されますが、アナスタシアさんが作ってくれた衣装が、嬉しくて仕方がないアリスさんは、満面の笑みで歌ってしまうのです。
「アリスさん、ステージには自信がありますか?」
「まかせてください!」
その元気なら大丈夫でしょう。
さて、そろそろ旗揚げとしますか。
私はニコルさんに、その旨を伝えました。
私たちはキリーの町で、最後のリハーサルを公開することにしました。
そのために、急遽舞台が作られました。
公演は夜にすることになっています。
アポロさんは渋ったのですが、座長に徹しているニコルさんの鶴の一声で決まりました。
アテネさんの剣舞に歓声が沸き上がり、サリーさんの清楚な踊りに拍手が起こりました。
サリーさんは綺麗です、私のサリーさん……
小雪さんのジゼルには、息をのみました。癪ですが美しいの一言です。
さすがはジゼルの第二幕。
青白いダフネさんの魔法の光を浴び、白い衣装で闇の中から浮かび上がる様子は、小雪さんが美女ゆえに鬼気迫る迫力があります。
ビクトリアさんの黒子が、小雪さんを持ちあげて、幽鬼のようにふわっと踊るさまに、舞台も客席も物音一つしません、圧倒的な存在感でした。
私、踊らなくていいんじゃないの?
舞台の隅に置いた、私のCDラジカセのスイッチを、マリーさんが入れました。
ドラムとスズの音が流れだします。
ダフネさんが、今度はカクテル光線を出してくれます。
どうもこのベリーダンスを踊ると、官能的になってしまいます。
それは、私がベリーダンスを練習していますと、サリーさんがやってきて、手とり足とり腰をとり、あげくに胸をとり、唇までとられて、流し眼や官能の表情など微に入り細に入り教えてくれましたので、どうも身体が反応してしまいます。
私が踊り終えますと、これまた物音一つしません。
舞台をなにか熱みたいなものが漂っています。
しばらくして熱気が去っていきますと、すごい歓声がやってきました。
キリーの若い衆は気に入ってくれたようです。
最後にアリスさんが、あれ、立って歌っている。
アナスタシア・ステージママ、やりましたね、まあ、しかし、これはこれでいいでしょう。
パステルトーンのピンクのステージ衣装は、私たちの踊りとは別物です。
なにか人に、優しさと安らぎを思い起こさせるものがあります。
ダフネさんがアリスさんに光を浴びせ、その彼方に虹をかけました。
私がエラムの言語に翻訳した歌詞が歌われます。
信じた夢は本当に叶う……
私たちのメッセージを受けとめてください。
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