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第四章 クセーニャの物語 移住

生き残るための一つの提案

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 クセーニャは、門より外に出て言います。

「私はナーキッドの一員ですが、ロシア国民でもあります、皆様も善良なロシア国民ではありませんか!」
「ロシア国民同士で争って、どうするのですか!」

 このときのクセーニャ・アタエフには、威厳がまといついていました。
 にじみ出る博愛を糧として、何事かを成し遂げようとする力、崇高さが見えるのです。

「過ぎたことは戻せません、ナーキッドとしては妥協できないのです」
「しかし皆様はロシアの民、そして私もロシアの民、ここにいる方々の大半は、善良な方と信じています」

「それゆえ私から一つの提案があります、多くの苦難が待っているかも知れませんが、現時点では最善の方法と思われます、良くお聞きください」
 そしてクセーニャは、一つの道を語ったのです。

「いまロシア帝国は、ザ・バイカルなどを放棄しています」
「その地は中国との核戦争で、人が住めなくなっています」
「しかし極東に、ロシア帝国の地が残されており、その地は放射能などからも守られています」

「極東ロシア軍は、少人数でこの地を防衛しているはずです」
「ナーキッドも肩入れしていますので、中国軍に蹂躙されることはないはずです」

 多くの民衆は耳を傾けています、不思議なことに、この地に集う人々に聞こえているようです。

「その地とはどこですか!」
 民衆から声がかかります。

「カムチャッカです」 
 失望が漂い始めます。
「あまりに遠い……」

「シベリア鉄道が寸断されている現状では、カムチャッカは確かにあまりに遠い、しかしここに一つの方法があります」
「クリミアのオディッサ港は機能しています、航路でカムチャッカに向かうのです」

「皆様が志願し、義勇兵としてカムチャッカ防衛に向かうのなら、ロシア義勇艦隊に話がつけられるはずです」
「三次配布となる抗ボルバキア薬は大変高価ですが、皆様が命を賭けるというなら、ロシア帝国政府がナーキッドと掛け合い、代価を支払うことも可能でしょう」

「そして皆様の家族は、ロシア帝国のために戦う、名誉ある義勇兵のご家族として、抗ボルバキア薬の配布を受けられるはずです」

「……」

「ただし一つ妥協していただくことがあります、いま船を出せるのは義勇艦隊だけでしょう」
「食料などは不足気味です、教義における食事制限は出来ないでしょう、そのほかにも特別の配慮は出来ないはずです」

「それを我慢できない方は、各自で道を探すしかありません、志願して抗ボルバキア薬を服用、義勇艦隊の船に乗り、特別の配慮を要求した場合、即座に銃殺が待っていると、覚悟してください、三次配布の無償提供は、命が代金なのです!」

「とにかく早く解散してください、もうすぐ陸軍の増援部隊が来るはずです、すぐに発砲されますよ」

 このクセーニャの言葉に、一人また一人、人が減っていきます。
 そしてこのミハイロフスキー城外の流血事件は、何事もなく終わり、歴史に微かに刻まれる程度となったのです。

「たいした度胸だな、見直した」
 何かあったら助けに入るつもりでいた、ブラッドメアリーのガートルードが声をかけてきた。

「ガートルード様……私、必死でしたから……」
「そうか……」
 
 ……我らのミコ様はいつも見守っておられる……
 クセーニャは必死だったから、きずいていないのだろう……
 バンパイア一族のためにも、我らブラッドメアリーは献身しなければならない……いや、そんなのは建前、私はミコ様のために献身したいから、私の愛するミコ様……

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