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第二十三章 ウマイ

畏怖

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 馬は……どうしたの?
「アイヌルさん、テングリ東の女たちは、なぜ歩いているの、馬は……」

「身一つで放り出されたのでしょう、多分、略奪されてきた女たちでしょう……買い取る身内もいない……残ればみじめな奴隷生活が続く……」

 ?

「戦いで、美しい女を奪ってくるのです……価値がなくなると……捨てる……この機会に賭けたのでしょう……」
「ご主人様は、明らかに女神さまの化身……どうせ歳をとれば捨てられ……どこかで死ぬことになる」
「なら、女神さまのお手で殺されるのなら、まだその方がまし……」

「しかし……奪った女でも、それなりの待遇ではないのですか……」
 そうでした……戦争捕虜ですよね……身代金を支払われなければ、奴隷でしたね……

「ではあの方たちは……」
「死ぬために付き従っているのです」
 私の条件の説明が悪かったようです……
 確かに取りようによっては……飽きたらポイを覚悟せよ。
 それでもついて来たのですね……

 私のこめかみに、十字のマークが浮かび上がったような……

「あの方たち以外に、そのような女は残っているのですかね?」
「いないとは思いますが、動けない者が幾人かは……」

 私は歩いて付き従ってくる、女たちの元へ行きました。
「お仲間で残っている者はいるのですか?」
「動けない者とか、女神さまの御前に出られない者とか、数十名が残っています……」

 ……

「希望する者は全員です、私は言葉をたがえません!」
 私は一行をそのまま進むように指示しておき、再びテングリ東のクリエンに戻りました。

 他の地域から、テングリ東の兵が集結し始めています。
 その中を私は歩いています。
 ナノマシンはまだ活性化していませんが、私の手には愛用の電撃杖があります。

「奴隷女を幾人か忘れていた、もらっていくぞ!」
「……」
「テングリ東の者どもよ、生き残りたかったら、ここに奴隷女を全員集めろ」

「王を殺した女、よくものこのこと来たものだ」
「私はいま機嫌が悪い、かかって来るなら、さっさとこい!」
 ガラが悪い……極悪の私です。

 とびかかってきた男は、私の電撃杖で心臓を貫かれています。
「いくらでもかかってきなさい!私への血の供物として受け取ってあげます」
「次はだれか!私に戦士の血を捧げるのは!」

 血を要求すると、アステカの神になった気分ですが……事実そのとおりなのでしょう。
 この社会体制に、怒りを抑えきれないのです……

「マスター!精神エネルギーが増大しています!不測の事態が起こりかねません!」
 ……不便……な私…… 

「これ以上、私を怒らせないでくれませんか……滅亡したくないでしょう……」
 声のトーンを抑えて言いますと、異常な沈黙が支配しました。

「戦の女神よ……では、我らテングリ東族をどう扱われるのか?」
 明らかに、この場の指導者らしき男が、進みでて云います。

「私は嘘はつけない、したがって真実を語るしかないが、私は汝らの王を殺しに来たのだ……」
「かの者は私の分身ともいえる存在だった……かの者が誕生したのは、私の不手際といってよい……」

「したがって、弟とも呼べる汝らの王を、始末するしかなかった……」
「テングリ東の民に含みはない」

「ただ私も女である、女がこのように虐げられているのを見ると、怒りが湧いてくる」
「しかし、これは汝らの社会風習とは理解している、したがって何とか怒りを抑えたい」

「だからこの場は、私の要望を受け入れよ」
「この場にいた、いわゆる『奴隷女』は、私と縁があるのだろうから」

「奴隷女は献上させていただく、ただ一つ、我らにも願いがある……」
「云ってみよ、可能ならば、一つぐらいは聞き届けてもよい」

「この地の部族は、長く戦っていた」
「我らテングリ東族は、この地の部族を統一して、南の趙に対抗しようとしていた」
「しかしいま我らは力をなくし、再び争うこととなる……」

「できますれば、この地の各部族を、争わないようにしていただきたい……我らも正直疲れた」

 ……どうしましょう……なんとか簡単に、この願いを聞き届ける方法があるかしら……

 私はここで思い出したのです……
 惑星エラムの、今は無きフィン連合王国の社会体制を……

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