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第五十四章 デーヴァの『しもべ』

時の遡上

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 いまだに、ネットワーク加盟の多くの惑星世界の住民は、ラグナロクが行われている事を知りません。
 虫の上陸艇が、バステトの成層圏を突破した事が有りましたが、瞬時にスピンクスが対処したおかげで、バステトの住民が気がつく事はありませんでした。

 しかし、いつくかの虫の星系を取りこぼしているのは確実、この物質世界に橋頭保が出来たようです。
 ここを破壊する前に、虫は全艦隊を分散させてしまったのです。

 ……勝ったな、これで虫の宇宙艦隊を増殖させればいい話、ネットワーク加盟の惑星に、直接攻撃をかければ良い、転移は簡単だ。

 奴らは餌が必要、近くの星を手当たり次第に襲うだろう、ネットワークを揺るがすことはできる。
 ほっとけば崩壊の可能性がある、さすれば最後のミリタリー、ユニバースも息切れとなる。

 後はプラネテスだけだが、戦力が枯渇すれば投入せざる得ない、それでも虫の戦力は増加する……
 イシスを引きずり出せば、後はルシファーが残るのみ、ルシファーには強大な力があろうが、今の我はそれを凌駕する、それに力をそぐ方法もある……

 最後の始末は、我がしなければならぬだろう、そのためにも完璧を期さなければならぬ、チェックメイトだ、ルシファーよ……

 ブラフマーは虫の艦隊を、あちこちにそのまま複写しはじめた。
 ブラフマーにとっては造作もないことのようで、魂の入れ物でもある、幽子さえも複写できるらしい。

 ルシファーも肉体の再構成、そのままそっくり同じ肉体は出来るが、人格までは再現できない。
 知的生命の創造という、神の領域においてブラフマーはより神に近い存在といえる。

「虫があちこちで、加盟惑星に直接攻撃をかけてきていますが、ユニバースが全力で阻止しています」
「加盟惑星の防衛は完璧ですが、貨物鉄道は全域で交戦している関係で運行停止状態です」

「配備していただいた、『ミニ・インフェニティ・カーゴ』で、貨物鉄道の損失は埋め合わせています」
「今のところ、ネットワーク・レイルロード本線を戦時運行とし、その合間に貨物を運行していますので、市民生活に影響はありません」

「虫の戦力がこのまま増加していくと、加盟惑星のステーションも、戦闘に巻き込まれる恐れがあります」
「バステトステーションや、過去のソル星系ガリレオ衛星ステーションの、防衛戦闘のような事が起こる可能性が増大しています」

 戦時最高幕僚部で、ゼノビアさんが報告しています。
 
「ステーションの防衛体制は、大丈夫ですか?」
「戦訓により、非常用小型核融合炉と小型陸戦ロボットの配備は完了、戦時備蓄品も定数以上に備蓄していますので、大丈夫と思います」

「ただ虫の突撃艦が突入して、ステーションに虫が侵入してくると厄介な事になります」
 
 マレーネさんが、
「具現化した虫の星系から出撃したものでなければ、それは物質化した虫の兵士、その場合、虫の兵士は実体化していますので、殺せば良いでしょう、ナノマシンで処分は可能です」
 
「それには時間管理が必要です、今までの虫の戦い方を見るに、存在を確定したら、瞬時に増殖を開始する」
「ブラフマーの戦い方か、何かの制限が有るのかは不明ですが、そうなる前に処分しなくてはならない」

 私の発言に対して、マレーネさんが、
「確かにマスターのおっしゃる通りですが、時間管理と言われれば、やはり凍結時空間となりますが……」
「乗っているマニッシュ婦人戦闘軍が少ないというのでしょう、でもそんなに難しく考えなくても手はありますよ」
 
 ?

「タイムトラベルですよ、マレーネさんは幾度となく行っているではありませんか?」
 
「時の遡上ですか……」

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