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第六十章 根源の存在

有るべき姿は正しきかな 其の一

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 ラグナロク戦争と呼ばれたものが終り、ネットワークワールドも落ち着いてきた頃、何かしら雰囲気が変わってきました。
 とくにアールヴヘイムンあたりでは、露骨な争いが影をひそめ始めたような、全体に落ち着いたような雰囲気があります。

 ……やはり『時の輪』の影響が有るみたいね……生存競争がないと活力もなくなる……本来の正しい姿はあるべきの姿ではない……だから私が戻ってこれたのか……

 アールヴヘイムンの、ヴィーナスさんのハレムは活発に活動しています。
 ウイッチの希望者が目白押し、女達は各王都に開設されたハレムの支部、ここは、ほぼブリタニカと同じ程度の科学技術ですので、最終的に惑星ブリタニカの女官養成システムが導入されています。

 つまりレディス・スクールが、各王都のハレムに隣接してあります。
 レディス・カレッジは、その昔に虫に滅ぼされた、二つの海洋国家領を接収し直轄領とし、その旧ガンダーラ王国の王都、チャルーサダにあります。

 ヴィーナスさんはこの世界では、サムラートと呼ばれ女官制度はジャーリア制度と呼ばれているようです。
 『最後の審判戦争』が終了してから百年たち、先ごろ念願の直轄惑星に昇格、その間に、女達の地位は向上、直轄領にある執政官府に勤めるには、ものすごい競争率のレディス・スクールに入学する必要が有ります。

 さらにレディス・カレッジに、入学または進学するには、容姿端麗以外に頭脳も要求されます。
 このジャーリアとして勤め、退職した者に対して年金以外に、起業の資金が貸し与えられ、色々と便宜が図られます。

 直轄惑星になったので、レイルロードが限定ではありますが、解放され交易が許可されているのです。
 ただこの容姿端麗条件は、頭脳明晰条件の前には緩和されます。

 とてつもなく賢ければ、どうしようもない容姿の方といえど門は開かれている。
 頭脳明晰は、個人の努力で高められるもの、決して天才を要求しているわけではないのです。
 『賢い』を要求しているのです。

 さらにカレッジ入学許可が下りた学生で、一定条件の容姿を満たさぬ場合、本人の承諾の後に、DNAで可能な範囲において、美しくなれるのですから、どんな女でもせっせと努力するわけです。
 いくら美しくても、あまりにひどい方は拒絶されるのですから。

 落ち着いた雰囲気の中に、他の惑星世界との交流による活力、そしてハレムを目指す女達の意気込みが核となり、望ましいあるべき姿を、作り出しているのです。

 同じ事は、多くの惑星世界で起こっています。
 エラムは相変わらずですが、女達の自立がかなり確立し、男を立てながら、魔法をよりどころに生活が向上しつつあります。

 そしてハレムが、女達の憧れの的となり、活力を持続させる一つの核となっています。
 なんといっても、ヴィーナスさんのハレムでは、競争は構いませんが、足の引っ張り合いは厳禁なのです。
 この不文律が、惑星世界に浸透しつつあるのです。

 その結果、女が多い世界ですが、陰湿な所は影をひそめ、潔くない行為は非難されるようになっています。
 さらにいえば、ハレムにおいての虚勢なども、ヴィーナスさんがとても嫌う関係上、ネットワーク世界ではそのような行為に対しても、評価はされなくなっています。

 この世界では、嘘偽りは忌避され、もしそのような事が発覚したら、社会的に葬られる事になります。
 ナノマシンが充満している世界において、ネットワーク審議会に上告された件は、真偽が明らかにされます。

 ナノマシンは時空間の出来事を記憶し、最近は幽子ナノマシンが、対象者の心の動きを記録しているのです。
 偽証はあり得ない、信賞必罰、目には目をが、ネットワーク世界における共通の価値観となります。

 これは誰にでもわかる不変の真理です。
 死んだ者の権利は、生きている者の権利と同じなのです。
 人を殺した以上、同じように殺される。

 誰もが認める必然性が有れば別ですが、それ以外の人殺しに、更生などはありえないのです。
 更生などというのは二の次、三の次、信賞必罰の前には戯言にしかすぎません。

 さらに言えば若年層といえど、罪は罪、犯した罪は何といっても消える事はありません。
 ネットワークに、少年法などという概念はないのです。

 罪を購うには、より以上の良きことをして、公平の天秤を戻さなければなりません。

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