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第十章 聖夜其之一
プレゼントは誰がもらうのか?
しおりを挟むマーブル・ヒル・ハウスに戻る車中で、エカチェリーナさんがため息をつきながら、
「まったく!クリスマス・プレゼントは誰がもらうのか、判らなくなりました……」
「人類がもらうのですよ!」
疑いの視線が、私に向けられていますので、強く言いましたよ、それこそどうだ!とばかりに……
さらに大きなため息が、その返事でしたが……
ノエリさんは、旗色が悪いのを自覚しているのか、完全に部外者を押し通しています……
「この女カサノバ!策士!」
お褒めの言葉と、とっておきたいところですが、今回の件については、強要したところがあります。
でも……ネイティブ・アメリカンの人々にもチャンスを上げたかったのです……
なんせ個人的には、嫌いではないのですから……勝手な思いですが。
「埋め合わせしてもらいますからね♪」
怖いわ……これが一番怖い……
「お聞きしますが、埋め合わせって?」
「聖夜のクリスマス・プレゼント」
「はぁ?意味が分かりませんが……」
ここでエカチェリーナさん、ものすごく真剣な顔になりました。
「アリアンロッド様、父と母の為にも……亡くなったお姉さまを……」
ロシア皇帝アレクサンドル2世と、その妻マリヤ・アレクサンドロヴナ皇后のあいだの第一子、スヴェトラーナ・アレクサンドロヴナ大公女――本名は控えさせていただきます――の事でしょうが、六歳で亡くなった娘さんです。
「クリスティン・ハワード様のように……」
「それ以上は云わないでください……何が必要かはわかっているでしょう?六歳ですよ」
「……」
「それでも望むのですか?」
「分からないのですが……父母は仲が悪く……兄がなくなってからは……」
「エカチェリーナ・ドルゴルーカヤ公爵令嬢――アレクサンドル2世の後妻――ですか?」
「……」
「少なくとも母は落ち着きます、そしてさまよえる魂にも生きる喜びが……お願いします……その類まれなるお力で……」
「体を授けたとして、どう生きるのですか?ロマノフ王家の娘とは公表できないでしょう」
「兄の隠し子ということで……」
「ダウマー――アレクサンドル2世の長男ニコライ大公の婚約者、のちアレクサンドル3世妃――さんは了承しますか?」
「一家の者は、アリアンロッド様がどのような方かは承知しています」
「書簡を書いておいてください、夕食までに、二人で冬宮殿へ伺いましょう」
「皇帝が望むなら、明日のクリスマスの夜に伺いましょう」
九八式装甲運搬車は、色々な思いを乗せてマーブル・ヒル・ハウスへ戻りました。
ちょうど昼食に間に合ったようですね……
「さて食べましょう!皆さん、このようなささやかな物ですが食べてください、少なくとも、私の感謝が込められています」
マッケンジー夫人が、
「アリアンロッド様のお手製です、遠慮なくいただくように」
皆さん、困ったような顔をしています。
「皆さん、少なくとも、二つのジャムパンは大丈夫です」
「私は特にストロベリージャムのパンが好きです」
と言って、イチゴジャムのパンを、二つに割って皆に見せ、そして食べて見せました。
「あら、おいしいわ!」
「甘い!」
などの声が聞こえ始めます。
スティック状の粉末ジュース、コーヒー、紅茶などが置かれています。
インスタントの飲み物にも、慣れてもらわなくてはね……
カレーパンとインスタントボージュで昼食をとっていると、クリスティンさんがやってきました。
手にはチョココルネを持っています。
「おいしい?」と聞きますと、「おいしいに決まっています!」と言ってくれます。
粉末ミルクを溶かして、「チョココルネにはミルクが合いますよ」と勧めます。
「アリアンロッド様、お慕い申しています、いついつまでも……」
「クリスティンさん、広い世界を見せてあげます、長く苦しい時も、もうすぐ終わりです」
こんなことを話していると、エカチェリーナさんが準備を整えてやってきました。
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