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第五十六章 十月のチョットした出来事

青井男爵家の醜聞

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 十月になり、春野加代様の件は何事もなく終わり、世間様は日輪兵舎の話でもちきりです。

 結局、この日輪兵舎のアイデアは岩倉姫宮雪乃王女が提供し、青井財閥が実用化したものである、と『聖女青鞜局』が発表し、陸軍築城部が管理するので、日輪兵舎のアイデアを利用する場合、陸軍築城部に図面を添えて報告すること、となりました。

 これについては私の意向で、青井財閥または陸軍が作成する図面の場合、特許使用は無料です。

 他の図面の場合は官については陸軍、民については青井財閥に、一定額の特許使用料を支払っていただきます。
 これの二割五分は『聖女青鞜局』に収めることになりました。

 私は無料でもよかったので、『聖女青鞜局』に以後全額寄贈することにしました。
 聖女青鞜局次長が、予算が少ないと嘆いておられましたからね……

 さらには、陸軍築城部提供の図面なら、設計料は無料、緊急時には国家に提供することを条件に、税金の減免措置も受けられます。
 『帝国陸軍借上建物制度』とか……

 不思議なので、皇太子殿下にお聞きすると……
 
 ……円形になっており、戦時下に簡易トーチカに転用可能との意見具申があった、提供していただいたヘスコ防壁で外周を防備し、天井に盛り土をするそうだ……
 とのお返事をいただきました。

 ……そういえば、築城部の発表した図面は二階建ても可能な平屋建て……ある程度盛り土しても大丈夫な……まったく…… 
 
 陸軍築城部提供の図面なら、設計料もかかりませんし、『帝国陸軍借上建物制度』を申請すれば、建物にかかる税金はかなりお安くなるわけです。
 おかげで、各地の地方自治体などから、庁舎などにと、陸軍築城部に申請がたくさんあったそうです……

 で、『帝国陸軍借上建物制度』を受け付けた陸軍築城部からは、かなりの数のヘスコ防壁が青井財閥に注文があり、青井財閥は陸軍御用の看板を掲げたわけです。

 ある日、文子様が
「雪乃様、青井男爵家から、パーティーの招待状が来ておりますが……」
「私宛に直接?」

「はい、不躾ですね、雪乃様に直接招待状なんて……」
「私信ならいざ知らず、『聖女岩倉姫宮雪乃王女殿下』をパーティーに誘うなんて、公式になるということを、わきまえておられないようです」

 一応私も養女といえど王女ですからね、朝比奈雪乃でなら、男爵家からのパーティー招待状もなんとか許されるでしょうが……

 でも朝比奈家は元伯爵家、いまでは侯爵家ですので各上、または同格の子女を正式にパーティーに招待する以上は、もう一通、当主宛にその旨をしたためた書状が必要で、執事が二通を携え、招待先の当主に差し出すのが帝国における、華族の仕来りのはずですよね……

 青井男爵家からのパーティー招待状は、格下の相手へのパーティー招待状、男爵家は華族の一番下、つまり平民を招待するもの……
 この時点でアウト、まして私は現在、王女ですからね……

 王女を招待する場合、宮廷にお伺いをたてるのが先、そして宮廷の爵位局から、お母さまにお伺いをし、許可を得て、はじめて王女のパーティーの出席が決まるわけです。
 それをあろうことか、王女に格下相手に出すパーティー招待状を送りつける……

「青井男爵家は、このようなことも知らないのでしょうかね?」 
「『聖女青鞜局』にお任せしますので、そちらに回しておいてください」

 当然、パーティーの招待はお断りされました。

「皇后様はご立腹で、皇帝陛下も青井男爵をお呼びになり、叱責なされておられました、宮廷の爵位局はカンカンで、何らかのペナルティーを課すと息まいているとか……」

「これで青井男爵家は、社交界からつまはじきは確実、どうするのでしょうか?」
 青田真希子様のお言葉ですね。

「陸軍御用ですから、表立っては叱責で終わるでしょうが……この醜聞は困るでしょうね……」

「春野様の件で尽力された青井財閥は、雪乃様からのアイデアでかなりの売り上げがありました」
「味を占めたようで、さらなるアイデアを頂きたく、雪乃様の歓心を買おうとして、下手を打ったようです」

「だからお父様に呼ばれて叱責されたのね」
「異例のことで、宮廷の爵位局も驚いていたようですよ」

「チャンと手続きしてくれたら、出席してお礼を申し上げたのにね」
「まあ、常日頃、青井男爵家は華族のお付き合いはなされておらないようですし、そもそも華族会館にも、滅多にご当主はお顔を出されないとお聞きしております」

「評判が悪いのですか」
「はい」

 青井財閥……大丈夫なのでしょうかね……

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