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第二十二章 人殺しの旅
草原の鬼火
しおりを挟む「出てきなさい」
何かが、草むらから浮かび上がってきます。
それは少しずつ、赤く怪しく輝き始めます。
そして一つ二つ群れ始め、いつしか大草原全体を、怪しく照らし始めました。
「この地に満ち満ちている者どもよ、悪いけど消えてくれない!」
「私は今忙しい、かかわってられないのよ!」
「消えないのなら、消えてもらいますよ!」
「だれだ……お前は……」
と、一つの魂が誰何(すいか)します。
「だれでもいいでしょう、私は明日、この先にいる一人の男を殺しに行くのです、生半可な相手ではないのよ!」
「だから今夜はゆっくりしたいのよ、どうするの、私に消されたい?ならかかってきなさい!」
「その男とは……テングリ東の王の事か?」
「なら、どうするの、もういいわ、消えなさい!」
周囲の空間が振動します……
私のイラつきが、エネルギーとなって空間をゆすっているようで、急速に周囲の気温が上がっていきます。
「待ってくれ……我らの話を聞いてくれ……」
私は小さいローソクを、空中に作り出しました。
土壌がするすると、糸のように持ち上がり、燭台となります。
「この灯が消えるまでです、云いたいことを云ってみなさい、ただし耳を傾けるかは、保証の限りではない」
「……我らは……テングリ南の者……テングリ東に、ここで餓死させられた……」
別の魂が、
「戦に負けたのだ……我らがどのように殺されようと、それは戦の掟……しかし一族の女子供に穴を掘らせ、妻子の前で我らは餓死させられた……」
堰を切ったように次々と語り始めた……
「テングリ東の長は……息子たちを穴の上で切り刻み……餓死寸前の我らの上に、投げ込んだ……」
男は皆殺し……禍根を残さぬということですか……見せしめの意味もありますね……
目的のためには手段を選ばぬ男……
「愚痴は終わったのか」
「……」
「汝らの無念の気持ちは、わからぬでもない、しかし汝らはどうなのか?」
「殴った方は忘れても、殴られた方は忘れない、しかし汝らは殴ったことは無いのか?」
「声高に無念を叫ぶが、汝らは加害者ではなかったと云えるのか?云えまい」
「なら、この世界の習いに従うしかあるまい、つまりは負けた者が悪い、戦いとはそういうものだ」
「嫌なら何としても戦わないことだ、腹を据えて従うもよし、しかし私なら逃げる」
「支配されるのを潔しとはできない、しかも勝てない……」
「なら逃げて、勝てる力ができるまで、何としても新天地を求める」
「逃げれないのなら、歯を食いしばって耐える」
「……」
「汝らは醜い!」
「無念なら、こんなところで女相手に愚痴らず、北東に向かって移動せよ」
「そしてテングリ東の民に、復讐をなぜしないのか、つまりは、汝らはウジウジと、愚痴をこぼすだけの存在なのだ」
「女!」
「ほう、怒ったのか?すこしは、男の物がついているようだな」
「よろしい、なら明日、私に従い、テングリ東の男どもに目に物言わせてみろ!」
「挑発か……なら聞くが、テングリ東の王は悪鬼だ」
「その力はそら恐ろしい物がある、その力を封じてくれるのか?」
「なるほど、挑発は汝らの方か……弱みを見せての茶番劇か……うまいな……」
「それは、そちらもではないのか?」
「たしかに貴女は、巨大な力をお持ちのようだ、しかし周りの雑魚どもの対処は、面倒なのだろう?」
「我らの力も必要なのでは、だから挑発した……」
おぉ……女から貴女となりましたか……
「ふ・ふ・ふ……どうやら互いに意見が一致したようだ……テングリ南の者、明日力を貸せ、日の下でも戦えるようにしてやろう……」
私が笑うと、草原にテングリ南の亡者どもの、不気味な笑い声が響いた。
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