上 下
88 / 156
第十章 聖夜其之一

プレゼントは誰がもらうのか?

しおりを挟む

 マーブル・ヒル・ハウスに戻る車中で、エカチェリーナさんがため息をつきながら、
「まったく!クリスマス・プレゼントは誰がもらうのか、判らなくなりました……」

「人類がもらうのですよ!」

 疑いの視線が、私に向けられていますので、強く言いましたよ、それこそどうだ!とばかりに……

 さらに大きなため息が、その返事でしたが……

 ノエリさんは、旗色が悪いのを自覚しているのか、完全に部外者を押し通しています……

「この女カサノバ!策士!」
 お褒めの言葉と、とっておきたいところですが、今回の件については、強要したところがあります。

 でも……ネイティブ・アメリカンの人々にもチャンスを上げたかったのです……
 なんせ個人的には、嫌いではないのですから……勝手な思いですが。

「埋め合わせしてもらいますからね♪」
 怖いわ……これが一番怖い……

「お聞きしますが、埋め合わせって?」
「聖夜のクリスマス・プレゼント」
「はぁ?意味が分かりませんが……」

 ここでエカチェリーナさん、ものすごく真剣な顔になりました。
「アリアンロッド様、父と母の為にも……亡くなったお姉さまを……」

 ロシア皇帝アレクサンドル2世と、その妻マリヤ・アレクサンドロヴナ皇后のあいだの第一子、スヴェトラーナ・アレクサンドロヴナ大公女――本名は控えさせていただきます――の事でしょうが、六歳で亡くなった娘さんです。

「クリスティン・ハワード様のように……」
「それ以上は云わないでください……何が必要かはわかっているでしょう?六歳ですよ」

「……」
「それでも望むのですか?」
「分からないのですが……父母は仲が悪く……兄がなくなってからは……」
「エカチェリーナ・ドルゴルーカヤ公爵令嬢――アレクサンドル2世の後妻――ですか?」
「……」

「少なくとも母は落ち着きます、そしてさまよえる魂にも生きる喜びが……お願いします……その類まれなるお力で……」

「体を授けたとして、どう生きるのですか?ロマノフ王家の娘とは公表できないでしょう」
「兄の隠し子ということで……」

「ダウマー――アレクサンドル2世の長男ニコライ大公の婚約者、のちアレクサンドル3世妃――さんは了承しますか?」
「一家の者は、アリアンロッド様がどのような方かは承知しています」

「書簡を書いておいてください、夕食までに、二人で冬宮殿へ伺いましょう」
「皇帝が望むなら、明日のクリスマスの夜に伺いましょう」

 九八式装甲運搬車は、色々な思いを乗せてマーブル・ヒル・ハウスへ戻りました。
 ちょうど昼食に間に合ったようですね……

「さて食べましょう!皆さん、このようなささやかな物ですが食べてください、少なくとも、私の感謝が込められています」
 マッケンジー夫人が、
「アリアンロッド様のお手製です、遠慮なくいただくように」
 皆さん、困ったような顔をしています。

「皆さん、少なくとも、二つのジャムパンは大丈夫です」
「私は特にストロベリージャムのパンが好きです」
 と言って、イチゴジャムのパンを、二つに割って皆に見せ、そして食べて見せました。

「あら、おいしいわ!」
「甘い!」
 などの声が聞こえ始めます。

 スティック状の粉末ジュース、コーヒー、紅茶などが置かれています。
 インスタントの飲み物にも、慣れてもらわなくてはね……

 カレーパンとインスタントボージュで昼食をとっていると、クリスティンさんがやってきました。
 手にはチョココルネを持っています。

「おいしい?」と聞きますと、「おいしいに決まっています!」と言ってくれます。
 粉末ミルクを溶かして、「チョココルネにはミルクが合いますよ」と勧めます。

「アリアンロッド様、お慕い申しています、いついつまでも……」
「クリスティンさん、広い世界を見せてあげます、長く苦しい時も、もうすぐ終わりです」

 こんなことを話していると、エカチェリーナさんが準備を整えてやってきました。

しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

異世界転生目立ちたく無いから冒険者を目指します

桂崇
ファンタジー
小さな町で酒場の手伝いをする母親と2人で住む少年イールスに転生覚醒する、チートする方法も無く、母親の死により、実の父親の家に引き取られる。イールスは、冒険者になろうと目指すが、周囲はその才能を惜しんでいる

異世界転生したのだけれど。〜チート隠して、目指せ! のんびり冒険者 (仮)

ひなた
ファンタジー
…どうやら私、神様のミスで死んだようです。 流行りの異世界転生?と内心(神様にモロバレしてたけど)わくわくしてたら案の定! 剣と魔法のファンタジー世界に転生することに。 せっかくだからと魔力多めにもらったら、多すぎた!? オマケに最後の最後にまたもや神様がミス! 世界で自分しかいない特殊個体の猫獣人に なっちゃって!? 規格外すぎて親に捨てられ早2年経ちました。 ……路上生活、そろそろやめたいと思います。 異世界転生わくわくしてたけど ちょっとだけ神様恨みそう。 脱路上生活!がしたかっただけなのに なんで無双してるんだ私???

彼女の幸福

豆狸
恋愛
私の首は体に繋がっています。今は、まだ。

隠された第四皇女

山田ランチ
ファンタジー
 ギルベアト帝国。  帝国では忌み嫌われる魔女達が集う娼館で働くウィノラは、魔女の中でも稀有な癒やしの力を持っていた。ある時、皇宮から内密に呼び出しがかかり、赴いた先に居たのは三度目の出産で今にも命尽きそうな第二側妃のリナだった。しかし癒やしの力を使って助けたリナからは何故か拒絶されてしまう。逃げるように皇宮を出る途中、ライナーという貴族男性に助けてもらう。それから3年後、とある命令を受けてウィノラは再び皇宮に赴く事になる。  皇帝の命令で魔女を捕らえる動きが活発になっていく中、エミル王国との戦争が勃発。そしてウィノラが娼館に隠された秘密が明らかとなっていく。 ヒュー娼館の人々 ウィノラ(娼館で育った第四皇女) アデリータ(女将、ウィノラの育ての親) マイノ(アデリータの弟で護衛長) ディアンヌ、ロラ(娼婦) デルマ、イリーゼ(高級娼婦) 皇宮の人々 ライナー・フックス(公爵家嫡男) バラード・クラウゼ(伯爵、ライナーの友人、デルマの恋人) ルシャード・ツーファール(ギルベアト皇帝) ガリオン・ツーファール(第一皇子、アイテル軍団の第一師団団長) リーヴィス・ツーファール(第三皇子、騎士団所属) オーティス・ツーファール(第四皇子、幻の皇女の弟) エデル・ツーファール(第五皇子、幻の皇女の弟) セリア・エミル(第二皇女、現エミル王国王妃) ローデリカ・ツーファール(第三皇女、ガリオンの妹、死亡) 幻の皇女(第四皇女、死産?) アナイス・ツーファール(第五皇女、ライナーの婚約者候補) ロタリオ(ライナーの従者) ウィリアム(伯爵家三男、アイテル軍団の第一師団副団長) レナード・ハーン(子爵令息) リナ(第二側妃、幻の皇女の母。魔女) ローザ(リナの侍女、魔女) ※フェッチ   力ある魔女の力が具現化したもの。その形は様々で魔女の性格や能力によって変化する。生き物のように視えていても力が形を成したもの。魔女が死亡、もしくは能力を失った時点で消滅する。  ある程度の力がある者達にしかフェッチは視えず、それ以外では気配や感覚でのみ感じる者もいる。

おしとやかな令嬢だと思われていますが、実は王国内で私だけ無限にスキルを取得できるので、裏では最強冒険者として暗躍しています。

月海水
ファンタジー
表の顔はおしとやかな令嬢。 でも、裏の顔は赤いフードを被った謎の最強冒険者!? エルバルク家の令嬢、キリナは他に誰も持っていない激レアスキル『スキル枠無限』の適正があった。 この世界では普通なら、スキル枠はどんな人間でも五枠。 だからできることが限られてしまうのだが、スキル枠が無制限のご令嬢は適正のあるスキルを全部取得していく! そんなことをしているうちに、王国最強の人間となってしまい、その力を役立てるため、身分を隠してこっそりと冒険者になったのだった。 正体がバレないよう、こっそり暗躍する毎日です!!

彼はもう終わりです。

豆狸
恋愛
悪夢は、終わらせなくてはいけません。

悪役令嬢クリスティーナの冒険

神泉灯
ファンタジー
 HJネット小説大賞2018 一次選考通過。  第2回ファミ通文庫大賞 中間選考通過。  侯爵令嬢クリスティーナは十四歳の誕生日に、両親から王子との婚約が決まったと告げられたその時、頭にとんでもない激痛が走り、前世の日本での記憶を思い出した。  そして、その記憶と今世の状況に、愕然とする。  この世界は、前世で一度だけプレイしたことのあるファンタジー乙女ゲーム、ドキラブ学園の世界だった。  しかもクリスティーナはヒロインではなく、攻略対象との恋路を邪魔する悪役令嬢。  このままゲーム通りに進むと、破滅の未来が待っている。  修道院送り。国外追放。投獄。最悪、処刑。  彼女は破滅の未来を回避するために、頭をフル回転させ、対策を練った。  結果。ダメだった。  謂れの無い罪で糾弾され、婚約破棄され、断罪され、王国の処刑場、竜の谷に落とされたクリスティーナは、なんとか墜落死は免れたものの、今度は竜の群れに襲われて絶体絶命。  その時、颯爽と現れ助けてくれた青年ラーズは、ゲームクリア後に登場するオマケキャラ。  彼はとある剣を探していると言うのだけど、それは続編ドキラブ学園2に登場する武器。  しかしドキラブ学園2の物語が始まるのは、婚約破棄から一年後のはず。  続編ゲームがまだ始まっていない今の時期に、なぜラーズは一人で剣を探しているのか?  ラーズはクリスティーナが剣の所在地を知っていることに気付き、剣まで案内してくれれば、代わりに護衛をするという取引を持ちかける。  クリスティーナはそれを承諾し、彼女たちの剣を求める冒険の旅が始まった。  処刑から始まる悪役令嬢の冒険物語。  ヒロインの悪辣さにムナクソ悪くなると思います。苦手な方はご注意を。最後はちゃんとざまぁされます。

処理中です...