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第十三章 1875年の戦争

ブーディッカ婦人戦闘団

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 開戦と同時に、ドイツ帝国軍は怒涛のようにオランダ、ベルギーを蹂躙し、フランス国境を突破しました。
 ほぼシュリーフェン・プラン――第一次大戦のドイツのフランス侵攻計画――でしょう。
 色々いわれていますが、この時代、一挙にフランスを降伏に追い込むには、これがいいとは思います。
 ドイツ帝国陸軍の力と、いまのフランス陸軍の力とを考えると可能でしょう。

 まあパリまでは、無理かと考えます。

 1893年モデルのガトリング砲の図面を渡して、アメリカで大増産しているものを、大量に装備し、その運用方法を、近代戦に適用させたフランス帝国陸軍は、ドイツの勢いを止められるでしょう。

 しかし大モルトケは非凡です。
 これを陽動とし、フランス北東部を突破してきたのです。

 主力を、ほとんどベルギー方面に張り付けた結果、フランス北東部のフランス軍は兵力が足りません。
 そこでフランス陸軍は、ヴェルダン要塞に立てこもります。
 イギリス遠征軍も、こちらにはあまり展開していませんが、最精鋭のグレナディア連隊――近衛擲弾兵連隊、つまりは近衛兵の部隊――が残っていました。
 クリミア戦争でも勇戦した歴戦の部隊ですが……

 立てこもったのはフランスの三個師団、そしてイギリスの二個師団……ドイツは十五個師団……
 よくこれだけの予備兵力を温存していたものですね……

 多分、東部戦線は、オーストリア軍が守っているのでしょう……
 オーストリア軍相手なら、ロシア軍でも優位に戦闘できているでしょう。

 ベルギー方面はフランス陸軍主力と、イギリス陸軍のかなりの兵力が集結しています。

 なるほど……

 ドイツ陸軍は、軍の最精鋭部隊をここに集結させて、一気にパリ攻略を狙っているのでしょう……
 ヒトラーばりの博打ですが、もくろみ通りに進展しています。

 ナンシーに展開していた、ブーディッカ婦人戦闘団もヴェルダン要塞に籠りました。
 グラディス・アンブラー少佐が現在、戦闘団長として率いてます。

「クレア准将、ワキンヤン婦人戦闘団は、見事に初陣を飾りましたが、ブーディッカ婦人戦闘団は、より以上に困難でしょうね……」
「ヴェルダンの味方は、だらしないかもしれませんよ」

「……でもね……ここが正念場……ブーディッカ婦人戦闘団だけで、最精鋭のドイツ帝国陸軍、十五個師団を壊滅してもらいます」
「大モルトケに、一泡ふかせなくてはね」

 虐殺のそしりは、私が引き受けましょう……
「さて、ブーディッカへ閲兵に行きましょうか」
 ネヴァン号に乗ってヴェルダンへ、クレア准将も同行します。

 ヴェルダン……
 パリからドイツへ向かう主要街道にある、交通の要衝……
 当初、ここには英仏のかなりの兵力が駐屯していた場所、予定では、ここが主戦場と考えられていたのですが……

 ドイツは予想に反して、ベルギーから大攻勢をかけて、手薄な場所ゆえ、かなりパリの近くまで迫られたのです。
 そこでベルギー方面へ、主力を大移動させたのです。

 移動が完了しかけたころを見計らって、ドイツ軍の大攻勢が始まります。
 巨大な英仏の主力にたいして、七割の兵力でドイツ軍は善戦しています。
 その為、フランス北東部には、兵力が割けないのです。

 ヴェルダン要塞とは、ヴェルダン郊外に点在する保塁砲台群のことで、ドイツ軍に次々と、保塁砲台が占領されています。
 そして最後の一つとなったのがドーモン堡塁……そんな最終局面に、ネヴァン号は到着したのです。

 上空から見ると圧倒的ですね……
 ドーモン堡塁は、ドイツ軍の中に小さく浮かんでいる孤島のようです。
 そこへ、ネヴァン号は強行着陸しました。

 グラディスさんが団本部で待っていました。
「状況はどうですか?」

「このままでは時間の問題です」
「脱走兵が続出、ここのフランス軍は軍としてなっていません、簡単に降伏するのです」
 フランス軍は弱いですね……
 もっとも、精鋭部隊はベルギーですから……

「イギリス軍は?」
「ドーモン堡塁が、ここまで持ちこたえているのは、グレナディア連隊の奮闘ゆえです」
「それに彼らは、私たちを戦わせようとしません」

 ほぉ……見上げたジョンブル魂……グレナディア連隊ですか……

「物資は?」
「不足気味です」

「そろそろケリをつけますか……でも、その前にせっかくお茶を持ってきたのですから、ティータイムにいたしましょう……グレナディア連隊も招待しますか」
 ここへ来るとき、ついでにブーディッカ婦人戦闘団の皆さんにと、紅茶とお菓子を積めるだけ積んでたのです。

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