惑星エラム 幻のカタカムナ 第二部 胡蝶の夢編【ノーマル版】

第十九章 ブリタニカ余波

ハレム騒動後日談

「ところで、ベルリンのハレムはどうなったの？」
　姉がインスタント・コーヒーなどを前に云いました。

　ここはスペースコロニー１のニライカナイ駅、中原ステーションとの連絡駅で、ニラポと呼ばれる、電気軌道の始発駅とも呼べる場所、その駅近くのニライカナイカフェです。

　ニライカナイの住人には、もれなく配られている携帯用のチタンのマグカップに、セルフで入れたインスタントココアを飲みながら、私は神妙に聞いています。

「なんとかガヴァネス、女孺（にょじゅ）さんの採用で収まりました！人妻なんかどうかと、いってきたので拒絶しときました！」

「オーストリアの？」
「そう、エリザベートさん」
「世紀の美女じゃないの、もったいない」
「人妻ならアンリエッタさんなど、物にしてたじゃない？」
「あれとこれとは違います！本人が望んでいないのは明白です！」

「会ったの？」
「いえ、会ってませんが……」
「でしょうね、あなたと会って、断る女なんかいないと思うわ」
「……」

「まぁいいじゃない、しばらくは、女問題は起こさないようにしなくっちゃね」
「あまりに連続で大規模ですものね、皆、仕方ないのはわかっていても、神経を逆なでするようなことは、慎まないとね」

「よくいいますね、ブリタニカの一件は、少しは姉さんもかんでいるでしょう？」
「あら、そうだったかしら？」
「まったく……」

「夫人・佳人・麗人クラスの女は、今大変なのよ」
「どうして？」
「だって、全員同じように歳が変動するのは問題でしょう？」

「だから各人の開始の歳を、ばらばらにすることになったのよ、分かるでしょう？」
「皆、一番早く、若くなりたいわけね」
「そう、でも文句なしの籤なのですけどね、皆ドキドキなのよ」

「誰が行うの、マレーネさん？」
「薫さんよ、だから今は機嫌悪いわよ」
「後が怖いわね」

　スペースコロニー１は、小さい球形の移民船クラスの宇宙船です。
　軍事要塞である、ニライカナイの人工衛星群を構成するものですが、小さいといっても直径１００キロ、内殻と外殻に分かれ、その間に重力発生装置がついており、内部空間に都市があります。

　スペースコロニーの駅といっても、直径１００キロクラスの宇宙船の中央駅ですから、それなりに大きいですよ。

「空間が余っているわね」
「無理して詰め込むこともないでしょう？」

　とりとめのない会話ですが、こんな話をしながら、セルフカフェで街の景色を眺めるのも、のんびりできて、私は好きなのですよ。
　色々な女が行きかっていますね……

　シェリル・オルコットさんと、ノーマ・ブラックストンさんが歩いていましたね……テラのハニーエンジェルという娼館で、ロリータ娼婦をしていたのですが……
　いまでは二人とも側女……三十七歳にはならないはず……妖艶な色気がにじみ出ています……

　とくに明日からは、皆さんのお歳の不老化が強化され、若返る日が始まるようです。
　呼び出しがあるまで、ドール・鹿の園にある、個人の住宅で待機することになっているので、とりあえず暇ですから、中原シティに繰り出す方も多いのでしょう。

　二人でまったりと、インスタントのコーヒーとココアを飲んでいると、知った方が入ってきました。
　蓬莱のカリとチュヌの姉妹さんです。
　蓬莱ではお世話になりましたね。

　この二人、今では側女……三十六歳のはずですが、とてもそのような肉体年齢には見えません。
　二人とも十歳は若く見えますよ。

　私たちに、気が付かないようです。
　窓際の端っこに座っていますからね。