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第二章 出会い
ブラダマンテさん
しおりを挟む奴隷女さんが、私にあてがわれた馬車に連れてこられました。
「リンドまであんたの奴隷として扱えばいい、娼館からリンドの奴隷商への返品だ、だから殺さないでくれよ、と言っても30デナリウスで買う者がいれば、誰にでも売ってくれとはいわれているから、まちがって殺しても30デナリウスだぜ」
「そんなこと、いたしません!」
「おい、奴隷女、こいつの機嫌をそこなうなよ、飯抜きになるぞ♪」
「いまから出発するが、かなり揺れるからな、あんた、尻が薄いから気をつけろよ♪」
傭兵さん、セクハラまがいの言葉を残して、ゲラゲラ笑いながら行ってしまいましたが……
気まずい……
まあ『鑑定』で、何もかもわかっているのですが……
なんともね……伝説の女性騎士の名前、『恋するオルランド』に登場する、ブラダマンテさんですからね……
しかも職業は『奴隷騎士』とあります。
本当は、先年、帝国に反乱を起こした辺境伯の娘さんのようで、反乱鎮圧後、弟を助けるために、皇帝の物になった方です。
帝国の筆頭魔導士の拘束魔法がかかっており、自決が禁止されています。
ブラダマンテさんの処女をいただいた皇帝は、約束は守りましたが、ブラダマンテさんの顔に大きな傷をつけ、大事なところを焼き、右手の筋を切断、リンドの奴隷商へ犯罪奴隷として下げ渡したのです。
リンドの奴隷商も扱いに困り、バヤンウルギー村の娼館なら、女なら誰でもよいだろう、僻地の傭兵相手に二束三文で売り飛ばしたのですが、大事なところを焼かれたブラダマンテさんでは、男の相手もできない……
返品してお金を返せ、という事になったのです。
で、ちょうどリンドに向かう傭兵がいたので、返金の3割を渡すという条件で、リンドへ送り返すことを頼んだ、と云う訳です。
基本的に二束三文の3割、とても安いのですが、ついでという事で引き受けたようです。
まったく……
でもね、ちょっと気になる事が『鑑定』にでていたのですね……
称号に転生者とあるのです……
一応名前でも聞いてみますか?
「私はユスティティア、貴女は?」
「……ブラダマンテ……」
私は『鑑定』を強化することにしました。
現在、お年は19歳、ラロッシュ辺境伯の次女として生まれ、幼き頃より剣術の才が認められ、その腕前はかなりの物のようです。
先年の帝国との戦いにおいて奮戦、居城であるラロッシュ城を戦死した父親の代わりに守り抜き、『ラロッシュの守護騎士』と呼ばれとか。
家臣が帝国の調略にかかり裏切り、ラロッシュ城は落城、切り死にを覚悟して帝国軍と切り結び、弟が捕縛され、助命を条件に剣をおろしたようです。
なんとも凄いお姫様ですね。
売買価格は30デナリウス、今の私の持ち金は収納の中にある金を換算すると、47デナリウス金貨と6キナリウス銀貨と2セステルティウス銀貨と3クァドランス青銅貨、1円足りませんがね。
お財布の中には15キナリウス銀貨、20セステルティウス銀貨、18アス青銅貨、20クァドランス青銅貨……支払えなくはないですね……
前世は……天道流の二刀小太刀術を学んだようです。
なるほどね……えっ看護婦さんだったの?32歳で死亡、交通事故だったのね……
防衛医科大学校医学教育部看護学科卒業……自衛隊の部隊勤務?……
右手の筋を切られているようですが、この方は天道流の二刀小太刀術を極めたようですので、多分左手も利き手のように動くはずです。
私とはえらい違いですね……人の為に頑張ったのですね……
自衛隊という以上、同じ日本人、この方、前世を覚えているのかしら……すこし試してみましょうか?
「とにかくなにか食べたほうがよさそうね……はい♪」
100円弁当リストから、『アジの竜田揚げ弁当』をそ知らぬふりをして差し出しました。
勿論、お手元、つまり割りばしが付いています。
一瞬、目を見開いていました。
そしてボロボロと涙を流し始めました。
「ありがとう……ございます……」
「とにかく、なんとか貴女を買い取るわ、帝国の犯罪奴隷だから解放はできないけど、『同郷』の方を見殺しにはできない、貴族のお嬢様のようだけど、私の奴隷として仕えてくれる?」
「はい……お願いします……」
「とにかく、悪いけどこの旅が終わるまでは、このままでね、扱いは奴隷の扱いとなるけど我慢してね」
「理解しております」
「早くお弁当を食べてね、この世界ではありえないものですから」
「あの……ユスティティア様、こんな『傷だらけ』の女ですが、構わないのですか?」
「構わないわ、早く食べてくれない?」
お箸をちゃんと使って、『アジの竜田揚げ弁当』を食べているブラダマンテさんでした。
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