惑星エラム 幻のカタカムナ 第二部 胡蝶の夢編【ノーマル版】

第二十八章 民草無残

陽城の争いを眺めながら

　私たちの、崋山白雲宮への旅が終わりになるころ、陽城では、ついに武力衝突が起ころうとしています。
　禁軍同士で、戦いが始まりだしたのです。

　事の起こりは、禁軍最精鋭を自負する、殿前諸班の一人が、侍衛歩軍の一人を罵ったことに始まります。

　陽城の妓楼で、二人の男が一人の遊女の取り合いを演じたのです。
「武進士がどうした！こちとら、長く禁軍の飯を食ってるんだ」
「ようよう弓を引ける程度の若造が！そこらの安い女で十分だぜ、どうせ黄花后生――童貞――だろうが！」

　侍衛歩軍の一人が、殿前諸班のエリートを罵ったのです。
　これに怒り心頭の、殿前諸班所属の武進士が、剣を引き抜いたのですが、侍衛歩軍の古参の軍士に、叩きのめされました。

　翌日、朱雀大路で、この二人がばったり顔をあわせます。
　双方には仲間がいました。

「おや、昨日の黄花后生、首尾よく筆を降ろしたのか？」
「なに、陰間にした？女は怖くて抱けなかった？」
「おのれ！」

　武進士は、今度も剣を抜きましたが、同じような目に会います。
　しかし仲間が、この侍衛歩軍の古参の軍士を、切り捨てたのです。

　これで双方が斬り合いを始め、全面的な軍事衝突となったのです……

　殿前諸班は勇戦しますが、数で勝る侍衛馬・歩軍が徐々に優勢になります。
　陳皇妃たちは、地方の軍閥を呼び寄せます。

　応じたのが、北部の国境に展開する軍閥、遊牧民との闘争で鍛えられた精鋭部隊です。
　たちまち侍衛馬・歩軍を打ち破り、陽城を制圧したのです。

　しかし夏貴妃たち、少数の者はうまく逃げおおせ、江南の軍閥を呼び寄せます。
　殿前司や北方軍閥を打ち破れば、その褒賞は軍閥の長に王位を与える……破格の恩賞を約束したのです。

　そんな状況が、ここ崋山白雲宮にまで聞こえてきます。
「いよいよですね……むごいことになりそうです……」

　二つの勢力はにらみ合いを続けます。
　そして互いに支配下地域で、兵卒の強制徴募を行ったのです……

　農村から、若い男が無理やり引っ張られていきます。
　そのような兵を、無意味な戦いに投入しているようです。

　農村から怨嗟の声が聞こえ始めます……いままで唯々諾々と従っていた、無知と思われた農民……そのような人間に武器を与えた……

「起こりそうですね……」
「止められないようです……」
　と、趙文悦さん。