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第五十二章 この世界を守るべし

虫の神

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 時の流れに、散り散りになっている粒子が、くっつくわけでもなく、なにかが関連して、絡み合った状態になっている粒子群が、初禅三天と呼ばれる世界。

 そして関連づけしている、記憶を司る幽子による相互作用の結果――絡み合った素粒子論、1992年にIBM が発表した理論に近いと作者が勝手に判断流用した―― 初禅三天に何か極小の『ゆらぎ』が現れます。

 ブラフマーは、その極小の『ゆらぎ』の周りに、凍結時空間を作り上げた。
 『ゆらぎ』は形あるものに、徐々にかたまって行く……
 幽子が生じ、その中よりついに起動幽子が生まれる……
 オリジナルの虫の起動幽子……

 この時の為に、ブラフマーは小さな鏡界を新たに作っていた。
 そこには、今は亡き虫の星系が存在していた。
 オリジナルの虫の起動幽子を転移させた……

 虫の起動幽子は、急速に増殖を始め、瞬く間に虫の艦隊が整備されていく。
 勿論ブラフマーが手助けしているのだが、虫はブラフマーを神として崇拝するように、記憶を操作されている。

 食料として、最低限の牧場惑星も虫の星系にはあったが、かつかつの食糧の量しか確保できない……
 食糧であるホモ・サピエンスを放牧させていたが、需要に供給が追い付かないのだ。
 
 神は食糧増産の為、強制的に二母性による単為生殖を啓示した。

 梵天ブラフマーは冷酷に見えるが、彼にとってはこのようなことはなんということもない。
 食肉家畜になんの哀れみがあるというのか……
 そう、彼はエラム史の禁忌ともいえる、家畜制度を与えたのだ。 

 画期的に食糧は増産されたが、それでも足りない、なにより美味くない。
 
 虫の種族は飢えていた、そして神は虫に啓示を下した……
 神を信じるなら、食料の豊かな世界へ導いてやろう、と……
 その世界は神を信ぜぬ者が支配している、汝らはその者どもを食料とせよ。

 虫の種族は、異教徒を神の為に喰らうべし、などというスローガンを叫んでいる。 
 『聖戦だ!神は我等に祝福を授けられた!』

 鏡界の中、虫の星系は増殖を始めた。
 膨大な虫の世界が、鏡界の中でひしめき始めた。

 ……勝つためにはあと少しだ、十分な数を揃えたら、後は使命を果たすのみ、神の摂理は守らねばならぬ……

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