82 / 113
第四十四章 五皇帝の年 思惑の錯綜
キュレナイカ戦役 其の一
しおりを挟む「まったく女々しい作戦だ!」
セウェルスは怒り狂っていました。
ユリアヌスが、ここまでローマ人らしくない作戦をとるとは、想像していなかったのです。
セウェルスの軍の補給ルートを小人数で襲撃、すぐに引き上げるのです。
海ではカルタゴ海軍の伝統なのか、ユリアヌスの軍船はなかなか強い、その結果、シチリアからの補給はかなり細くなっています。
しかも夜の闇に乗じて、のべつくまなく襲撃をかけてくるので、セウェルスの軍は夜の涼しいときに寝れない。
昼に午睡などするが結構熱く、兵士たちの体力が落ちてきています。
インドラには、この作戦がルシファーの知恵とは想像できましたが、ここまで有効とは思い至らなかったのです。
「くそっ!姑息な事を!」
セウェルスの言葉に、同調するしかありません。
「しかしプラウティヌスよ、このままではいかんな、一旦レプティス・マグナに戻るか?」
「それもありましょうが、この際アポロニアに進軍すると見せて、別働隊で一挙にキュレネを占領しましょう」
「アポロニアを占領しておきながら、キュレネを放置しているのは、ユリアヌスの軍が兵力不足の証拠、ユリアヌスはすぐに、アポロニアから船に乗って逃げるでしょう」
「さすれば逃亡先はニゲルの本拠地のシリア、そこからシチリアへ海賊行為を働くのは困難となります」
「シチリアから食料は難なく運べましょう、ユリアヌスに逃げられようとも、我等は勝利した事になります」
「するとヒスパニアなどの、日和見連中も我らに味方するでしょう」
「ひょっとすると、ガリアもなびいて来るのではありませんか?」
「そうだな、勝ち馬に乗るとしても、そのあたりが、戦後に大きな顔で要求できる時期だろう」
「兵力はさらに膨らむ……ニゲルはどうするかな、和睦など持ち出すかもしれんな、うっかりすると、アルビヌスも再び尻尾を振るかもしれんな」
そう決めると、セウェルスの軍事行動は早く、アポロニアを包囲したかと思うと、同時にキュレネに猛攻を始めました。
「ユリアヌス総督、セウェルス軍がキュレネ――リビア東部にあった都市――を攻撃しています」
ユリアヌスはこの時初めて、ひょっとすると、セウェルスに勝てるのではと、思い始めたのです。
娘のディディア・クララが云った、女神の言葉通りになったからです。
「多分セウェルスは、キュレネを攻めます」
「兵を入れないようにしておいてください、これは餌なのですから」
「無血開城となりますから、セウェルス軍の緊張はほぐれるはず、入城中にヌミディア女騎兵隊が奇襲します、かなりの被害を出させます」
「その時、アポロニアを包囲している、セウェルスの軍へ海からの襲撃と、アポロニアからの攻撃で穴をあけ、そのまま船に乗りに、オスティアに逃げなさい」
「そこから海の遊撃戦を続けて下さい、食糧や補給物資だけですよ、援軍などの軍団輸送船は見逃しなさい」
「食いぶちが多いほど、食糧不足は深刻になります、後はニゲルが矢面に立つでしょう」
セウェルスはキュレネを囲むと、降伏を勧告した。
すると、あっさりと城門は開かれた。
町からきた使者によると、やはりユリアヌスの軍はいないという。
その者の話によると、ユリアヌスの軍は千人を切るほどの、少数とのことであった。
「何ほどのこともないか」
セウェルスの呟きは、軍団の思いであり、ユリアヌスの軍は千人を切るほどの少数という話は、あっという間に兵士に広がった。
ユリアヌスの軍などたいしたことはない、卑怯なことしか出来ない腰抜けの集団……
0
お気に入りに追加
3
あなたにおすすめの小説
蘇生魔法を授かった僕は戦闘不能の前衛(♀)を何度も復活させる
フルーツパフェ
大衆娯楽
転移した異世界で唯一、蘇生魔法を授かった僕。
一緒にパーティーを組めば絶対に死ぬ(死んだままになる)ことがない。
そんな口コミがいつの間にか広まって、同じく異世界転移した同業者(多くは女子)から引っ張りだこに!
寛容な僕は彼女達の申し出に快諾するが条件が一つだけ。
――実は僕、他の戦闘スキルは皆無なんです
そういうわけでパーティーメンバーが前衛に立って死ぬ気で僕を守ることになる。
大丈夫、一度死んでも蘇生魔法で復活させてあげるから。
相互利益はあるはずなのに、どこか鬼畜な匂いがするファンタジー、ここに開幕。
姫神の女たち1 蓬莱梓巫女 【ノーマル版】
ミスター愛妻
ファンタジー
惑星蓬莱の執政官、クリームヒルトの毎日は多忙を極めていた。
大寒波のあと、四つの大司教区に世界は再編されたが、意外に市民生活は変わらない。
美子と茜は蓬莱を去ったが、ヴァランティーヌはそのまま残ることになった。
ヴァランティーヌに手を焼きながらも、クリームヒルトは聖ブリジッタ女子学園山陽校で、今日も青春を謳歌する。
百年紀のカレンダーのスピンオフ、『姫神の女たち』シリーズの第一短編集。
蓬莱グランドツァーの続編にあたります。
本作はミッドナイトノベルズ様に投稿していたものから、R18部分を削除、カクヨムで公開しているものです。しかしそうはいってもR15は必要かもしれません。
一話あたり2000文字以内と短めになっています。
表紙はティツィアーノ・ヴェチェッリオ フローラ でパブリックドメインとなっているものです。
ミコの女たち 第一短編集 テラ・メイド・ハウス 【ノーマル版】
ミスター愛妻
ファンタジー
惑星テラに設立された、テラ・メイド・ハウス。
すこしばかり官能的な女が多く所属する、こぢんまりとしたハレムではあるが、惑星テラを事実上支配している。
そこに所属する女たちは、それぞれの理由や立場から主の女奴隷として仕えている。
そんな女たちの、ささやかなで少々エロい物語。
惑星エラムより愛を込めて スピンオフ 『ミコの女たち』シリーズの第一短編集。
本作はミッドナイトノベルズ様に投稿していたものから、R18部分を削除、カクヨムで公開しているものです。しかしそうはいってもR15は必要かもしれません。
一話あたり2000文字以内と短めになっています。
表紙はルイス・リカルド・ファレロ 天秤座でパブリックドメインとなっているものです。
ミコの女たち 第三短編集 パープル・ウィドウ・コレクション 【ノーマル版】
ミスター愛妻
ファンタジー
ヴィーナス・ネットワーク・ワールドの有力惑星マルス。
移住に多大な貢献をした男たちの妻には、名誉刀自という位が贈られ、ささやかながら年金も支給されている。
しかし、彼女たちはお金には困らない。
地位も名誉も最大級、ゆえに彼女たちの影響力は計り知れない……有閑マダムといってよい、ご婦人方である。
そこへ惑星テラの後始末が、有閑マダムたちに、いつのまにかのしかかってきた。
テラの住民はご婦人方を特別にこう呼んだ。
パープル・ウィドウ、紫の未亡人と……
惑星エラムより愛を込めて スピンオフ 『ミコの女たち』シリーズの第三短編集。
本作はミッドナイトノベルズ様に投稿していたものから、R18部分を削除、カクヨムで公開しているものです。しかしそうはいってもR15は必要かもしれません。
一話あたり2000文字以内と短めになっています。
表紙はルイス・リカルド・ファレロ 天秤座でパブリックドメインとなっているものです。
姫神の女たち2 ユーノー・ソスピタ(維持する者)のニンフ 【ノーマル版】
ミスター愛妻
ファンタジー
ソル星系外惑星鉄道ステーションの中心、ガリレオ衛星ステーションは特殊な地位にあり、執政官府がおかれている。
執政官はガリレオ・カウンテスとよばれているが、その補佐にあたる管理官たちも、ガリレオ・ヴァイカウンテス――ガリレオ女子爵――とか、ガリレオ・バロネス――ガリレオ女男爵――とかいわれている。
ここはソル星系世界の、宇宙貿易の中心でもあり、なにかと忙しい。
そんな管理官たちの、日常を綴ってみよう。
百年紀のカレンダーのスピンオフ、『姫神の女たち』シリーズの第二短編集。
ガリレオ・カウンティスの続編にあたります。
本作はミッドナイトノベルズ様に投稿していたものから、R18部分を削除、カクヨムで公開しているものです。しかしそうはいってもR15は必要かもしれません。
一話あたり2000文字以内と短めになっています。
表紙はティツィアーノ・ヴェチェッリオ フローラ でパブリックドメインとなっているものです。
幻の女たち 第一短編集 ブリタニカ・レディズ 【ノーマル版】
ミスター愛妻
ファンタジー
惑星ブリタニカは、ブラックウィドゥ・スチーム・モービルが支配している、といって過言ではない。
この世界企業に君臨するのが、アウグスタと称される社主。
これは称号で、本来の名前はアリアンロッド・エンジェル、いわずと知れたネットワーク宇宙の最高権力者、ヴィーナスさん。
社主に仕えるのは、公妾と呼ばれる女たち。
ブラックウィドゥ・スチーム・モービル支配体制の中、列強の命運を背負う公妾グループを、人々はセパレイティスト・クラブと呼んでいる。
所属する面々は才色兼備、そんな中でも、ヨーロッパ美女の物語を集めた、惑星エラム 幻のカタカムナ スピンオフ 『幻の女たち』シリーズの第一短編集
本作はミッドナイトノベルズ様に投稿していたものから、R18部分を削除、FC2様、カクヨムで公開しているものです。しかしそうはいってもR15は必要かもしれません。
一話あたり2000文字以内と短めになっています。
表紙はルイス・リカルド・ファレロ 月のニンフ でパブリックドメインとなっているものです。
どうも、死んだはずの悪役令嬢です。
西藤島 みや
ファンタジー
ある夏の夜。公爵令嬢のアシュレイは王宮殿の舞踏会で、婚約者のルディ皇子にいつも通り罵声を浴びせられていた。
皇子の罵声のせいで、男にだらしなく浪費家と思われて王宮殿の使用人どころか通っている学園でも遠巻きにされているアシュレイ。
アシュレイの誕生日だというのに、エスコートすら放棄して、皇子づきのメイドのミュシャに気を遣うよう求めてくる皇子と取り巻き達に、呆れるばかり。
「幼馴染みだかなんだかしらないけれど、もう限界だわ。あの人達に罰があたればいいのに」
こっそり呟いた瞬間、
《願いを聞き届けてあげるよ!》
何故か全くの別人になってしまっていたアシュレイ。目の前で、アシュレイが倒れて意識不明になるのを見ることになる。
「よくも、義妹にこんなことを!皇子、婚約はなかったことにしてもらいます!」
義父と義兄はアシュレイが状況を理解する前に、アシュレイの体を持ち去ってしまう。
今までミュシャを崇めてアシュレイを冷遇してきた取り巻き達は、次々と不幸に巻き込まれてゆき…ついには、ミュシャや皇子まで…
ひたすら一人づつざまあされていくのを、呆然と見守ることになってしまった公爵令嬢と、怒り心頭の義父と義兄の物語。
はたしてアシュレイは元に戻れるのか?
剣と魔法と妖精の住む世界の、まあまあよくあるざまあメインの物語です。
ざまあが書きたかった。それだけです。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる