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第四章 ユージェニー・ビンガムの物語 タテ号の受難

サルガッソの出来事は何も無かったのです。

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「全員、銃を構えろ!」
 乗組員に、このように命令したユージェニー・ビンガムは、
「そこの女、海賊は絞首刑か斬首と決まっている、救助は無駄である、その女児だけは助けよう、速やかに自決せよ」
 
 突然、非常操縦計算処理装置が
「警告、海底からメタンの泡が浮かび上がってきます、転覆の危険性あり」
 と、同時に海面近くの水中で爆発が起こります。

 ……ふん、斬首は免れない、さっさと消えなさい!

 タテ号は木の葉のように揺れ、ボートに乗っていた女は首が切断されて浮いていました。
 二人の女児は、何とか転覆しなかったボートに乗ったままです。

「子供たちを助けよ」
 でも、乗組員が動きません。
「中尉……」
「いわんとすることは分かるが、子供ではないか!」
 タテ号はボートに接舷しました。

「そこの子供、汝らも亡霊であろう、しかしこのままボートで漂うのは不憫である」
「我らに害をなさぬと誓うなら、こちらに来い!」

 見たところ九歳ぐらいと、六歳ぐらいの姉妹のようです。

 ……ユージェニー・ビンガムさん、見直したわ……
 まぁ何とかしてあげますか……

 タテ号のキャビンに、光が渦巻き始めます。
 そしてアリアンロッドが降臨したのです。

「皆、今回のことは内緒よ、あってはならないミステリー、分かりましたね」
 と云うと、ボートの子供たちにむかって、
「どうします?助かりたいなら、ここではっきりということよ」

「私たちはメアリ・リードのように、貴女たちをいじめはしないわ、それに生き返らしてあげるわよ」
 と言って、手をさしだすアリアンロッド。

 姉妹はおずおずと、アリアンロッド手を握ると、タテ号に乗り移ってきました。
「二人とも、私と手を繋いだのですから、体は生き返ったいますよ、互いに手を握って見なさい」

 互いの手のぬくもりを感じたのでしょう、大きな声を上げて、泣き始めた姉妹です。
 
 アリアンロッドは、姉妹の目線まで腰を落として、
「このタテ号の、乗組員の皆さんの言うことを良く聞くのよ」
「先のことは心配しなくていいわ、二人の希望の通りにしてくれるでしょう」

「ただね、自分のことは名前と歳以外は喋っちゃだめよ、元亡霊なんていえないでしょう?」
「遭難してどれくらい?ミシシッピ川でおぼれたのね、去年に?ならご両親はいるの?」

 姉妹はフロリダの出身、いわゆる解放奴隷、ほとんど白人に見えます。
 どうやら曽祖母がアフリカ系黒人、ほどんど白人なのに、くだらないアメリカのワンドロップ・ルール――一滴でも白人以外の血が混じっていれば非白人という認識――で奴隷との扱いだったようです。

 解放されたはいいが、クー・クラックス・クラン―KKK、アメリカの秘密結社、白人至上主義団体――に一家皆殺しにあい、かろうじて逃げ出した二人も、その途中で足を滑らせミシシッピ川でおぼれたようです。
 その為、おぼれても誰も気にしなかったのですね。

「二人とも、ナンタケット島で暮らしたほうがいいわね」
「ユージェニー・ビンガムさん、悪いけどこの二人、ナンタケット島まで面倒を見てやってね」
「クレア・ミラー准将にはよく言っておくから」

「じゃあ忙しいので後を頼むわね、あと一日でアドリアティック号との会合点よ」
「二人は漂流中に救助した子供で、ボートに乗っていた、どうも記憶が定かでない、このあたりで言い逃れてね」

 そういうと、アリアンロッドは消えてしまったのです。
 その後、一行は無事にアドリアティック号と会合、ナンタケット島に帰還したのです。

 この姉妹、姉がアビー・メロン、妹がドリー・メロンといい、とても可愛い娘さんたち。
 なぜかユージェニーに懐いて、まんざらでもないユージェニー、妹のように面倒を見たりしています。

 非番のときなど、おやつを持って姉妹の相手などね。
 でも問題が一つ、ユージェニーにはドナ・ダルトンという十歳の姪がいるのですが、この姪はユージェニーが大好き。

 はるばるとアイルランドのキルデア州北部メイヌースから、ユージェニーの姉が姪をつれて遊びに来たとき、メロン姉妹とかなり険悪な雰囲気になり、手を焼いたとか……

 ユージェニーさん、アリアンロッドさんの苦労が理解できたなんていっていました。
 結局、この三人はユージェニーに憧れ、アリアンロッドに仕えるようになったとか……

 FIN

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