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第五十二章 この世界を守るべし
分析
しおりを挟む「『メギドの火』って、本当に必要なの?」
ニライカナイにある私の家で、珍しく姉がご飯など作ってくれ、これまた珍しく二人で、お食事をしている時に姉が云ったのです。
「使わなければいいのですが……」
「私がこのようなことを言ってはならないのでしょうが、『メギドの火』って、あってはならないものではないのかしら……」
「ここだけの話、『メギドの火』って、アスラ族の科学技術に無かったのではありませんか?」
「いくらマレーネさんが男性体最高の人工知能、つまりはアスラ族最高の科学技術の結晶だとしても、オーバーテクノロジーと、私は感じるのです」
「私が現役のときには無かったわ」
「ではなぜマレーネさんは作れたのか、疑問に思いませんか?」
「姉さん、『メギドの火』をダウンサイジングした時ね、驚いたことがあるの、『メギドの火』ってね、中身は空なのよ」
唖然とした顔をしたイシスさん。
「空、何もないという意味?」
頷くヴィーナスさん。
「だから量産といっても、そのままコピーするしかないのです」
「『何もない』が有るわけね」
「幽子を破壊するわけですから、質量はないのでしょう、しかし機能するのです」
「その上マレーネさんは、何の疑問も持っていない、おかしいでしょう?」
「それは、マレーネが自発的に……それはあり得ないわね……」
「マレーネさんは幽子の知識はあった、そしてアスラ族はそれを利用して宇宙を渡っていた」
「しかし鏡界については、推測でしか存在を知らなかった」
「なのに、その鏡界を破壊する、『メギドの火』って、作れるものでしょうか?」
「なるほどね、誰かが知恵を入れたのね……」
「マレーネさんに知恵をインストール出来て、なおかつ何の疑問も持たさない、なんて芸当ができるのは、私と姉さん、そしてそれより上位の方……その方が『メギドの火』を使えという……」
「それに『メギドの火』はインフェニティ・カーゴで量産できるのよ、さらにはミニ・インフェニティ・カーゴは『メミニ・メギドの火』を量産できる……」
「なのに誰も『メギドの火』の内容をしらない、疑問にも思わない……」
「つまり、『メギドの火』を使わなければ勝てない、ということ?」
「正確に言えば、『メギドの火』を使って勝て、という事と私は思っているの」
……
「近頃、デーヴァの無限というものがなにか、輪郭が見えてきたの、これは『オメガポイント』ではないかしら」
「オメガポイント?フランク・ティプラー――フランク・ジェニングス・ティプラー三世、数理物理学者――が提唱している理論?」
「そう、たしか、『強大なコンピュータがあれば、各個人の脳の量子状態をシミュレーション内で再創造することで、かつて生きていた人々全員を復活させることも基本的には可能だということである』――ウィキペディア、シミュレーション仮説のフランク・ティプラーのオメガポイントより抜粋――、この理論に良く似ている」
「そして脳の量子状態を『記憶』と呼び、それを起動幽子に刻めば、個人の歴史を繰り返すことができる」
「『記憶』が有る限り、幾らでも復元できる……」
「しかもこの理論なら、鏡界も理解できる」
「有限の時間の中に、無限の時間を作り出せるかもしれない」
「『時の狭間』とは的を得ている」
「確かに物理法則が効かない幽子状態で、宇宙を渡っている時、存在を停止してしまえば、記憶だけの幽子が『時の狭間』に残る」
「この記憶からは、肉体などの情報も取り出せる」
「フリーの起動幽子に、記憶だけの幽子から好きな情報を取り出し埋め込めば、自分の望める世界を、作らせることも可能となる。」
「事実、凍結時空間は、このシミュレーション内の時空間ではないのか……」
「質量の無い幽子が質量を持ち、物質世界に現れるという具現化が起こる時、ヒッグス粒子が存在できる時空間が必要なのは自明の理」
「スカラー場と呼ばれる世界、そして記憶を刻まれた幽子は自在に活動できる」
「それが小は凍結時空間、大は鏡界、私たちは簡単に凍結時空間などと呼び、その存在を疑わないが、いったいどこからその確信が来たのか……」
「つまりは『天之御中主(あめのみなかぬし)様』の思し召し、そして『天之御中主(あめのみなかぬし)様』は『メギドの火』を私たちに授けられた」
「癪に障る事」
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