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第十章 聖夜其之一

ペテルブルクへ里帰り

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「ではちょっと行きますか?」
 マッケンジー夫人を呼んで、
「エカチェリーナさんを、ペテルブルクまで送ってきます、私はすぐに戻ってきます」
 と伝え、二人で転移しました。

 冬宮殿ですね、いまロンドンは一時ですから、四時ですか……夕食前ですね。

「突然で失礼します、娘さんも実家でクリスマスを過ごされた方がよいかと思いまして、つきましては娘さんから提案があるそうです」
「私は別室で、お茶でも呼ばれましょう」

 綺麗な女性が案内してくれ、お茶など出してくれましたが、その顔を見て驚きました。
 ソフィア・ペロフスカヤ……に面影が似ています。
 ただ、私の知っている写真より格段に美しい女ですが、多分本人なのでしょう。

 この女、アレクサンドル2世を爆殺した主犯です。
 この1874年、チャイコフスキー団――ロシアの秘密結社――に所属していたはず。

「貴女、チャイコフスキー団の団員でしょう、暗殺でもしたいのですか?」
「私は皇帝に肩入れしています、なので命をもらいますよ」

 真っ青な顔をしましたが、覚悟を決めたようで、
「チャイコフスキー団は解散しました、皇帝の改革で、ロシアは変わっていきます」
「信じろというのですか?」
「そう願っています」

「では、なぜ宮殿にいる」
「ロシアの未来を、皇帝の改革にかけて見ようかと……」

「少なくとも自らの力と汗で、明日を掴める世界になるでしょうね」
「別に貴女が注意しなくても、私が守っています」
「失礼ながら貴女は?」

「アリアンロッド・エンジェル」
「貴女が……」

「ロシアは私に代価を支払った、皇帝は血を吐く思いで、自らの娘を奴隷として差し出した」
「アリアンロッドはゆえにロシアを守る」

「私は嘘は嫌いだ、貴女の心は丸見えである」
「皇帝の視線を、望みのほう向けさせたいのでしょう」

「去りなさい、さもなければ、私の靴を舐めてもらいますよ」
「……」
「私に手籠めにされたいのですか?」

「お聞かせくださいませんか?」
「なにを?」
「世界をどうしようと、思われているのか?」
「明日のない世界に、明日をプレゼントするのですよ」

 私はこの女を引き寄せました。
 そして胸元に手を突っ込んで、
「これ以上聞くとこれではすみませんよ、代価は高いのです」

 私はソフィア・ペロフスカヤを解放しましたが、命を取らなかったのは、今日はクリスマス・イブだからです。

「狭い世界で、うじうじ迷ってはつまらないでしょう」
「貴女は賢い、視野を広げなさい」
「もし、私の女になる気があるなら、訪ねてきなさい、足を開く代価として、世界を見せてあげます、女奴隷としてね」

 エカチェリーナさんがやってきましたが、
「女官はどこへ……」
「逃げられちゃいました、胸を思いっきり握りましたから」
「色魔!」

「まったく……アリアンロッド様は……」
 とこぼしましたが、気を取り直して、
「先ほどの件、お父様がお願いすると……」

 アレクサンドル2世も、父親の顔を見せますね。
 不憫だったのでしょうね……
「では今晩、ロンドン時間で八時、こちらでは十二時に」

 やれやれ忙しい……
 マーブル・ヒル・ハウスに戻って、菓子パンを袋に詰めて、
「すこし外出します」
「こんどはどちらへ?」
 と、マッケンジー夫人が聞きます。

「日本公使館です、三人の少女に、手作りのパンを届けようと思ったのです」
「私もご一緒いたします、クレアさん、後は頼みます」

「女王陛下の姪ともあろう方が、見境なく少女のお尻を触られては、たまりませんから」
 ひどい云われよう……いくらなんでも……

「私は理解いたしました、アリアンロッド様にかかれば、自然と女の下着はずり落ちるのです」

 ……

「たとえ固いつぼみのような少女でも、華は開いてしまうようです、このことは神の祝福なのです」

 ……

 祝福?神様のプレゼントですか?
 このプレゼント、もらうと、とんでもないことになるのですけど……

 そもそも今日は、サンタさんになりたかっただけですが。

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