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第十五章 起動幽子
なにも難しいことは無い
しおりを挟むオーサカホテル――川口居留地にあったホテル――に早朝こっそりと戻ってきました。
どうやら朝帰りはばれていない……
とはいかないみたいです。
なにやら物凄くお怒りの、四人のお嬢様たちが並んでいます。
「アリアンロッド様!性懲りもなく、再び娼婦を買いに行かれたのですか!」
「誤解ですよ!この方と飲んでいただけです」
私が山田五郎さんを指差しますと、
「殿方と一晩中!何とふしだらな!」
「誓ってそれ以上の事はありません!」
山田五郎さん、これはまずいと思ったのか、
「では本職はこれで、明日またお伺いいたします」
と、いうが早いか、走ってどこかへいきました。
「汚い!武士の風上にも置けぬ所業!士道不覚悟でしょうが!」
私の声は聞こえているはずなのに……まったく逃げ足の速い事……まぁわからんことは無いのですが……
とにかく今日は、ここで大人しくしていましょう……
「今日一日はどこにも行きません、ここでゆっくり静養いたします」
「皆さんは、日本観光などしていてください」
「寺山千代女さん、お春さん、悪いですが、私を訪ねてくる日本の方の、相手をしていてください」
静養を盾に、ホテルの一室に逃げるように籠りました。
疲れていたのでしょうね……寝ました。
起きたのは午後の二時を過ぎていましたね。
夢も見ませんでした。
私は西郷さんの言葉を、かみしめていました。
『とらわれると正しいことが正しくなくなるようです』
この言葉は正しい……真理と思います……
そして、そのようなことを思い浮かべられる思考……未来に必要なのは、このような思考が生まれる社会体制なのでしょう……
賢者の育成といえば、言葉が悪いのですが……
物質の世界を、輝ける世界にしているのは、精神の輝きなのでしょう……
たしかに六欲天の階層を上るには、世界の様相が変わる必要があります。
私は利己特性を克服し、世界を穏和にしていくことが、人類の滅亡を避ける道と信じています。
これはこれで正しいのです。
生物としての人類は、これで滅亡を逃れられるはずです。
しかし、人としての活力を維持するためには、女性体の単性生殖と、女性体の心に、求め合う男と女の精神を作り出すことと思っていたのです。
そしてこれも正しいと思います……
私は正しいと思って、とらわれていたのです……
『とらわれると正しいことが正しくなくなるようです』
このままいくと、ヴィーナスネットワークの世界が……正しくない世界……明日がなくなるかもしれない……
……違う……いま、こう考えていることが、とらわれているのだ……
『いまある』こと肯定すればいい……明日がくれば正しいのだ……そして明日は必ずくるのだ……
この幽子の世界は、思えば『いまある』のだ……
しかし、思えどもうまくいかないことが多々ある……『困難』に出会うのだ……
何を持って正しいというのか……
西郷さんは、『何が正しいか誰もわからぬもの』と云ったが、とらわれると正しくない、ならば、とらわれなければ正しいとなる……
『困難』とその名の物にとらわれる事、つまりは正ではない……
『困難』に出会わぬように、進めばいいのだ……
!
つまりは『楽な道』を行けばいい……
喜び歓喜しながら進めばいい……
そう、道はそもそも広く大きいのだ……
それを正しく見れないから、狭くて困難な道を行くのだ……そしてそれを是とする……
なにも難しいことは無い……説明の言葉も不要……ただ喜び、気楽な道を素直に行く……
この幽子の世界は存在し、存続させればいい……あれこれややこしいことが起こっても、案外簡単に事が運ぶなら、それは続ける価値がある……
今までの事、エラムでの出来事、テラでの出来事、苦しくつらかったが、案外にスムーズに事が進んだではないか……
なんでこんなウソみたいに進むのかと、疑問に思うこともあったが、私は必要なことを行っていたのだろう。
つまり、正しい大通りを、堂々と歩いていたようだ。
なるほどね……神の指し示す道は広く、目の前にあるものなのですね。
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